2024年 4月 16日 (火)

千代の富士の命を奪った「すい臓がん」 生存率7%「最悪がん」でも予防できる

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   元横綱千代の富士の九重親方(本名・秋元貢=あきもとみつぐ)が2016年7月31日、すい臓がんのため東京都文京区の東京大学付属病院で死去した。61歳。2015年9月、すい臓がんの手術を受けたことを明らかにし、闘病生活を送ってきた。亡くなる1か月前の名古屋場所には部屋の稽古に姿を現し、力士らに声をかけたが、周囲は急激にやせた姿に驚いた。

   現役時代は、身長183センチ、体重125キロ前後の小兵ながら大型力士を豪快に投げ飛ばす相撲が人気を呼んだ。精悍な顔つきと鍛えあげた筋肉で「ウルフ」と呼ばれた大横綱も病魔には勝てなかった。すい臓がんとはいったいどんな病気なのか。

  • 「ウルフ」と愛された千代の富士関(写真:山田真市/アフロ 1987年5月14日撮影)
    「ウルフ」と愛された千代の富士関(写真:山田真市/アフロ 1987年5月14日撮影)
  • 「ウルフ」と愛された千代の富士関(写真:山田真市/アフロ 1987年5月14日撮影)

「発見しにくい」「転移しやすい」「治療が難しい」

   すい臓がんは、「早期発見しにくい」「転移しやすい」「治療が難しい」「生存率が低い」と悪条件が4つもそろい、「最悪のがん」と呼ばれる。国立がん研究センターの最新の統計によると、すべてのがんの「5年生存率」の平均が62.1%なのに、すい臓がんは7.7%と、あらゆるがんの中で最も低い。2番目に低い胆のう・胆管がんが22.5%だから、いかに群を抜いて悪質かがわかる。ちなみに「10年生存率」になると4.9%まで下がる。

   これまでに多くの著名人が比較的若い年齢で命を落としてきた。2016年1月、ジャーナリストの竹田圭吾さん(享年51)が亡くなったが、死の直前までテレビ出演や本を通じすい臓がんとの闘病生活を公開、話題になった。ほかにも次の方々が亡くなっている(敬称略・カッコ内は享年)。

   歌手青江三奈(54)、実業家スティーブ・ジョブズ(56)、俳優パトリック・スウェイジ(57)、歌舞伎俳優坂東三津五郎(60)、安倍晋三首相の父親安倍晋太郎(67)、元巨人選手土井正三(67)、元大関大麒麟将能(69)、ジャーナリスト黒田清(70)、俳優夏八木勲(74)......。

   なぜ、これほど悪質ながんなのだろうか。日本消化器病学会などの「すい臓がん」のウェブサイトによると、すい臓は長さ20セントほどの小さな臓器だ。食物の消化を助ける「すい液」の分泌と、インスリンやグルカコンなど血糖値を調節するホルモンの分泌という2つの大事な役割を果たす。

   すい臓は胃の裏側の体の深部にあり、他の臓器に囲まれているため、がんが発生してもレントゲン検査などでは発見しにくい。また、すい臓がんの多くは中を通る「すい管」という部位に発生するが、すい管はリンパ管や血液とつながっているため、がん細胞が周辺の臓器や体の遠い部位まで転移しやすい。

自覚症状がなく、見つかった時は手遅れ

   その上、すい臓がんには特徴的な自覚症状がない。症状として腹痛、黄だん、腰や背中の痛み、食欲不振、体重減少が挙げられるが、胃炎やすい炎の場合も同じ症状になる。すい臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、よほどがんが進行しないと症状がでにくい。小さなすい臓がんの場合は、腹痛や黄だんなどの症状が出ないことが多く、発見時にはすでに手術ができない状態が多いのだ。

   頼みの綱はがん検診による早期発見、早期診断だが、他のがんでもよく行なわれる腹部超音波(エコー)検査と血液検査では、すい臓がんの早期発見率が低いのが現状だ。「コンピューター断層撮影法」(CT)が比較的有効とされるが、撮影のために使用する「造影剤」には、重篤な副作用リスクがあり、気軽に何度も受けられるものではない。MRI(核磁気共鳴画像法)を利用した「MRCP」という検査が、早期発見にある程度有効とされている。

   より高度な検査方法として「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」(ERCP)や「超音波内視鏡」(EUS)があるが、実施している医療機関が少ないうえ、費用が高額だ。また、ERCPは稀に急性すい炎を引き起こす可能性があるため、「気になるからちょっと検査をしたい」という使い方がしにくい。

   ジャーナリストの竹田圭吾さんの場合も、著書によると、ふだんから健康に気を使い、定期的に人間ドックを受けていたにもかかわらず検査の時は発見されず、その直後にすい臓がんと診断された時は、かなり進行した状態だった。

予防法は糖尿病を防ぐ食生活と運動習慣だった

   では、どうやって予防すればいいのだろうか。すい臓がんになりやすい危険要因がいくつか明らかになっている。まず、タバコがよくない。喫煙者が発症するリスクは、非喫煙者に比べ、男性は1.6倍、女性は1.7倍だ。

   また、燻製や加工肉、血糖値の上がりやすい食品を多くとることもリスク上昇につながる。逆にマグロやイワシ、サンマなどの青魚をたくさん食べ、魚に含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)という不飽和脂肪酸を多く摂取すると、発症リスクが3割減るという報告がある。

   さらに、肥満が発症リスクを増加させる。BMI(肥満度を表す体格指数)が30以上になると、標準体重の人に比べ発症リスクが男性で3.5倍、女性は1.6倍に上昇する。逆に、運動習慣がある人はない人に比べ、リスク低下がみられることが明らかになっている。

コーヒーと緑茶は効果があるが、お酒はダメ

   これらの危険要因は、みんな糖尿病のリスクと同じなのだ。実はすい臓がん患者の26%は糖尿病患者というデータがある。糖尿病の男性は、すい臓がんの発症リスクが健康な人に比べ2.1倍、女性でも1.5倍高い。すい臓がんのほとんどは、すい臓が炎症を起こす「すい炎」が原因で発症する。そして、すい炎は血液中に糖分が増える(糖尿病の現象)ことによって起こる。つまり、すい臓がんの元をたどると、糖尿病に行きつくのである。

   だから、中高年になって急に糖尿病を発症したり、食生活や生活習慣には問題がないはずなのに急に血糖値が悪化したりした人は、すい臓がんを疑って精密検査を受けた方がいい。

   言い換えると、糖尿病を予防するような食事や運動など生活習慣のすべてが、「最悪のがん」すい臓がんの予防につながっている。また、コーヒー(1日3杯未満)や緑茶を飲む習慣も予防効果が期待できるという。ただし、アルコール類は、飲むとすぐ顔が赤くなる人は控えた方がいい。アルコールを分解する酵素を持たない人のすい臓がん発症リスクは、タバコを吸う場合と合わせると、10倍に上昇するからだ。

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