2018年 7月 17日 (火)

老化・病気のカギを握るテロメア ヨガとジョギングが健康長寿にいい理由

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【クローズアップ現代+】(NHK)2017年5月16日放送
生命の不思議テロメア 健康長寿は伸ばせる!

   いつまでも若く、元気でいたい。――そんな健康長寿の夢のカギを握るものとして、最近注目を浴びているのが「テロメア」だ。細胞の中にある染色体の先端にあり、「命の回数券」と呼ばれている。細胞分裂を繰り返すたびに短くなり、これが老化と深い関わりを持っている。

   このテロメアの長さを伸ばすことができれば、老化を遅らせ、がんなどの病も防ぐことができるという。番組では10人近い各国の研究者を取材、テロメアをめぐる生命の不思議さと、健康寿命を伸ばす方法を紹介した。

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人間は「命の回数券」を1万5000枚持って生まれる

   人間はなぜ老いるのか。そして、若さを保つにはどうすればいいのか。この問いに正面から向き合い、注目されている生物学の本が2017年1月、20か国以上で同時出版された。2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞した米国の生物学者エリザベス・ブラックバーン博士が書いた『テロメア・エフェクト 細胞から若返る!』だ。博士はテロメア研究の第一人者で、1000人を超す科学者たちの報告をまとめ、「健康寿命はのばすことができる」という最新研究の到達点を示した。

   ブラックバーン博士「健康長寿を手に入れるための重要な要素。それはテロメアです。病気にかからず、有意義に人生を楽しめる年数に、テロメアという部分が関わっているのです」

   そのテロメアとは、一体何なのか。私たちの体を形づくる37兆個の細胞。生きているかぎり分裂し、入れ代わり続けている。例えば皮膚の細胞は1、2か月で新たな表皮に入れ代わる。この細胞分裂に深く関わっているのが、細胞の染色体の先端にあるテロメアだ。正体は、塩基という化学物質。細胞が分裂するたびに少しずつ数が減り、短くなる。生まれた時は、約1万5000個ほどだが、35歳で約半分に減少。6000個を下回ると染色体が不安定になり、2000個になると細胞がこれ以上分裂できなくなる「細胞老化」状態に陥る。テロメアが減ると新たな細胞ができなくなるため、「命の回数券」と呼ばれる。

   番組では、一人一人のテロメアは実際どれくらい減っているのか、37~43歳のアラフィフの男女10人の血液を採取し、白血球のテロメアを調べた。その結果、同じアラフィフ同士でもテロメアの長さはばらばら。35歳相当の長い人から83歳相当の短い人まで大きな個人差が出た。一体、何がこの差を生むのか。米国の最新の研究によって、「心理的なストレス」がテロメアの減り方を早めていることが解明された。家族を介護している女性を対象に調査を行ったところ、介護の年数が長いほど、テロメアが減って短くなっていた。また、一般の人を集めた面接実験で、面接官があえて無愛想な態度を取ってストレスをかけ、それをどう感じたか面接の前後に聞き取り調査した。すると、面接が始まる前から強いストレスを感じる心配性の人ほどテロメアが短かった。

テロメアが減るとがんや認知症になる

   テロメアが減少し短くなると、がんなどの深刻な病気が起きることが明らかになってきた。テロメアとがんとの関係を研究している、東京都健康長寿医療センター研究所の相田順子医師がこう説明する。

「40代以降のがんの主な原因がテロメアの減少にあると考えています。食道がんの患者から、がん細胞の近くにある細胞を取り出し、テロメアを調べました。すると、テロメアが年齢平均より大幅に減り、短くなっていたのです。テロメアが短くなると、染色体が不安定になってくるので、遺伝子の変異が起きやすくなり、がんになりやすいというふうに考えられます。食道がんのほかに、口腔がん、すい臓がん、皮膚がんもそうです」

   さらに、米国の研究ではテロメアの減少が認知症に関係していることがわかった。米ハンティントン医療研究所のケビン・キング医師が語る。

「2000人の脳の画像とテロメアを分析したところ、テロメアが減り短くなった人ほど、脳が萎縮していたのです。特に、記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著でした。海馬が縮小すると、認知症のリスクや脳機能が衰えるリスクが高くなります。テロメアの短縮が、脳の老化に深く関係しているのです」

   では、テロメアを伸ばすにはどうしたらよいのだろうか。実は、テロメアは年を重ね、細胞分裂のたびに短くなっていく一方だとされていたが、その常識を覆したのが、ブラックバーン博士たちが発見した酵素「テロメラーゼ」だ。テロメラーゼは、テロメアが短くなるのを遅らせたり、さらに伸ばしたりする働きまであるのだ。博士はこの画期的な発見でノーベル賞を受賞した。発見当時、人類が何千年も待ち望んだ「夢の不老不死薬かもしれない」と騒がれた。現在、日本でもテロメラーゼ入りのサプリが約1万2000円(30錠)ほどで売られている。しかし、博士はサプリでテロメラーゼを外からとることは勧めない。

ブラックバーン博士「私は、サプリには賛成できません。長期的に試用されて(安全を確認されて)いないからです。もう1つの理由は、テロメラーゼが過剰になると害があるからです。テロメラーゼは心臓病や認知症などの病気のリスクを低下させますが、残念ながら過剰になると、逆に、特定のがんのリスクを高めてしまいます」

   マウスを使って背中にテロメラーゼを人工的にたくさん作らせる実験をすると、確かに皮膚は若返ったように見えるが、それと同時にがんがたくさん出来ることが分かったからだ。もろ刃の剣なのだ。

