2019年 9月 21日 (土)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 大統領支持を公言できない市民の本音

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FOXとCNNの落差

   そして、トランプ大統領の一般教書演説(State of the Union Address、2018年1月30日)に話が飛び、クリスは初めて声を荒げた。

「トランプが、減税で中小企業を助けたいなどと話すと、共和党議員らは立ち上がり拍手した。それなのに、民主党議員のやつらはただすわっていたんだ。アメリカを助けようとしているのに、それがトランプの口から出たというだけで、なんだ、あの態度は。党派なんて関係ないだろ。この国を一緒に心配しようじゃないか。馬鹿げていて話にならない」

クリスは訴えるように何度も、「私の言いたいことが、わかってもらえたかな」、「本当に理解してほしいと思うんだ」と繰り返した。時々、手元のメモや資料に目をやり、「君に偏った記事を書いてほしくない。だからこうして用意しておいた」と言った。

   オバマ氏が大統領だった時も、彼の一般教書演説で共和党員らは立ち上がらず拍手もしなかったのではないか。全米ライフル協会から、トランプ氏も政治献金を受け取ったのではないのか。言いたいことは私にもあったが、それはあとで彼に伝えた。時々、苦しそうに深呼吸し、体の痛みに耐えながらも、このコミュニティで堂々と自分の意見を言えずにいたクリスが、水を得た魚のように熱く語るのを、遮りたくなかった。

   別れ際に「名字と正確な年齢を掲載してもいいか」と尋ねると、彼は首を横に振った。

「それは書かないでほしい。ヘイトメールが送られてきたら、嫌だからね」

   世界中のどこでも誰でも読めるオンライン・ニュースに掲載されるという不安もあるのだろう。

   「FOXを見なさい」と繰り返す彼に、「FOXも見ていますよ」と答えた。

   確かにFOXとCNNでは、同じ国の同じ出来事を扱っているのかと思うほど、視点が180度、異なっている。

「これが私の思うところだ。別の意見は、ニューヨークの民主党支持者にでも聞いてくれ」

別れ際、クリスは手元の資料を二つ折りにした。先ほどの社会福祉の統計のほかに、「オバマが大統領として行ったワースト10」、「アメリカで最も犯罪率が高いのは、民主党支持の都市」などがあった。

「彼女に見られないように、こうしておこう」

トランプ嫌いの私の友人の名前を口にして、クリスはそう言うと、資料を封筒に入れ、しっかりと封をした。

   (敬称略。随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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