2024年 4月 27日 (土)

テレビ局はコンテンツ、通信会社はインフラ 分業でビジネスチャンス広がる
(連載「テレビ崩壊」第3回/山田肇教授に聞く)

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   公共のものである電波(周波数)をテレビ局は既得権益として「私物化」しているのではないか。そんな厳しい声が上がっている。「放送(テレビ)」の特別視は不要で、携帯電話・ネットなどの「通信」と放送とは融合していくとの見方もある。「情報メディア経済学」に詳しい東洋大学の山田肇教授に話を聞いた。

「道州制」をローカル局は先取りすべきだ

「省庁関係の会議のときもラフな格好をしています」と話す山田肇教授
「省庁関係の会議のときもラフな格好をしています」と話す山田肇教授

――共著「ネットがテレビを飲み込む日」(洋泉社)の中で、「放送は通信の技術革新を受け入れよ」の章を担当されています。通信・ネットは、放送・テレビを飲み込むのでしょうか。

山田 そうは思っていません。放送を通信にのせる技術革新はしっかり理解する必要があります。しかし、通信会社とテレビ局は分業化したビジネスモデルの構築が可能だし、実際分業化していくだろうと思っています。

――どう分業化するのでしょうか。

山田 単純に図式的に言うと、テレビ局はコンテンツをつくることを柱とし、通信会社はコンテンツを流すインフラ提供に特化するということです。
   通信会社は現在、インフラ上に流す良質なコンテンツをなかなか見つけ出せないでいます。自前でつくるのは大変です。一方、テレビ局は地上デジタル化へのインフラ設備投資で経営が圧迫されたり、ネット有料配信の際の有効な課金システムを見いだせなかったりしています。この両者が協力し合えば互いに利益を得ることができるはずです。

――テレビ局は地上波放送はやめて、ネット配信に全面移行すべきだ、ということですか。

山田 いいえ、そうではありません。地上波放送自体は、一瞬にして何十万、何百万の人に情報を伝えることができる、非常に素晴らしい仕組みです。しかも視聴者は、テレビさえつけていれば自動的に情報を受け取ることができます。ネットで、極めて短い時間に100万人の人が同一コンテンツをクリックする。これは、かなり例外的なことと言えるでしょう。
   確かに、地上波放送などやめてネットで流せばいいという論者はいます。が、私は安全保障の観点からも、地上波、ネットと多様なインフラがあるのはいいことだと思っています。地上波放送はやめるべきではありません。しかし、地上波放送のための無線局建設・管理などは、各テレビ局が個別に行う現在のような非効率な形ではなく、一括で請け負うインフラ業者に任せ、テレビ局はコンテンツ作りに集中するということは十分あり得ると思っています。

――テレビ局にとって、コンテンツ制作に特化することは魅力的に映るでしょうか。むしろ、インフラも持ったこれまでの業態を守ろうと懸命なようにも見えます。

山田 そこは個人的には不思議なところです。ただ、経営学の観点にもあるように、過去の成功体験からくる「思い込み」に縛られているだけだ、とも言えます。新しいビジネスモデルへの移行のリスクが実際より大きく見えてしまう。今まで成功してきた、だからこれからもこれでいい、という訳です。
   ネットを敵視せず有効利用してコンテンツをもっと生かせるようにすれば、ビジネスチャンスは広がるはずです。ローカル局にとって県域免許制は今のビジネスを「守る」ものと受け止められているのかもしれませんが、邪魔になってくるのではないでしょうか。
   ネットを活用して、東京にいる大阪出身者に阪神タイガースの試合情報を配信したり、熊本出身者にサッカーJ2のロアッソ熊本の話題を送ったりすることには一定のニーズが見込まれます。爆発的に多い数ではないですが、積極的に情報を欲しがる、有料でも構わないといった層が存在します。
   また、地方分権で議題に上がる道州制を、ローカル局は先取りすべきだとも思っています。私が教えている博士課程の学生が「発見」したのですが、現状は、放送区域の人口に比例する形でローカル局の番組自主制作比率が決まっています。人口が少ないと、それだけ自主制作が少なくなり、東京キー局の番組をそのまま流している訳です。
   グルメの店紹介やイベント情報などを考えた場合、四国・香川県でテレビを見ているとして、東京情報よりも、隣県の愛媛や徳島の話題の方がはるかに身近だし、実際に出かける確率は高い。ここで、道州制のようにローカル局が協力して県域を越えて情報発信すれば、影響力は大きくなり、新たなビジネスチャンスが広がるでしょう。キー局への依存度も下がります。
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