米マサチューセッツ工科大学(MIT)は2011年4月25日(米国東部時間)、同大のデジタル技術の研究・教育機関「MediaLab」)(メディアラボ)の所長に起業家の伊藤穣一氏(44)を選任したと発表した。発表文では「メディアラボを前進させるには完璧」と伊藤氏の実力を絶賛。ニューヨーク・タイムズ紙の記事でも「人の良さを引き出すのに長けている」との人物評が掲載されている。伊藤氏は日本でもIT関係者の間では広く知られた存在でもあるが、どのような人物なのか。メディアラボは1985年設立。グーグルのストリートビューの前身のサービスや、途上国向けの「100ドルラップトップPC」、アマゾンの「キンドル」に使われる「Eインク」といった、ネット業界では先駆的な技術を開発してきたことで知られている。伊藤氏は4代目の所長に就任することになる。大学を2回中退ディム・オライリー氏(左)と対談する伊藤穣一(右、07年撮影)伊藤氏は京都市で生まれ、4歳から14歳にかけて米ミシガン州で過ごした。中学・高校は東京のインターナショナルスクールやアメリカンスクールに通い、米タフツ大学に進学。同大を中退し、シカゴ大学に入り直したが、やはり中退している。伊藤氏は、日本のインターネットの黎明期から技術の普及を進めており、97年には、米タイム誌の「サイバーエリート」、01年には世界経済フォーラム(ダボス会議)の「明日のグローバルリーダー」のひとりに選ばれている。ネット上の著作物の利用を促進する団体「クリエイティブ・コモンズ」の最高経営責任者(CEO)を務めていたほか(現在は「会長」)、オープンソースのソフトウェア開発を支援する「モジラ財団」の理事としても知られている。さらに、40か国以上で投資を行っており、画像共有サービスの「フリッカー」、ブログ用ソフトの「シックス・アパート」、ツイッターなどの有名企業にも、かなり早い段階で投資をしてきた。日本では、ツイッターに出資しているデジタルガレージ(東京都渋谷区)の共同創業者・取締役としても知られている。この経歴から、ニューヨーク・タイムズでは、今回の決定を「世界有数のコンピューター研究所としては異例の決定」と、驚きをもって報じている。メディアラボ創設者のニコラス・ネグロポンテ教授は、同紙の中で、「ジョーイ(伊藤氏の愛称)は、他人の良さを引き出すのに長けている。こんな44歳は見たことがない。同世代の大半は、自分のことと、自分のキャリアで手一杯だろう」伊藤氏のリーダーシップを絶賛。同教授は、MITの発表文の中でも、「メディアラボを前進させるには完璧」とコメントしている。「ビジョンが一つになり、魔法が生まれる」ここ数年ではメディアへの露出は減少気味だったが、最近の例では、朝日新聞夕刊の連載「メディア激変」に、3月22日と23日の2回にわたって登場。福島第1原発をめぐりツイッターで拡散した誤報を、ツイッターで訂正し続けたエピソードを披露。「ツイッターは正しい情報の増幅装置として機能した」と述べているほか、自らが活動拠点をドバイに移したことについて、「中東は文化もすごく違い、(クリエイティブ・コモンズの普及が)なかなか進まなかった」と、普及対象に近い場所に住んだ方がいいという考え方を明かしている。伊藤氏は、ブログの中で「既に多くの企業がラボのスポンサーだが、実際に時間を一緒にここで過ごすことで、僕らのビジョンが一つになり、魔法が生まれるということを確かめたい」と、所長就任への意気込みをつづっている。
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