2018年 8月 21日 (火)

金融庁長官人事、すでに「ポスト遠藤」の争いが始まっている

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   異例の長期在任で「歴代最強の金融庁長官」とも称せられた森信親氏(61)が2018年7月17日付で退任した。後任の長官には遠藤俊英氏(59)=1982年入省=が監督局長から昇格した。順当ともいえ、「森路線を継承」と多くのマスコミが報じる。

   ただ、「森氏の意中の人は官邸に蹴られた」「遠藤氏は、ワンポイントリリーフで、周りは森さんのお気に入りが固めている」など、霞が関雀の憶測の声は尽きない。果たして、どんな人事だったのか。

  • 森前金融庁長官にとっては、コインチェック事件は続投への逆風だった
    森前金融庁長官にとっては、コインチェック事件は続投への逆風だった

地域金融機関に再編など対応要求

   森氏は3期(3年)にわたって長官を務めた。金融庁発足以来、在任3年は五味廣文氏、畑中龍太郎氏と森氏しかいない。通常、官庁トップは1年で交代する霞が関にあっては異例だ。

   その森氏は、大手を含む銀行を次々と破たんに追い込んだ厳格な検査・処分で金融界を押さえてきた金融行政を「育成」の方向に転換しようとしてきた。その集大成が今回の人事と同時に行われた組織改革とされる。検査局が担ってきた立ち入り検査と、監督局が行う日常の監督、指導を一体化して新「監督局」に統合。総務企画局を、金融行政の戦略立案を担う「総合政策局」と、市場機能の強化などを担当する「企画市場局」に分割する改編も併せて断行した。

   もちろん、金融機関を「甘やかせる」というのとは、まったく反対に、厳しく臨んできた。銀行などの従来のビジネスモデルが行き詰ってきたことを受け、「生き残りのための改革」を迫り、特に経営悪化が著しい地域金融機関に対しては、再編も含めた対応を要求。ガバナンス(企業統治)改革にも力を入れ、金融機関の首脳人事に裏から口を出すコワモテぶりも発揮した。

   森氏は安倍政権で官邸を牛耳る菅義偉官房長官の信頼厚く、年明けから春先にかけ、超異例の長官4期目へ続投説がささやかれたのも、「長官留任を菅氏が容認した」との情報が流れたことが背景にあった。さらに、古巣の財務省で福田淳一次官(当時)がセクハラで辞任に追い込まれると、その後任にも取りざたされた。さすがに、これは無理筋だったが、それだけ森氏に「勢い」があったのは確かだ。

森氏に吹いた二つの逆風

   だが、前後して、森氏に二つの逆風が吹いた。一つが、1月末に発覚したコインチェックによる仮想通貨の巨額流出事件。ずさんな管理で580億円にものぼる仮想通貨が盗み取られ、結局、犯人は捕まっていない。世界を相手にした次世代の金融戦争をにらみ、仮想通貨取引の育成に大きく踏み込んだ森長官だったが、「登録制」という緩い規制で仮想通貨交換業者を育てようとしたのが裏目に出て、杜撰な業者の存在を許すことになり、事件を招いたとして批判を浴びた。

   もうひとつがスルガ銀行(本店・静岡県沼津市)の不祥事だ。シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営する不動産会社、スマートデイズが経営破たんしたが、その仕組みにスルガ銀が深く関わっていた。オーナーが融資を受けて物件を購入し、スマート社が家賃を保証し、その収入で融資を返済するスキームだが、入居者を十分に集められないスマート社が破綻し、融資を返済できなくなるオーナーが続出して社会問題化している。この融資が、スルガ銀のほぼ丸抱えで、しかも融資審査の書類の改ざんなどが発覚している。

   こんなスルガ銀だが、少し前まで、新たなビジネスモデル作りに取り組む「地銀の優等生」として森長官がほめちぎっていた。静岡銀行という地域の巨大地銀を相手に、中小企業向けの融資中心では太刀打ちできないと見切り、住宅ローンなど個人向け金融に経営資源を集中し、成果を上げていたのだ。その陰で、ノルマ営業が現場を追い込み、無理な融資に走らせたのが「かぼちゃの馬車」問題だとされる。その躓きは、森氏にも大きなマイナスになった。

   こうして、官邸にも冷ややかな声が増えていったという。いずれにせよ、退任となれば、注目は後継人事に移った。強力なリーダーシップで引っ張るタイプの森氏は、調整型の遠藤氏とそりが合わなかったといい、森氏の「意中の人」は遠藤氏の1期下の氷見野良三・金融国際審議官(58)=1983年入省=というのが衆目の一致するところだった。6月初旬でも有力経済誌が「氷見野氏当確」などと書き、遠藤氏には「日銀理事」の「辞令」もささやかれたほど。

   一方、別の有力経済紙は3月に「遠藤長官説浮上」との情報を掲載しているが、これは「森財務次官」が前提。いずれにせよ、春先から情勢が流動化していたことがうかがえる。そして、最終的には「氷見野長官は官邸に蹴られた」(大手紙経済部デスク)とされ、「森氏は遠藤氏の同期で総務企画局長だった池田唯一氏の長官昇格を図ったようだ」(霞が関関係者)との情報もある。いずれにせよ、最終的に、遠藤氏の昇格に落ち着き、池田氏は退任した。

   ただ、これによって森氏が傷心のうちに去ったと見るのは早計だ。氷見野氏は審議官に留任。またその同期の三井秀範氏(59)が検査局長から企画市場局長に、やはり同期の佐々木清隆氏(57)が総括審議官から総合政策局長に就くなど、「いずれも森氏のお気に入りが枢要ポストを占めた」(大手紙デスク)。遠藤氏に関しては「ワンポイントリリーフ」(同)との見方も強い。1年後に向け、氷見野、三井、佐々木の3氏によるポスト遠藤の争いは、すでに号砲が鳴っている。

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