緒形拳さんの急逝を悼んで、再放送された過去のドラマである。平成11年度文化庁芸術祭優秀賞受賞作品で、毎日が孤独で生きる意欲を失いつつある老人(緒形拳)と、愛に飢えて問題を起こし少年院に入れられていた少年(岡田准一)が、保護司(伊東四朗)を中にして知り合い、いつしか心を通わせる物語である。
ドラマの筋はとりとめがない。今見ると、携帯電話やビルの景観が既に現在と違っていて時代を感じる。緒形の作品としても、先に放送されたNHK広島放送局制作の「帽子」(脚本・池端俊策)の方がはるかに秀作であるし、画面が全体に白っぽくて侘しかった。
筆者が緒形拳の出演作品の中で最も好きなのは、1974年に制作された映画「砂の器」の若きお巡りさんである。正義感の強い草深い山陰の村の駐在警察官で、後に助けてやった子供に殺される悲劇の男。脚本が橋本忍と山田洋次、監督は、かの名匠・野村芳太郎。何より凄いのは脇役に佐分利信や笠智衆や渥美清が出ている贅沢な映画だ。主演は丹波哲郎と加藤剛、もちろん原作は松本清張の傑作である。差別の中にあったハンセン病患者の悲しい話である。
緒形は殺人鬼など、数々のドラマティックな役柄を映画で演じたが、化けた役よりも、彼の天性の優しい地が出たこの役がまことに素晴らしく、忘れがたい作品だった。これから老境の学者など、アメリカ映画に匹敵する名優の存在感が期待できたのに残念である。
(黄蘭)

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