2024年 4月 26日 (金)

安倍が辞任する。弱々しい病人になってしまったことが何かやりきれない。記者会見を1時間見続け、私はノートにこうメモした。「やはり何も成し遂げなかった人だった」

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   安倍晋三首相が辞任する。私が知ったのは朝日新聞DIGITAL(8月28日 14時50分)の速報だった。

   朝、新聞各紙を買って、安倍が首相の座に残るのか、辞任するのかについて、どう報じているのかを見てみた。だが、「ワクチン全国民分確保へ」(読売新聞1面)など、コロナ対策が発表されるとは書いてあっても、「首相、きょう会見 健康状態・コロナ対策を説明か」(朝日新聞)としか書いていない。

   私が読んだ限りでは、昨日のスポニチだけが「首相続投」と書いただけだった。この不気味な沈黙が何を意味するのか、私には計りかねた。

   朝の『とくダネ!』(フジテレビ系)に出た産経新聞政治記者が、入院という選択肢はないが、持病を抑えながら続投するか、退陣の可能性もあるのではないかと、口ごもりながらいっていたのを聞いて、安倍首相は退陣に傾いているのかと思った。

   安倍首相に近い読売新聞と産経新聞は、続投ならば1面トップでやってくるはずだからだ。

  • すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)
    すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)
  • すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)

長いだけで何のレガシーも残さず、疑惑ばかりをばら撒き続けてきた安倍の罪はこれから検証されるだろう

   安倍一強を倒したのは、野党でもメディアでも世論でもなく、第一次政権と同じ自らの内なる病だった。

   私のオフィスには金子兜太の筆になる「アベ政治を許さない」のコピーが貼ってある。ここでも散々安倍の悪口を書き連ねてきた。

   長いだけで、何のレガシーも残さず、疑惑ばかりをばら撒き続けてきた安倍政権の罪は、これから様々なメディアで検証されるだろうが、一抹の寂しさを感じないといえば、嘘になる。

   決して、安倍を懐かしむわけではない。体調不良を押し隠して職務を遂行してきたことを賞賛する気もない。モリ・カケ問題や「桜を見る会」疑惑をなかったことにする気はさらさらない。

   数々の疑惑を国会で追及されても、質問には答えず、逆に恫喝する憎々しいまでの増上慢ぶりが消え、弱々しい病人になってしまったことが、私には、何かやりきれないものを感じるのだ。最後まで居丈高でいてほしかった。

NHKのカメラだけにしゃべり続けた「大叔父の佐藤栄作に似てきたな」と思った

   会見を見ていてまず思ったのは、「大叔父の佐藤栄作に似てきたな」ということだった。両頬のタレ具合がそっくりだ。

   佐藤は辞任の記者会見の時、新聞や民放を追い出し、NHKのカメラだけを残して、それに向かってしゃべり続けた。

   国民に語り掛けたのではない。自分の身勝手な主張を延々と話し続ける姿は、独裁者の成れの果てだと、テレビを見ていてそう思った。

   安倍は、プロンプターも使わず、原稿に目を落とすこともなく、読売が報じたように、直前にまとめたコロナ対策について語り、その後、辞任の弁を語り始めた。

   6月に再発の兆候があり、薬を投与されたが、8月に再発が確認された。

   新しい薬を投与されたが、予断を許さない。体調が万全でないために政治判断を誤ることがあってはならないと思い、辞することを決めた。

   悩みに悩んだが、冬を見据えて、新体制に移行するならこのタイミングしかない。佐藤のように高ぶることもなく、淡々と語った。

   記者から、レガシーは何かと聞かれ、東北の復興、400万人の雇用の創出、地球儀を俯瞰する外交などと述べたが、開始から20分ぐらいで、声がややかすれてきた。口が乾くのだろう、唇を舐めるようなしぐさをする。

   拉致問題や日ロ交渉に進展がなかったことを聞かれ、「痛恨の極み」といった。

   総理の資質について問われると、首相という職務は一人ではできない、大事なのは「多くのスタッフや議員たちとのチームワーク」と答えたのが、安倍らしかった。

   辞任は一人で考えて決めたという。憲法改正、地方創生、核兵器廃絶、IT化の遅れ、メディア対策などの質問が出たが、おざなりの答えしかしなかった。

   少し怒気をはらんだいい方をしたのは、「政権を私物化したのでは」と聞かれた時だ。強い口調で「私物化をしたことはない」といい切った。

   東京五輪については、私の後任がしっかり準備を進めていかなくてはいけないと、中止という考えはないようだ。

不思議だったのは、安倍の在任中に拗れに拗れた日韓関係と日中関係について、記者の誰も質問しなかったことだ

   不思議だったのは、安倍の在任中に拗れに拗れた日韓関係と日中関係について、誰も質問しなかったことだ。

   両国との関係は、これからの日本の命運を決めるかもしれない重要な問題である。安倍が、私のやり方は間違っていなかったというのか、至らないところもあったというのか、韓国、中国の要人たちもテレビを注視していたはずだ。

