2024年 4月 24日 (水)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
NYの「例外」スタテン島に行ってみた(その3)

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   「トランプ支持の旗を掲げる家と、反トランプの旗を掲げる家が、隣同士に並んでいるよ」――。町の人がそう教えてくれた家の前に行ってみると、1軒の家の前で家主が庭仕事をしていた。

   その町は、ニューヨーク市スタテン島の南岸にある。この島は、マンハッタンから無料のフェリーで南西に25分。極端に民主党寄りのニューヨーク市のなかで、例外的にトランプ支持率が高い。

  • トランプ支持者の多いスタテン島の住宅に掲げられた「反トランプ」の旗
    トランプ支持者の多いスタテン島の住宅に掲げられた「反トランプ」の旗
  • トランプ支持者の多いスタテン島の住宅に掲げられた「反トランプ」の旗

Trump Not My President とMake America Great Again

   島の面積は、香川県の小豆島ほど。島でフェリーを降り、電車に40分間、乗る。この辺りの町は、2016年の米大統領選でトランプ氏への投票率が80%近かった。

   男性の家の前に建てられたポールには、上に星条旗、そのすぐ下に紺色の地に白抜きで「Trump Not My President(トランプ 私の大統領ではない)」と書かれた旗が翻っていた。「Trump」の文字は、大きな赤のバッテンで消されている。

   旗を見上げながら、「お隣の家はトランプ支持なんですね」と声をかけると、「そう。うちがこの旗を掲げたら、隣も旗を掲げたよ」とその男性、ヴィンセント(68)が笑顔で答える。

   右隣の家に、その日、旗は掲げられていなかった。強風の日に取り込んでしまったらしい。

   「それともうちの旗のせいかな」と笑い、ヴィンセントは続ける。

「隣は、『Make America Great Again.(アメリカを再び偉大に)』と書かれた旗だ。America IS great.(アメリカはすでに偉大な国だよ)。トランプは、政治家でもなければ、軍人としてこの国に仕えたこともないビジネスマンだ。そんな人間に言われる筋合いはない。いいかい? 私はベトナム戦争で戦った退役軍人だ。警官として21年間、ニューヨーク市に仕えもした」

   2017年2月に安倍首相がトランプ大統領を訪ねた時の印象を、ヴィンセントはこう話す。

「安倍首相はトランプ氏と比べ、ずって洗練されていて、教養がある。国民の信頼もあるだろう。私は自分の国の大統領を、恥ずかしく思っている」

   トランプ支持者が圧倒的に多いこの町で、どんな思いで旗を掲げているのだろうか。

「自分の主張を表現できることを嬉しく思っているよ。アメリカ人として当然の権利だからね。『その旗、いいね』と声をかけてくれた人がいたよ」

   ヴィンセントがしばらく戻ってこないので、妻(62)が様子を見に家から出てきた。

   彼が、「旗のことで声をかけられたんだ」と話すと、妻が笑顔で答えた。

「夫がインターネットでこの旗を見つけて、大喜びしていたの。『買ってもいいけど、ちゃんと掲げてちょうだいよ』って頼んだわ。私もまったく同感だから」

「島民は変わり者」という見方への憤慨

   トランプを支持する隣の住人との間に、亀裂が生じていないのか。

   「亀裂? ま、ちょっとな」とヴィンセントが笑う。

   妻は言う。

   「隣の住人に、『トランプは環境問題も二の次だし、あなたの子供の将来を滅茶苦茶にするのよ』って言ったら、黙ってたわ。I told him to shut up.(黙んなさいよ、って私が言ったんだけどね)。彼のことは昔からよく知ってるし、私は彼の母親くらいの年齢だから」。

   ヴィンセントは、反トランプの旗のことで嫌がらせを受けたことはない、と言う。

「トランプに投票した人の多くは後悔して今、頭を抱えているんじゃないかな」

   彼の自宅のすぐそばの家の前にも、反トランプの集会でよく叫ばれるスローガンが書かれたサインがあった。

「Here We Believe Love is Love No Human is Illegal...Women's Rights are Human Rights...(私たちが信じること 愛は愛 不法な人などいない...女性の権利は人権...)」

   町ですれ違った別の反トランプの女性は、「島民以外のニューヨーカーは、スタテン島=トランプ支持だと思っているかもしれないけれど、そう決めつけてほしくないわ」と話す。

   「(トランプ支持層が厚い)スタテン島は、ニューヨークではない」などと、変わり者呼ばわりされることには、トランプ支持者も憤慨する。

   「スタテン島よ、いい加減に目を覚ませ」とばかりに、2017年5月、こんな出来事があった。

   トランプ大統領のニューヨーク訪問に抗議し、反トランプ派の男性らが、マンハッタン島とスタテン島を往復するフェリーの手すりに、「#NOTTRUMPNYC」 と大きく書かれた長さ8メートルのバナーを掲げたのだ。

   しかし、ヴィンセントはスタテン島の今後を、このように予測する。

「この島の北岸は、民主党支持層が厚い。あの辺りは低所得者も多く、犯罪率も高い。これまで取り残された地域だったけれど、今、再開発が進んでいる。金のある若者たちがマンハッタンから移り住み、これからどんどん共和党支持者が増えていくよ。共和党の政策は、金持ちに有利だからね」

   この島では昨年の大統領選の前に、こんな事件も起きていた。

   (この項続く)(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。


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