2024年 5月 1日 (水)

枝川二郎のマネーの虎
サブプライム問題のウソ・ホント(1) 米国の住宅事情、現実は想像よりもずっとよい

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   今回からサブプライム問題について何回か書いていこうと思う。まずは問題の発端となったアメリカの住宅ローンについて。

   アメリカの住宅事情はさぞ大変な状況なのではないかと思う向きもあるようだが、とんでもない。現実は日本人が想像するよりもずっとよい。

8割が他人事のサブプライム問題

   まず、アメリカの庶民の家が広く立派になった。平均寿命100年超を誇るアメリカの家は立派な社会的インフラである。火事や地震に強い構造に加え、メンテナンスに力を入れるので家が長持ちするのだ。サブプライム問題で差し押さえが増えているが、最悪の場合でも銀行は空き家にすることだけは避けるしかない。全体としてアメリカ人は今後も良い住宅に住み続けることができるだろう。

   次に、アメリカでは住宅の価値がほとんど下がらないということがある。そのため家を売ると何がしかのカネを手にできる場合が多い。なかには「家を売ってもローンの返済に足りない」不幸な家庭もあるが、住宅価格がかなり下がってきた2008年3月末時点でもそのような家庭は880万(住宅ローンを借りている家庭5100万の約17%)程度。現時点では8割以上の家庭にとってサブプライム問題は他人事なのだ。最も悲観的な予測、つまりピークから住宅価格が3割下がるという事態となっても、住宅ローンを借りている6割の家庭は安全圏にあるとされる(Calculated Riskのデータによる)。

   一方、わが国で「家を売却すればローンが完済できるだけでなく現金も手にできる」というような住宅に住んでいる人はそれほど多くない。かなりの人は住宅ローンの奴隷として返済を続けていくしか手がない。日米のどちらの状況がマシかは明らかだ。

家の鍵を銀行に送る「ジングルメール」が増えている

   さらに、アメリカではノンリコース・ローン(物件を返せば完済とみなされるローン)が一般的なので、住宅ローンの返済ができなくなった場合には「家をあきらめる」という選択肢がある。で、最近増えているのが「ジングルメール」だ。これは、家の鍵を銀行に郵送することを意味する。家(の鍵)といっしょに住宅ローン債務とも「さよなら」してしまう、というのだ。

   サブプライム・ローンでは、貸しやすくするために当初の返済は金利のみ、といったものが流行したが、ジングルメールでとくに大きなメリットを受けるのがこのタイプだ。元本返済が始まる前にジングルメールを送って引き払ってしまえば、住んでいた期間は割安の家賃を払っていたのと同じことになる。ほとんど詐欺みたいな話だが、法律上の問題はない。(ジングルメールを出した人は、その後のクレジット審査が厳しくなるが、破産や差し押さえなどとは異なり、2、3年待てばきれいに戻る。そのほか、細かく言うといろいろな例外があるが、ここでは原則論を述べた)。

   現在「ジングルメール」方式が主流になっているわけではない。さすがに一般人にとっては心理的抵抗が大きいやり方だからだ。しかし、差し押さえなどの法的処理に比べて早く物件を処分できるため、借り手のみならず金融機関さらには経済全体にとってもメリットがあるという見方も出てきた。今後注目すべき動きである。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。


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