2024年 3月 29日 (金)

歌うたびに思い出される「ふるさと」の風景 楽園はがれきの下に【岩手・釜石】

演奏に合わせて合唱する被災者のみなさん=釜石市鵜住居町の日向2A仮設団地で
演奏に合わせて合唱する被災者のみなさん=釜石市鵜住居町の日向2A仮設団地で

(ゆいっこ花巻;増子義久)

   「うさぎおいし かのやま こぶなつりし かのかわ ゆめはいまも めぐりて わすれがたき ふるさと/いかにいます ちちはは つつがなしや ともがき あめにかぜに つけても おもいいづる ふるさと」―。9日、釜石市鵜住町の仮設団地の談話室から涙まじりの歌声が流れた。東日本大震災以来、被災地のあちこちで歌われ、これからも歌い継がれるであろう、あの「ふるさと」…。


   いわてゆいっこ花巻の「ゆいっこお茶っこ」カーがこの日、向かったのは支援の手が余り届いていない鵜住居町の日向(ひかた)地区。「歌を歌って元気になってもらおう」と釜石市内の音楽ボランティア「アイビーの 会」(山崎巽会長、会員11人)の3人が同行した。ギター担当の金崎昭文さん(70)は大槌町で自宅を流され、母親を失った。「愛用のギターも何もかも。 これは震災後、東京のミュージシャンのグループが贈ってくれました」


   「愛燦燦」「月の砂漠」「22歳の別れ」「夜明けのスキャット」「アメイジング・グレイス」「影を慕いて」…。キーボード、ギター、ボーカルの3人が次々に歌を披露すると、手狭な談話室に被災者のみんなの少し遠慮がちな歌声が響いた。「さあ、今度は皆さんと大合唱ですよ」と山崎さん。「青い山脈」「上を向いて歩こう」に続き、フィナーレは「ふるさと」。


   「この辺りは歌そのままの楽園みたいな土地だった。それが津波に全部さらわれてしまった。みんな瓦礫(がれき)の下に消えてしまった。親戚もたくさんの茶飲み友だちも…」古川トキさん(81)はこう言って涙をぬぐった。まわりも涙声になった。ギターを抱えながら、金崎さんがポツリとつぶやいた。「歌うたんびに涙がこぼれてしまいます。でも、そのまなうらに懐かしい故郷の風景が浮かび上がってくるんです。で、意地でもあの故郷を取り戻して見せるんだ、と。歌の力ってすごいと思います」


   「ふるさと」は今日この日も被災地のどこかで歌われているにちがいない。そして、本当の復興が実現するまで、ずっ~とずっ~と…。被災地でこの歌を聴いていると、約100年前に作られたこの文部省唱歌がこれほどまでに心を込めて歌われたことはこれまでなかっ たのではないか、とそんな気持ちにさせられてしまう。「アイビーの会」の仮設訪問はこれから本番を迎える。

金崎さんは万感の思いを込めて「ふるさと」を演奏した=釜石市鵜住居町の日向2A仮設団地で
金崎さんは万感の思いを込めて「ふるさと」を演奏した
=釜石市鵜住居町の日向2A仮設団地で


ゆいっこ
ゆいっこネットワークは民間有志による復興支援団体です。被災地の方を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資提供やボランティア団体のコーディネート、内陸避難者の方のフォロー、被災地でのボランティア活動、復興会議の支援など、行政を補完する役割を担っております。
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