震災と日本人 倫理学者 竹内整一
連載(10) 日本人の行動をサンデル教授が「誇りに思う」と感じたこと

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   「私は、略奪や買い占めに走らなかった日本の人たちをとても誇りに感じることができました。日本で今起きていること、日本の人々がとった行動や勇敢な行為について報道で知り、私は同じ人間として強く共感しました」。(「マイケル・サンデル 究極の選択 大震災特別講義 私たちはどう生きるか」NHK総合2011年4月16日21時~)での、ボストンの女子大学生の言葉である。

   「白熱教室」で有名になったハーバード大学の政治哲学者・マイケル・サンデルさんは、震災直後から、アメリカのハリケーン被災地で起きたことと比較しながら、「日本以外ではまず考えられないこと」として、「日本では、いくら街が廃墟になっても、人々は自制心をゆるめず、わが街のために結束している。被災後の市民のふるまいには胸を打たれました」とエールを送ってきていた(朝日新聞2011年3月16日)。

   原発を含めてそうでない評価や現実のあることも承知の上で、こうしたエールはそれとしてありがたく受けとめたい。私たちにとっても、サンデルさんたちが指摘したような精神・倫理のあり方は貴重な財産であり、その財産を元手に、失われたものの復旧・復興に立ち向かうことができるように思うからである。

私たちのうちなる肯定的なものを、より肯定するかたちで乗りこえる

   倫理学者の和辻哲郎は、日本人の思想文化の基本的性格は、モンスーン(季節風)の豊かな雨や日光の恩恵を受けながらも、とりわけ台風などに代表されるような自然の猛威にも襲われてきたところに育まれてきたものであり、それは、おだやかな自然を合理的に支配する西欧的な発想とも、きびしい自然との戦いを常に強いられる砂漠型の発想とも異なるものであるという。そのような風土的特性において、対抗的でなく受容的、征服的でなく忍従的な国民性が形作られ、さらに、そうした国民性の上に、「へだてなき結合、しめやかな情愛」といった共同体的心性が形作られてきたのだというのである。

   和辻の倫理学は「間柄」の倫理学といわれる。人間は常に人と人との間においてのみ人-間たりうる「間柄的存在」であって、けっして孤立した個人的な存在ではない。真の人間の生き方は、関係性や共同体に解消することのない自己を自覚しつつ、なお、その個的自己を否定して関係性や共同体のうちに生きるという二重性の中に求められるべきものだと考えられている。それは具体的には、事や人に、純粋・全力で関わろうとする「清明心」の道徳や「献身」、「慈悲」の道徳とともに、自敬の精神にもとづいた「高貴」の道徳としてとらえられている。

   和辻倫理学は一例であり、違うとらえ方もできるし、またそうしたものを含めて、日本人の倫理伝統のすべてが手放しに礼賛されるべきものではないだろう。そこには反省すべき問題点も多々あるし、そのことはこれまでにも指摘してきた。が、危急存亡に関わって「私たちはどう生きるか」が問われているような事態であればこそ、私たちは私たちのうちなる肯定的なものを、より肯定するかたちで乗りこえるべきではないだろうか。

   「特別講義」は、サンデルさんの次のような言葉で締め括られている。「私の願いは、国境を越えて交わした今日の議論が、たとえ、ささやかでも日本の皆さんへのはげみとなることです。日本の人々が行動で表した美徳や精神が、人間にとって、そして世界にとって大きな意味を持ったということ、それが再生・復活・希望につながるプロセスの一助になればと思います」。


竹内整一
たけうち・せいいち/鎌倉女子大学教授、東京大学名誉教授。1946年長野県生まれ。専門は倫理学・日本思想史。日本人の精神的な歴史が現在に生きるわれわれに、どのように繋がっているのかを探求している。著書『「かなしみ」の哲学』『「はかなさ」と日本人』『日本人はなぜ「さようなら」と別れるのか』『「おのずから」と「みずから」』ほか多数。3月25日に『花びらは散る 花は散らない』を新刊した。


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