iPS細胞「初の臨床応用」に疑義浮上 本人の釈明も二転三転

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   「ハーバード大学の森口尚史客員講師がiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床応用を実施」ー。読売新聞が2012年10月11日付朝刊で報じたこの「スクープ」記事に次々と疑惑が浮上した。

   「スクープ」を受けて共同通信や日本テレビなどが後追いし、J-CASTニュースも読売の記事を前提に、緊急治療のルールが日米で違うことをテーマにした「iPS細胞使った治療が米国で実現」という記事を11日夜にサイト上に掲載してしまった。

ハーバード大が関与を全面否定

   読売の一面トップの特ダネ報道から一夜明けた12日。毎日新聞は同日付の朝刊で「『初のiPS臨床応用』否定 米の大学『無関係』」という見出しの記事を掲載し、読売自らも「ハーバード大『森口氏と協力関係ない』」という内容の記事を報じた。

   二つの記事によれば、森口氏は臨床応用の成果発表を予定していたロックフェラー大学での米財団主催の国際会議(日本時間10月11日)の場に現れず、発表は中止に。主催者は会場から森口氏の研究内容をまとめたポスターを撤去し、その理由を「研究内容の正当性に疑義が生じた」と述べたという。

   さらに同氏が所属するはずのハーバード大学は

「森口氏は1999年から2000年にマサチュ-セッツ総合病院の客員研究員だったが、その後は同病院やハーバード大とは関係がない。同氏の臨床研究はハーバード大や同病院の倫理委員会により承認されてはいない」

との声明を発表したとされる。

   両記事とも森口氏のコメントが付いており、

「ハーバード大学には在籍しているのは事実であり、臨床応用も大学の手続きに沿って行った。なぜこんな事態になったのか全く分からない」

と本人は同大の声明内容を全否定したという。

   世界初の成果が一転しかねない異例の事態をめぐり、テレビ各社は昼のニュースなどで大々的に扱った。臨床応用を「承認」したとされるハーバード大がその事実を否定していることに加え、森口氏本人が主張する肩書きについても所属先との食い違いを指摘。ハーバード大の現役講師であると主張する森口氏は「日本では東京大学の講師」と話すものの、東大の説明では講師ではなく東大医学部付属病院の特任研究員だという。さらに森口氏が医師免許を取得していない事実も明らかにした。

   臨床応用は事実か否か、ホテルで森口氏に8時間、話を聞いたというテレビ朝日記者はニューヨークからの現地リポートで取材後の感想をこう話した。

「森口氏の説明は時間とともに変わっていて、正直、何が本当なのか分かりませんでした。(中略)最初はアメリカで医師免許を持っていると説明していましたが、それが医師助手に変わり、持ち歩いていると言っていた助手の免許も提示を求めると、日本に置いてきたと発言を変えました」
「私が一番不可解だったのは成功した1例目の手術をしたとする今年2月14日にアメリカに入国していたことを説明できるはずのパスポートを最後まで見せてくれなかったことです。そしてハーバード大が出したとされる手術の暫定承認の書類も、『日本にはある』と言って、(中略)結局説明を裏付ける書類などは一切ありませんでした」

白旗あげた読売

   森口氏への「偉業」への疑惑が深まる中、「iPS初の臨床応用」をスクープ記事として掲載した読売新聞は12日付夕刊で事実上の「白旗」をあげる。

「iPS細胞移植に関する森口氏の話はうそだと確信している」
「マサチュ-セッツ総合病院では、だれ一人として、そんな移植は受けていない」

   ハーバード大当局者のこうしたコメントを盛り込んだ記事の横に、「『iPS心筋移植報道』 事実関係を調査します」という見出しの記事を一面に掲載した。

   その記事は、

「本紙記者は、事前に森口氏から論文草稿や細胞移植手術の動画とされる資料などの提供を受け、数時間に及ぶ直接取材を行った上で記事にしました」
「森口氏は本紙記者のその後の取材に対し、『(取材に)話したことは真実だ』としていますが、報道された内容に間違いがあれば正さなければなりません」

とし、

「現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします」

と結んでいる。

姉妹サイト