2024年 4月 20日 (土)

高橋洋一の霞が関ウォッチ
突っ込みどころ満載 白川・前日銀総裁の新著と「本音」

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   白川方明・前日銀総裁の著書や、5年半ぶりに公の場にでた記者会見(2018年10月22日)での発言が話題になっている。著書『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』は700ページになるが、総裁当時などで日銀が公表したものからの引用が多く、突っ込みどころも満載である。

   白川氏の著作や発言から、疑問になるのは、何のために金融政策をやっているのか、本人もきちんと理解していないのではないかという点だ。本コラムで指摘しているように、金融政策が雇用政策であるが、白川氏の著作や発言には雇用の話はまず出てこない。

  • 白川方明氏が総裁を辞任してから初めて記者会見を行った(2018年10月22日撮影)
    白川方明氏が総裁を辞任してから初めて記者会見を行った(2018年10月22日撮影)
  • 白川方明氏が総裁を辞任してから初めて記者会見を行った(2018年10月22日撮影)

インフレ目標2%の理由

   しかも、著作では「インフレ目標2%の意味がわからない」という内容が書かれている。これはある意味で正直であるが、そういう人が中央銀行総裁だったとは空恐ろしいことだ。

   インフレ目標2%の理由は、最低の失業率を目指しても、ある下限(経済学ではNAIRU、インフレを加速しない失業率という)以下にはならずに、インフレ率ばかり高くなってしまう。そうした下限の失業率(これは日本では2%台半ばから前半)を達成するために最小のインフレ率が2%程度になっているからだ。この意味で、インフレ目標は、中央銀行が失業率を下げたいために金融緩和をしすぎないような歯止め、逆にいえば、インフレ目標までは金融緩和が容認されるともいえる。このような基本中の基本がわからないで、日銀総裁をやるから、その成果は散々であった。

   雇用の観点から、白川氏の日銀総裁時代を評価すると、失業率について就任時2008年4月は3.9%だったが、退任時の13年3月は4.1%であり、リーマンショック(08年9月)や東日本大震災(11年3月)があったのは不運であったが、その対応では及第点は与えられない。

消費税増税との関係

   リーマンショック後の超円高に関するところに、それが端的に表れている。当時各国中央銀行は失業率の上昇をおそれて、大幅な金融緩和を行ったが、日銀はやらなかった。その結果、円が各国通貨に比べて相対的に少なくなったので、その相対希少性から猛烈な円高になった。これで苦しんだ企業は多かった。しかし、その無策を反省するでもなく、「実質為替レートでみたら大した円高でないので、それを言うと叩かれるから放置した」という趣旨の記述が著作中にある。逆にいえば、名目的な円高は大したことないのになぜ大騒ぎするのか、という彼の告白である。これには驚いた。実質だけを見てデフレで実質所得が高くなるからいいだろうという、典型的な「デフレ思考」である。その当時円高に苦しんだ人は、この白川氏の本音を聞いてどう思うだろうか。

   このほかにも、人口減少デフレ原因論を長々と書いていたのにはあきれた。たしかに5年ほど前には一世を風靡したが、今でも人口減少は続いているが、デフレは脱却しつつあるので、もう否定されているものだ。

   また、日銀の所管外である日本財政について、危機であると本当に信じ込んでいるようだ。そのために、消費増税積極論者である。

   2%のインフレ目標であるが、達成できなかったのは、2014年4月からの消費増税が原因である。消費増税までは、白川氏が反対していた異次元金融緩和政策によってインフレ率はいい感じで上昇していた。14年5月には、消費増税による見かけの上昇分を除き、インフレ率は1.6%まで上昇していた。消費増税がなければ、14年年内にも2%達成は確実であった。しかし、消費増税により長期的な消費低迷に入り、それとともにインフレ率上昇にもブレーキがかかり、今日に至っている。

   こうした現実をみていると、白川氏はまさにデフレ大好き人間なのだと妙に納得してしまう。この人が今も日銀総裁でなくて本当によかった。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「米中貿易戦争で日本は果実を得る」(悟空出版)など。


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