トヨタの現在の状況を見ていると、まるで太平洋戦争末期の軍用機生産工場に似ていると思う。人材不足の中を無理を強いて、全てを犠牲にして生産に邁進する、そんな感じだ。戦線を広げすぎて従業員は寝る間も惜しんで生産活動に駆り立てられている。まるで大東亜決戦体制。
この月月火水木金金の昼夜を問わない企業活動は、もはや正常の領域を逸脱していると言えよう。よく私はフランスのメーカーの話をするが、あちらでは1936年に労働者に4週間の有給休暇を義務付けたことから、毎年8月はほとんど生産を行わなかった。働け働けのサルコジ大統領に代わったから今後はどうなるか知らないが、少なくとも土日はしっかりと休んでいる。
匿名氏が指摘されている開発、設計に新技術の導入の件だが、プジョーの軍門に下る前のシトロエンは、この点でまさに世界をリードしていた。前輪駆動は今や自動車設計の常識だが、世界の大メーカーは1970年代まで手を出さなかった。ところがシトロエンは戦前から前輪駆動を手がけていた。空気抵抗の少ない車体、広い車内、軽い車重で昔から省エネに貢献してきた。
彼らの偉いところは、優秀な技術者に何ら制約を課すことなく、自由に開発、設計させたところにある。フランスの航空機のパイオニアである、ガブリエル・ヴォワザン氏の有能な部下であったアンドレ・ルフェーブル氏は1933年から1958年まで25年間、シトロエンの研究開発部門のリーダーとして、トラクション・アヴァンや2CV、DSなど歴史に残る傑作を世に送り出してきた。トヨタに足らないのは、歴史に残る名車(それも設計コンセプトが斬新な車)だ。トヨタだって、これらの名車を新車で買っているのにねえ。(トヨタ博物館のバックヤードツアーで見たぞ!)
不世出の名技術者、アンドレ・ルフェーブル氏は1964年に他界したが、その少し前に師匠ヴォワザンに感謝の手紙を送ったそうだ。師匠が親友のアンドレ・シトロエン氏に紹介してくれて入社できたことを一生感謝し続け、彼クラスの技術者なら他社を渡り歩くことが珍しくない中を、生涯をシトロエンのために献身的に働いたのだ。ここまで来るとドラマである。
トヨタにこのような人間ドラマがあるのかね?



製造品質に関しては、確かにトヨタは一貫してレベルが高いな、と納得させられるものがある。この記事の掲載意図は正直よくわからないのだが、書いてある内容、特に生産システムに関する説明は至極まっとうなだと感じるし、矛盾も感じられない。
トヨタの残る大きな課題は製造品質の前、設計品質・・・というより更に根っこである「開発・設計コンセプト」の弱さと、「新技術・新設計思想の導入に関するリスクテイクの小ささ」の方だと思われる。「良く出来ているがつまらない」といわれるゆえんだ。
ステイタス誇示という側面を別にすると、運転することに「感動」や「発見」がなければ、車は「強力だが不完全な手足」であり、公共交通機関と輸送効率で競合すべき存在に過ぎなくなってしまう。これでは、個人に積極的な購入理由が生まれず、車はただ必要にかられて購入するだけの存在になる。
ところで、この運転者が感じる「感動」や「発見」は開発・設計者の創造性に強く依存していることに、トヨタの経営陣は果たして気づいているのだろうか?車はインフラではない。立派なコンテンツである。より良い車を作る為に、開発・設計者の良きプライドを生かすことは重要なポイントではないだろうか。