「夫婦仲良く、周囲の人と良好な付き合い」が大事

   テロメラーゼは体の中で自然に増やす方法がいいという。博士が推奨したのは、「筋トレよりもジョギングなどの軽い有酸素運動を週に3回程度」「野菜や海藻を中心とした食生活」「1日7時間以上の睡眠」、そして「パートナーや周囲の人との良好な付き合い」という極めて当たり前の生活習慣だ。

   一方、もっと積極的にテロメアを伸ばす方法の研究が米国で進んでいる。その中でも最も広く行なわれているのがめい想(ヨガやマインドフルネス)だ。番組では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のヘレン・ラブレツキー教授が開いているヨガ教室を紹介した。

ラブレツキー教授「マントラ(ヨガの呪文)を唱えながら指先を動かし、頭の中に光がさし込むような光景を思い浮かべます。これを40代以上の女性たちに毎日12分、2か月にわたって続けてもらいました。すると、劇的な効果が上がりました」

   ヨガ教室の実験に参加した1人、カタリナ・グロードさん(61)は、20年近く認知症やうつを患う両親の介護を続け、心身ともに疲弊していた。動悸(どうき)が本当にひどく、おさまらず、夜中に目が覚めて息を吸うのすら苦しいときがあったという。しかし、めい想を2か月間続けたところ、動悸がすっかり収まり、夜もぐっすり眠れるようになった。カタリナさんら実験の参加者23人のテロメラーゼの量は、何と平均で43%も増加した。ラブレツキー教授にとっても想定を超える結果だった。

ラブレツキー教授「まったく未知のことで、とても意外でした。ストレスを受けると交感神経が働き、体の緊張が高まります。逆に、リラックスさせる副交感神経の働きは低下します。めい想によって、2つの神経のバランスがよくなり、テロメアによい影響を与えたと考えられます。めい想は、4秒間かけて息を吸い、4秒間かけてはき出します。この呼吸をしながら、花、ろうそく、夕日などを見つめます。1日10分から始めるといいでしょう」

テロメアが短くなると、細胞は大事な仕事をさぼる

   米国予防医学研究所のディーン・オーニッシュ所長は、日常の生活習慣を全般的に変えることで、テロメラーゼを上げる方法を考案した。がん患者にめい想も含めて、次のプログラムを5年間実践してもらった。

   (1)まず有酸素運動。1日30分のウォーキングを週に6日行う。

   (2)次に野菜中心の食事。動脈硬化を防ぐ、オメガ3脂肪酸が豊富な野菜や豆類などを中心にすえ、そうした食材を使った調理法も学ばせる。

   (3)そして、週に1度のカウンセリング。グループのメンバーと対話を重ね、家族や地域の人間関係の大切さを再認識してもらう。

オーニッシュ所長「愛情は大切です。孤独で気分が沈んでいる人はテロメアが短く、3倍以上も病気になりやすく、早死にする傾向にあります。この生活習慣を5年間続けてもらったところ、参加者のテロメアは平均で10%も伸び、がんの進行も遅らせることができたのです」

   こうしたテロメアの不思議さについて、MCの武田真一アナが、テロメアや老化について研究している石川冬木・京都大学大学院教授と、予防医学が専門でめい想にも詳しい石川善樹医師に聞いた。

   ――人はなぜ老いるのか、その謎を解く鍵がテロメアにあるのですか。

石川冬木教授「テロメアが短くなると、細胞はやらなければいけない仕事をさぼってしまいます。例えば皮膚の細胞はコラーゲンを分泌し、皮膚に張りを作るわけですが、テロメアが短くなるとそれをしません。だから年を取ると皮膚がたるみ、しわができるわけです」

   ――テロメアは、ストレスによって縮まり、さらには病気にも関係しているという報告がありますが、どういうことですか。

石川冬木教授「例えば、タバコをたくさん吸うことを考えましょう。タバコをたくさん吸うと、それがのどや肺の細胞のストレスになり、テロメアが短くなります。すると、細胞がやるべき仕事をしませんから、だんだんと息が苦しくなり、場合によっては肺がんができたりします。テロメアの短小化はそういった恐ろしい病気につながると考えられています」

テロメアの長さで寿命が完全に決まるわけではない

   ――めい想(ヨガ)が若さを維持するのによいということですが、これは予防医学の観点からはどういう理屈なのですか。

石川善樹医師「意外に思えるでしょうが、近年、めい想は真剣な科学の対象になっています。まだメカニズムは不明ですが、最近、めい想がストレス軽減など健康に効果があるという報告が相次いでいるため、病院などでもめい想を取り入れるところが増えています。今回面白いのは、めい想が細胞レベルでも効果があることが分かってきた点ですね」

   ――しかし、テロメアが友人やパートナーとの人間関係にも影響するというのはどういうことなのですか。

石川善樹医師「21世紀の予防医学の大発見が、『孤独はたばこと同じくらい健康に悪い』ということです。千葉大学の近藤克則先生たちが、つながりが豊かであればあるほど、健康で長生きだという報告をされています。運動やめい想は、自分でやるので効果は分かりますが、人と人との関係が、まさに細胞レベルにまで影響する、これは本当に面白い知見だと思います」

   ――テロメアは、私たちの日々の生き方に関係しているという可能性があるということですね。予防医学にはどんなインパクトがあるのですか。

石川善樹医師「注意してほしいのは、テロメアの長さで寿命が完全に決まるわけではないということ。健康を決める要因は、100も200もあり、テロメアはその指標の1つでしかありません。私たちは最新の研究に弱いですが、裏返すと、最新は検証があまり進んでいないということです。私たち研究者は、最新よりも最善の情報を見てくれと言います。今回のテロメアで言うと、運動、食事、そして、人とのつながり。昔から言われてはいることばかりです。こういう基本を大事にしてほしいです。テロメアの測定を何回も繰り返し、それに一喜一憂する必要はないと思います」
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