2011年3月13日、福島沖15キロの海上で、たった1人、43時間も自宅の屋根の瓦礫に乗って漂流していた、農業の大谷孝志(遠藤憲一)がイージス艦に救助された。これは実話をもとに制作されたドラマである。この海上独りぼっちの実話を知らなかったので、全編息をのんで視聴したのである。自宅で妻の恭子(菊池桃子)と2人、大津波にさらわれ、途中で恭子は行方知れずになる。
2人にはリュックを背負って裏山に登った楽しい思い出があり、恭子はよく『星影のワルツ』を歌っていた。何気ない日々の幸せはもう帰ってこない。漂流する間、孝志は飢えと渇きと寒さと死への恐怖と、極限までつのる孤独感にさいなまれるが、時々通る船には気づいてもらえない。次第に顔がどす黒く汚れてゆく孝志を遠藤が渾身の演技で表現する。60歳の屈強な男とはいえ、辛かっただろう。
東京には妊娠中の娘・美穂がいて、テレビで福島の情報を見ながら居ても立ってもいられない。当時確かにテレビにくぎ付けだった。
沖合15キロもの海上の様子が不自然でなく、特に、福島第一原子力発電所の水素爆発の様子を、遥か沖合から孝志が目撃する場面には感心した。恐らくCGによる画面合成であろうが、薄く煙ったような原子力発電所の白っぽいたたずまいが、目に焼き付く。晴れた日で、どこまでも美しい靄がかかった海上風景が、深刻度レベル7の恐ろしい原発事故であったのだ。意義あるドラマである。(放送2021年3月7日21時~)
(黄蘭)
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「きょうの話題」は2021年3月17日をもって掲載を終了しました。
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