2024年 4月 24日 (水)

かつお節ピンチで「和食」の存続を危ぶむ声 入漁料高騰で漁場から「締め出し」の危機

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   日本のかつお・まぐろ漁船が、太平洋の赤道近くの水域で操業できなくなるかもしれない。背景には、かつおやまぐろを獲るためにかかる入漁料の急騰がある。

   海外まき網漁業協会によると、冷凍かつお・まぐろ類は年によって多少の増減はあるが、最近の10年はほぼ安定的に年間約20万トンを出荷している。その約80%はかつおで、日本で生産されるかつお節や削り節、かつおだしの調味料などの8割を占めるという。

  • 日本のかつお・まぐろ漁船、入漁料の高騰で南太平洋で苦戦!(画像は、海外まき網漁業協会のホームページ)
    日本のかつお・まぐろ漁船、入漁料の高騰で南太平洋で苦戦!(画像は、海外まき網漁業協会のホームページ)
  • 日本のかつお・まぐろ漁船、入漁料の高騰で南太平洋で苦戦!(画像は、海外まき網漁業協会のホームページ)

島嶼8か国、多額の入漁料を払ってくれる会社に「権利」売る

   かつおやまぐろの一大供給地となっている水域は、米グァム島の南側に点在する島嶼8か国(ミクロネシア連邦、パラオ共和国、マーシャル諸島共和国、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ナウル共和国、キリバス共和国、ツバル)の排他的経済水域(EZZ)にあたる。

   世界のかつお・まぐろ漁船は現在280隻で、このうち日本国籍は35隻。外国船と競い合って操業しているが、日本にとって、この水域は海外まき網の漁獲量の9割を占めている。ここから締め出されては、かつおなどが食べられなくなるばかりか、かつお節やかつおだしがつくれなくなるため、「和食」の存続を危ぶむ声すら漏れている。

   入漁料が高騰したきっかけは、島嶼8か国で構成するナウル協定加盟国(PNA)が2005年に、それまでの「年間定額方式」から、かつお・まぐろ漁船が「VD」(漁場に漁船が滞在できる権利)を購入する「VDS方式」に変更したことがある。

   「年間定額方式」では、日本は海外まき網漁業協会を通じてPNA諸国と2国間で入漁協定を結び、漁船1隻あたり年間約2000万円の入漁料を支払ってきた。操業日数の制限もなかった。

   値上がりに拍車がかかったのは2012年、そのVDS方式に「最低価格制度」を導入したことにある。12年は1日最低5000ドルだった入漁料が14年に6000ドル、15年には8000ドルに跳ね上がった。しかも、「8000ドルはあくまで最低価格ですから、実際にはそれより多い国もあります」という。

   海外まき網漁業協会の中前明会長は、「円安も加わり入漁料のコストはさらに上昇。1隻あたり年間で約2億円近くになり、4年前の約5倍になっています」と話す。

   さらに、島嶼8か国は収入の最大化に向けて、2015年からVDの入札制度を本格的に導入しはじめた。中前会長は、「入札制度はすでに一部の国が導入していて、PNAも推奨しています。この制度ではもはや国ごとの協定ではなく、多額の入漁料を支払える会社に優先的に権利を与える方式になっています。そうなると大きな船を所有して、多額の金銭が払える会社ほど多くのかつおが獲れることになるわけです」と説明。日本のかつお・まぐろ漁船では、太刀打ちできないと嘆く。

日本の漁船は小さく、競争力に欠ける

   対策として、日本のかつお・まぐろ漁船を大きくして、1隻あたりの漁獲高を増やせばいいのではないか――。そう思う人は少なくないはず。しかし、じつは日本のかつお・まぐろ漁船は、資源の管理・保護を理由に漁業法の規定で船の大きさ(トン数制限)が決められている。日本の標準のかつお・まぐろ漁船の大きさは約1000トンで、船の長さも短く、漁倉容積も小さい。

   ところが、中国や台湾、韓国、米国など海外の漁船は1800トン級が標準。漁倉も大きく、速力もあるうえ、魚群探査用のヘリコプターも搭載している。さらに、欧州の漁船は3200トン級の「スーパーセイナー」と呼ばれる大型船で操業しているのだ。とにかく、スケールが違う。

   「しかも、入漁料は漁船の大きさには関係ありませんから、大きいほうが圧倒的に有利。つまり、経済性や効率性からも不利な条件で国際競争を強いられているのが現状なんです」と、前出の海外まき網漁業協会の中前明会長は説く。

   VDS方式が導入されたことで、海外では1日あたりの漁獲量が増えるように漁船を大型化したが、日本はその波にも乗り遅れたということらしい。

   海外の大型漁船との競争や燃油コストの上昇、最近の安価な漁価水準と、かつお・まぐろ漁船を取り巻く環境は厳しく、近い将来に廃業に追い込まれる可能性もないとはいえないようだ。

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