2024年 4月 20日 (土)

ラグビーW杯優勝、南アフリカの強さの原点を築いた「1人の男」

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   アジア初開催となった「ラグビーW杯2019日本大会」決勝戦(2019年11月2日、横浜国際総合競技場)――。南アフリカ(南ア=世界ランク3位)ベンチは、ノーサイドの笛が鳴る前から、すでに抱き合っていた。32-12。イングランド(同1位)に対し、2トライ2ゴール以上の点差をつけていた。

   ホイッスルが鳴った。白人も黒人も関係なく、汗にまみれたジャージでもみくちゃになった。同国初の黒人主将となったシア・コリシ選手(FL=フランカー)が高々と「ウェブ・エリス杯」を掲げた。W杯優勝3度の原点には、マンデラ元大統領と「1人の男」がいた。

  • ラグビーW杯で、最多タイ優勝となった南アが掲げた「エリス杯」
    ラグビーW杯で、最多タイ優勝となった南アが掲げた「エリス杯」
  • ラグビーW杯で、最多タイ優勝となった南アが掲げた「エリス杯」

ディフェンスで、どんどん前に出続ける南アの力

   試合後、コリシ主将は、

「我が国には、たくさんの問題がある。しかし、バックグラウンドの違う面々が団結し、1つになって戦うことで、素晴らしい結果を得られることが証明できた」

   ラシー・エラスムスHC(ヘッドコーチ)は、

「国では、政治的なことに加え、殺人事件もある。でも、ラグビーの80分間だけは、国民に幸せになってほしい...という思いで、やってきた」

と振り返った。

   イングランドとの決勝戦、南アはセットピース(スクラムやラインアウトなど試合再開のプレー)で優位に立った。しかし、ボール支配率は、イングランドが56%、南アは44%。逆にタックルの成功は南アが154本、対してイングランドは92本。ラグビーとは面白いスポーツで、ディフェンスをしながらでも前に出さえすれば、敵陣へと入っていける。

   実際にイングランドボールであるにもかかわらず、南アにどんどん押し込まれていくシーンが何度も見られた。つまり、南アはディフェンスで相手を圧倒し、敵陣に入り、最後はスピードのある両翼へ回す展開を続けた...ということだ。

   この南アのディフェンス力は日本戦でもみられ、日本が何度もジャッカル(ボールを奪われる)された。南アの優勝は、このディフェンス力の賜物といえる。

「人種なんて、関係ない」

   アパルトヘイト(人種差別、隔離政策)が長く続いた南アでは、イギリス発祥のラグビーは白人のもの、黒人は裸足でサッカーをするだけ...という社会的構図があった。アパルトヘイトは国際的非難を浴び、W杯には1987年(初開催)、1991年(第2回)には出場できなかった。

   しかし、1990年にネルソン・マンデラ元大統領が27年間の投獄から釈放。人種の壁撤廃の動きが始まった。このとき南ア・ラグビー界を変えようとしたのが、白人のフランソワ・ピナール主将(当時)だった。「人種なんて、関係ない」。黒人選手も交えた最強の「スプリングボクス(南アの愛称)」を作り上げたのだ。それは今回の優勝の原動力となったディフェンス中心のチーム作りだった。

   そしてアパルトヘイトが撤廃された後の1995年、南アで開催されたW杯で、ニュージーランド「オールブラックス」を破ってのW杯初優勝。世界中のラガーマンに「尊敬する選手は?」と取材すると「ピナール」と答える選手が多いのも事実である。ピナール氏も、今回の決勝舞台に駆け付け、南アの選手たちに声援を送っていた映像が、テレビで映し出されていた。

栄光の「背番号6番」

   あるラグビー関係者から聞いた話だが「南アは『黒人が輝ける場所=ラグビー』だと思って戦っている。『スプリングボクス』に入って、勝ち進むことで、海外のプロリーグへの誘いが来るかもしれない。そうすれば、自分や家族の生活も豊かになる」。皮肉な話だが、貧困から脱却することを、ラグビーにおいて体現するからこそ強いのだ。

   ピナール氏は現役時代、「背番号6」のFLだった。1995年の優勝時には、マンデラ大統領が同じく「6番」のジャージを着て、表彰式で「エリス杯」を手渡した。そして今回、南ア・ラグビーの歴史の中で黒人初の主将となったコリシ選手も「6番」である。

   今大会、日本代表も「ONE TEAM」というスローガンを掲げ、初の8強まで勝ち残った。ラグビーの場合、そのレギュレーションから、肌の色が違ったり、国籍の違う選手が1つのチームになることも多い。

   日本は島国で、「単一民族国家」のため「あれが日本代表なのか?」という声も、しばしば聞かれる。しかし、スポーツにおいて、そんなことは問題ではない。マンデラ大統領の意志を受け継いだピナール氏の「人種なんて、関係ない」というところから、南アは世界一の「団結力」を得たのだ。

(J-CASTニュース編集部 山田大介)

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