2024年 4月 24日 (水)

外岡秀俊「コロナ 21世紀の問い」(2)
「行動変容」から「価値変容」へ

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グローバル、IT、都市過密

   21世紀になってから、世界は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、09年の新型インフルエンザ(A/H1N1),12年の中東呼吸器症候群(MERS)という感染症を体験してきた。しかし、これらはいずれも局地的、あるいは重篤化することなく鎮静した。では、今回はいったい、どこが違うのだろうか。

   それは多くの人が指摘するように、幾何級数的に広がり、緊密に相互の社会が結びつくグローバル化とIT化、そして都市過密化が一つの臨界点に達したことと無縁ではないだろう。

   グローバル化は言うまでもない。ヒト、モノ、カネが国境を越えて行き交い、一国一地域の成長が、他のそれと不可逆的に結ばれ、その被害もまた、同じように蒙るかかわりのことだ。2020年の東京夏季五輪に向けて「観光立国」を成長戦略の柱に掲げた日本は、海外、とりわけアジアからの旅行客によるインバウンドの恩恵を受けてきた。日本を訪れた外国人は2013年から7年連続で最多を更新し、19年には3188万人のピークに達した。政府は20年の東京五輪をバネに、4000万人を目標としていた。

   さらに入国規制を緩和して海外からの実習生を増やし、2018年12月には出入国管理法も改正して「特定技能」の在留資格を創設し、事実上の「移民大国」への舵も切った。

   こうしたグローバル化は、もちろん日本だけの施策ではない。今回のコロナウイルスによって、各国の国境は閉じられ、ヒト・モノ・カネの流れは一時的にせよ停止を余儀なくされた。初めは中国、やがて欧州、米国へと感染は急速に拡大し、相互に部品供給を依存するグローバル企業は、製造の中止や減産に追い込まれた。感染の拡大地が時間差を置いて地球を移動したため、一部で収束しても他地域の活動が麻痺し、影響は長期に及ぶ見通しだ。歯車が逆回転すれば、それまで受けてきた恩恵は災厄に、成長はショックに転化することを示したかたちだ。

   IT化については相反する二つの側面がある。一つは、IT化の進展によって、誰もが、どこでもネットにつながる環境が出現し、それまでのパッケージ商品が売れなくなり、あるいは収益構造が変化して、音楽やスポーツ、演劇など、大勢の人々が集まるイベント事業に比重を移してきたことだ。

   「今、ここで、みんなが集まる」という臨場体験が、これまで以上に求められ、また収益をあげることになった。いわゆる「モノ」から「コト」への消費者ニーズの変化である。この動きもまた、行動制限や「社会的距離」を強いる新型コロナウイルスの出現によって、逆流し、緊縮することになった。

   IT化をめぐる第二の現象は、IT技術やSNSの普及によって、社会の反応や対応が大きく変わったという現実だ。台湾政府は、マスクの在り処をリアルタイムで示し、混乱を防いだ。中国政府は、人々の動向を把握し、感染の経路を追跡するネットワークを構築した。あるいは、今回の感染防止の一環として急速に拡大したテレワークやネット講義によって、多くの人々は、自宅で待機しながら仕事や学業を続け、自粛と経済・社会活動を両立させようとしている。これもまた、IT化によって初めて実現した現象だろう。

   こうしてITやAIの進化によって感染防止や経済活動の維持に効果をあげた一方、SNSの普及によって、デマや風評、偽情報も驚くほどの勢いで拡散され、政府や既成メディアによる介入があるまで、それが人々を惑わし、不安に陥れるというイタチごっこが続いている。

   都市の過密化について、国連サミットが2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)は、第11の目標に「住み続けられるまちづくり」を掲げた。それによれば、今は人口の半数にあたる35億人が都市に暮らし、地球の陸地の3%に過ぎない都市がエネルギーの6~8割を消費し、炭素排出量の75%を占めている。この都市人口は、SDGsが行動指針の目標とする2030年には50億人になると予測されている。

   日本では三大都市圏への人口集中が高止まりしたままだ。総務省が昨年まとめた2018年10月1日現在の人口推計によれば、東京圏の人口が約3658万人、名古屋圏が約1132万人、大阪圏が約1822万人。三大都市圏の合計は約6613万人で、全人口約1億2644万人の過半数を占める。

   総務省統計局の2018年1月1日時点の人口移動報告によると、三大都市圏では約13万人の転入超過だったが、東京圏では24年連続の転入超過だった一方、名古屋圏、大阪圏では7年連続の転出超過となった。まさに「東京一極集中」が続いていることになる。

   21世紀になって、世界は年々都市人口を増やし、過密化を進め、それを経済成長の原動力にしてきた。裏を返していえば、それは、ウイルス感染に対する脆弱性という社会リスクを高め続けてきたともいえるだろう。

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