   ここで何らかの謝罪のようなものがあれば、両国関係はいい方向に進むかもしれないのに、残念だった。

   1時間、見続け、ノートにこうメモした。

   「やはり何も成し遂げなかった人だった」

   辞任を聞いた石破茂が「驚いた!」といったように、このタイミングで辞任する理由は、安倍の会見を聞いても腹に落ちてこない。

   体調がよほど悪いというのは、テレビからも伝わってきたが、それなら通院ではなく、1、2週間入院して、それからでも遅くはない。

   実はこういう裏があったんだと、メディアがこれから書きたてるのだろう。

   突然の辞任は、次の総選挙で自民党が勝利するためではないかといわれているそうだ。かつて大平正芳首相(当時)が衆参同日選挙の最中に急死し、自民党が大勝したことがあった。

   安倍が全身全霊をかけてコロナ対策を行い、志半ばで病に倒れ、辞任したことを旗印に、衆院選を戦えば勝てると読んでいるというのである。

   あまりにもバカバカしい見方ではあるが、逆に見れば、そこまで安倍首相は追い込まれていたということかもしれない。

   ようやく安倍政権という"悪夢"が終わったのだから、安倍の亜流政権だけは絶対つくらせてはいけない。そう心に決めて、安倍に「ごくろうさま」といおう。

ワクチンを来年早々から国民全員に接種するというが、承認を急ぐあまり安全性を不安視する声がある

   会見では、新型コロナウイルス対策も発表された。来年前半までに全国民分のワクチンを確保することに加えて、秋冬に向けて、季節性インフルエンザが流行することに備え、検査体制を拡充するなどの方針も盛り込まれた。

   中でも重要なのは、現在、新型コロナウイルスは第二類指定感染症になっている。それを見直すことである。これまでは、陽性になれば無症状でも軽症でも入院措置になり、医療費もかからなかった。だがこれが外され、自己負担ということになれば、病院へ行くことを躊躇する人が増え、感染者を増やすことになるのではないか。

   また、ワクチンを来年早々から国民全員に接種するというが、文春が報じているように、承認を急ぐあまり安全性を不安視する声がある。

   「ワクチン開発に本来4~5年かかるのは、それだけ多くの人に治験を行い、有効性と安全性を担保できるかを確認するためです。今回、早さが重視され過ぎているきらいがあります」(大阪健康安全基盤研究所の奧野良信理事長)

   また、医療費の増大につながるという問題もある。

   日本は、アメリカのファイザーとイギリスのアストラゼネカと、ワクチンが完成したら供給を受けることで合意した。

   文春によると、

   「米政府は、ファイザーと一億回分のワクチンを約20億ドルで契約している。1人当たり約4200円。その他製薬会社と米政府との契約は、1人当たり20―42ドルだという。日本は契約金額を明らかにしていないが、全額を新型コロナ対策として確保した予備費で賄う方針だ」

   東京大学大学院の五十嵐中客員准教授がいうには、日本の全ワクチン市場規模は年間2000から3000億円あり、価格次第だが、全国民に接種したらそれに匹敵するか、それを上回る5000億円にもなる可能性があるという。

   逼迫している医療費をさらに危機的状況に追い込まないかと心配になるが、それよりも、そんなに早くワクチンができるのかという疑問に、政府や厚労省はきちんと答える義務がある。

   さらに、経済回復を優先するあまり、安倍が会見でもいっていたように、高齢者と基礎疾患を持った人間だけを重症化させないことにコロナ対策を絞ることで、貧困層などへの目配りがおろそかになることが考えられる。

   日本がコロナの感染者も死亡者も少ないのは、政府が有効な政策を打ち出したり、専門家と称する連中が有意義な助言をしたりしたからではない。

   それを忘れて、コロナ対策をおざなりにすれば、今冬、痛いしっぺ返しにあうと思う。

「トランプ侮るべからず。逆転の可能性は十分ある」とニューズウイークが報じている

   こうした"大事件"の後に、フライデーの「『きゃりーぱみゅぱみゅ』に新恋人! イケメン年下俳優 葉山奨之と『夜のお散歩デート』目撃撮」でも、「『チュートリアル』徳井義実 美人アーティスト『チャラン・ポ・ランタン』ももと『お家デート』」でもないだろう。

   最後に、安倍の盟友・トランプの話題を紹介しておく。

   ニューズウイーク日本版が「トランプ逆転の可能性は十分ある」と報じている。寄稿しているのは、「米国人最高の教授」の1人といわれるサム・ポトリッキオ・ジョージタウン教授。

   理由は5つあるという。トランプの平均支持率はクリントン、ブッシュ息子、オバマより低いが、大きく劣ってはいない。

   中央政界での経験が長い候補者は過去11回の大統領選で9回負けている。また新型コロナウイルスのワクチン開発が一気に進み、経済が予想以上のペースで回復した場合はトランプ有利。

   今回の選挙は郵便による投票が多数を占める可能性があり、選挙の手続きが異例なものになればなるほど、トランプ勝利の可能性は上がる。

   トランプ支持者は、人口動態から見て将来の選挙はどんどん不利になることを理解しているから、彼らの投票率が予想以上に上がり、トランプを当選ラインに押し上げるかもしれない。

   トランプ侮るべからずだというのである。(文中敬称略)

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

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