2024年 4月 20日 (土)

東京の舞台美術家が続ける「似顔絵ボランティア」【岩手発】

震災体験を語りながら、似顔絵を描いてもらう被災者たち=釜石市鵜住居町日向D仮設団地の談話室で
震災体験を語りながら、似顔絵を描いてもらう被災者たち=釜石市鵜住居町日向D仮設団地の談話室で

(ゆいっこ花巻;増子義久)

   「絵描きの端くれに何ができるだろか。最初はとても不安だったが、今ではそれが杞憂(きゆう)だったとホッとしています」―似顔絵ボランティアを続けている東京都在住の水谷雄司さん(54)はそう言って絵筆を走らせた。昨年11月に続いて2回目の被災地訪問。今回は「とうわボランティアの家」を拠点に21日から5泊6日の日程で釜石市や大槌町の仮設住宅を回った。


   今回の震災体験には遠く及ばないものの、水谷さんも失職などに伴う家族離散という「喪失感」を過去に味わったことがあった。それだけに身内に犠牲者を抱えたうえ、着のみ着のまま投げ出され被災者の辛さは痛いほど伝わってきた。10数年前、オーストリアのウイーンで1年ほど絵描き修行をしていた時のことを思い出した。「おれの顔を描いてくれよ」と人懐っこいヨーロッパ人からの所望が相次いだ。「これなら自分にもできそうだ」


   被災地に足を踏み入れて、その惨状に息を飲んだ。とくに思い出がいっぱい詰まった写真類を1枚も持ち出せない被災者がほとんどだったことにショックを受けた。「写真の代わりに大事にしたい」「将来、自分の遺影として飾ってもらいたい」…。水谷さんの前には順番を待つ長い列ができた。「亡くなった母親にそっくり。自分がこんなにも母親似だったということを初めて知った」。80歳近い被災者を描いた時、こう感謝された。来てよかったと心底思った。


   「顔の中は情報の宝庫。みなさん、明るい笑顔を振る舞おうとするが、震災の辛い体験は表情の中にくっきり刻まれている。似顔絵を描きながら、逆にこっちの方が教えられることが多い」と水谷さん。こう謙虚に語る水谷さんだが、職業はれっきとした舞台美術家。2年前にはその年の最優秀作品に与えられる第37回伊藤熹朔賞を受賞している。


   そんなことはおくびにも出さない水谷さんが別れ際に行った。「似顔絵を描いてあげるのではありません。描く側の自分の方が被災者の方々から、震災体験を含めた人生の勉強をさせていただいているのです」。



ゆいっこ
ゆいっこネットワークは民間有志による復興支援団体です。被災地の方を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資提供やボランティア団体のコーディネート、内陸避難者の方のフォロー、被災地でのボランティア活動、復興会議の支援など、行政を補完する役割を担っております。
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