2024年 4月 26日 (金)

「財政健全化目標は堅持する」 安倍首相は強調するが、その陰で...

   政府の中長期の経済財政に関する試算がまとまり、2015年夏までに策定する財政健全化計画の本格的な議論が始まる。これについて政府・与党内で、目標を複数にする案も浮上するなど議論の行方が見えにくくなっている。

   政府が公式に掲げる2020年度に「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)」を黒字にするという従来からの目標だけでなく、債務残高の国内総生産(GDP)比というような別の指標も併用しようという考え方だ。ただ、これには歳出削減を弱めたいとの思惑も見え隠れし、財政再建が遠のくとの懸念も出ている。

2020年度の目標達成の道のりは極めて険しい

財政健全化の道のりは険しい・・・(14年11月撮影)
財政健全化の道のりは険しい・・・(14年11月撮影)

   安倍晋三首相は2月12日の経済財政諮問会議で、「財政健全化目標は堅持する。計画策定に向け、検討を進めてほしい」と関係閣僚に指示した。2015年10月に予定していた消費税率の10%への引き上げを2017年4月に先延ばしたことで財政への信認が揺るがないよう、健全化の旗を降ろさない姿勢を改めて示したものだ。

   政府は健全化の指標として、国と地方自治体が社会保障費などの政策経費を、新たに借金せず、税金などでどれだけ賄えるかを示すPBを使ってきた。具体的には対GDPのPBの赤字比率を、2015年度は2010年度の6.6%から半減、2020年度に黒字化するという目標を掲げてきた。2015年度予算のPB赤字が16.4兆円で、GDP比半減の3.3%という目標をクリアする見通しだが、2020年度の目標達成の道のりは極めて険しい。

   内閣府が2月12日の諮問会議で示した試算によると、経済成長率が実質で2%以上の「経済再生ケース」で2020年度のPB赤字は9.4兆円、実質成長率が1%弱にとどまった場合の赤字は16.4兆円に上る。

   これに関し、この経済財政諮問会議では、高橋進日本総合研究所理事長ら民間議員が、PB赤字の対GDP比率を2016~20年度に毎年0.5%(単純計算で年2.5兆円程度)ずつ改善するべきだと提言した。これは、放っておけば毎年1兆円以上、5年間で6兆円増える社会保障費の削減が念頭にあり、経済成長で分母(GDP)を増やしつつ歳出を抑えて分子も小さくすることを組み合わせるという考えで、「それ(10%)以上消費税率を上げないという覚悟で、歳出改革に取り組まなくてはいけない」(高橋氏)と、歳出削減策に「聖域なく徹底的に見直す」と、踏み込む構えだ。

PBから債務残高の対GDP比率も重視する方向へ

   一方、歳出抑制には与党から反発が出るのは必至だ。小泉純一郎内閣時代、社会保障費を年間2200億削減するという枠をはめて国民の反発を買い、これが政権交代の一因になったとも言われる、いわくつきのテーマだ。今回、自民党は財政再建に関する特命委員会(委員長・稲田朋美政調会長)の議論を始め、4月末をめどに中間報告をまとめる方針だが、早くも内閣府の試算に対し「成長率の見通しが甘すぎる」といった声が相次いでいる。財務省などは「成長によって税収がどのくらい増えるかを示す税収弾性値や成長率など前提の数字を変えることで、税収見通しを底上げし、歳出カットを抑え込もうという狙いでは」(同省筋)と警戒する。

   さらにここにきて、財政健全化目標をPB1本から、他の指標を加えようという動きが出ている。具体的には債務残高の対GDP比率も重視しようという議論で、14年末に自民党の国土強靱化を唱えるグループが安倍首相に持ちかけ、首相自身、12月22日の諮問会議で「GDPを大きくすることで債務の比率を小さくすることになる。もう少し複合的にみていくことも必要かな、と思う」と、理解を示したという。歳出カットより、成長によるGDP拡大に軸足をおく主張といえるだろう。

   ただ、債務残高比率重視は、長期金利が名目経済成長率を下回る歴史的な低金利を前提にした面があり、国債の利払い費が極端に少なく見積もることによって、PBが赤字でも債務残高のGDP比は縮小するという「マジック」まがいの議論ともいえる。

一段の増税が必要との声も各方面から出る

   当然、将来金利が上昇に転じれば、債務残高GDP比も再び悪化するわけで、「短期的に改善しているように見え、歳出圧力が高まるようなら本末転倒」(エコノミスト)との批判が出るところだ。

   諮問会議の試算で、「経済再生ケース」の2020年度9.4兆円不足としても、消費税だけで埋めるなら税率3%強が必要という計算になる。甘利明経済再生相は「この5年間で消費税の引き上げは1回を基本に作業を進めたい」(2月12日の会見)と述べ、さらなる増税の議論は封印する構えだが、一段の増税が必要との声も各方面から出る。経済同友会は「消費税率を18年度から毎年1%ずつ上げ、17%に」、土居丈朗、鶴光太郎両慶大教授ら6人の経済学者・エコノミストによる公益財団法人「総合研究開発機構(NIRA)」も「2%前後の追加的な消費増税を」と提言しているといった具合だ。

   安倍首相は衆院予算委員会などで、2020年度のPB黒字化目標について「立場に変化はない」と繰り返しているが、増税、歳出削減、経済成長のどれをどのように組み合わせ、説得力のある具体案をまとめられるか。予断を許さない議論がこれから本格化する。

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