2024年 4月 19日 (金)

長谷川洋三の産業ウォッチ
排出権取引:日商会頭が語る大きな変化

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「とにかく議論に加わるというのは大きな変化だと思う」

   日本商工会議所会頭の岡村正東芝会長は2008年3月6日東京・日比谷の東京商工会議所で、排出権取引(キヤップ&トレード)に反対してきた新日本製鉄の三村明夫社長と東京電力の勝俣恒久社長が5日開かれた政府の地球温暖化問題に関する有識者懇談会に参加したことについて感想を求めた私にこう答えた。

   鉄鋼、電力の両業界は、あわせると産業界全体の温暖化ガス排出量の約6割を占め、排出権取引を本格的に実現するには協力が不可欠。しかし両業界ではすでにかなりの省エネを進めており、一律に排出削減を求める排出権取引制度では国際競争上も不利になるとして導入に反対してきた。

   EU(欧州連合)では一足早く2005年に導入、米国の大統領選でも候補者が相次いで導入支持を打ち出しており、国際的な導入の流れが加速している。7月の洞爺湖サミットでも主要議題の一つに取り上げられる見通しで、福田首相もどうやって両業界を排出権取引議論の土俵に取り込むのか頭を痛めていた。

   「最初から議論に参加しないということだと話が進まない。しかし排出権取引だけに議論が終始しても温暖化ガス削減の議論とはいえない」――。岡村氏はこう指摘して全体のバランスがとれた議論を期待しているが、これまで政府として排出権取引を本格的な議論をしてこなかった日本は、この分野では世界から置いていかれた存在となっている。

   「日本が孤立するのは非常にまずい。欧州連合や米国とは歩調を合わせなければならない」――。有識者懇談会の座長に就任した内閣特別顧問の奥田碩トヨタ自動車取締役相談役は終了後の記者会見でこう述べ、サミットまでに排出権取引について一定の方向性を出す考えだ。もっとも奥田氏も「産業界はだいぶ真ん中に寄ってきたが、今のところはまだ排出権取引に反対だ」とコンセンサス作りが必ずしも順調に進んでいるわけではないことを認めている。

   これまでの国内の排出ガス削減は、企業や産業分野別に自主的な削減目標の積み上げが中心であり、排出量の総量規制と、企業の排出量に上限を設ける排出権取引には依然として抵抗感が残る。しかし福田首相は2050年に世界の排出量を現在の半分にする目標を発表しており、産業界のまとめ役として奥田氏のリーダーシップに大きな期待をかけているようだ。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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