2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(8)世界一の感染国アメリカはどこへ向かうのか

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   アメリカが揺れている。白人警官が、非武装の黒人を路上に押さえつけ、死亡させた事件への抗議活動は、燎原の火のように全米50州に広がった。「分断のアメリカ」を浮き彫りにしたコロナ禍を、米国はどう乗り越えるのか。今回の抗議活動の行方は、その分水嶺だ。

  •                          (マンガ:山井教雄)
                             (マンガ:山井教雄)
  •                          (マンガ:山井教雄)

コロナ禍のなかで起きたフロイドさん事件の衝撃

   事件のあらましを振り返っておこう。2020年5月25日午後8時すぎ、米中西部ミネソタ州のミネアポリス市の中心部で、20ドルの偽札を使ってタバコを買った客がいるという通報を受けたパトカーが食品雑貨店に駆け付け、近くにいた黒人男性を尋問し、手錠をかけた。

   その後、別のパトカーも駆け付け、計4人の警官が男性を取り巻き、うち一人の白人警察官が、うつ伏せになった黒人男性の首を路上に膝で押さえつけた。

   男性は「息ができない。プリーズ、プリーズ」と嘆願するが、白人男性は膝の圧迫を緩めず、約9分後、黒人男性はぐったりとして、間もなく駆け付けた救急車に収容された。

   その一部始終が、近くにいた人のスマホに録画されていた。別のスマホには、近くで抗議する住民を、別の警官が押し返す場面も映っていた。こうした映像は今も、米紙ワシントン・ポストのサイトにあるビデオ・クリップ集「民主主義は暗闇で死ぬ」で見ることができる。

   亡くなったのは同市に住むジョージ・フロイドさん(46)。各種報道によると、フロイドさんはテキサス州ヒューストン育ちで、スポーツやラップに親しんで青年期を過ごしたが、数年前、職を求めてミネアポリスに来て運転手や警備の仕事をしていた。二人の娘さんの父親という。

   フロイドさんが実際に偽札を使ったかどうかは定かではない。通報した店主はのちにメディアに対し、「偽札だとわかったから通報した。誰から誰に偽札が渡ったかはわからないし、私は店内にいたので、警察がどう捜査しているかも知らなかった」と弁明した。

   だが、警察がフロイドさんを押さえつけたのは、実際にフロイドさんが偽札を使ったかどうかを捜査する前だ。警察に抵抗する素振りもないのに、軽微な容疑を口実に、あのような蛮行を正当化できるはずもない。

   警察は当初、フロイドさんが抵抗したと発表したが、動画がフェイスブックで公開されると、無抵抗のフロイドさんを窒息死させた警官に対する抗議の声が広がり、市長は警官4人を解雇した。しかし、27日夜には警察署前に数千人が抗議に集まり、警察側が催涙弾を発射する騒ぎになった。デモの一部は暴徒化して放火や略奪に走り、翌28日には警察署にも火がつけられた。

   ミネアポリス州は州兵700人を投入して収拾を図ったが、地元メディアによると、30日までに郵便局や銀行、商業施設240件以上が略奪などの被害にあった。

   当初はフロイドさん事件について公正な司法の裁きを求めていたトランプ大統領も、抗議デモが全米各地に広がるにつれ、29日未明には「略奪が始まれば銃撃が始まる」とツィッターで威嚇。さらに同日、ホワイトハウス前でデモがあった時には、「(敷地内に入れば)凶暴な犬と恐ろしい武器」が待ち構えている、と応じた。

   地元の郡警察は29日、膝でフロイドさんの首を圧迫した元警官のデレク・チョービンを第3級殺人の罪で起訴した。それでも抗議の声はやまず、郡当局は6月3日、チョービン被告の罪名をより罪の重い第2級殺人に切り替え、現場にいた他の3人の警察官も同ほう助の罪で起訴した。だが、その時までに、デモは地滑り的に全米に広がっていた。

   この間、トランプ大統領の挑発はさらにエスカレートした。6月1日にはホワイトハウスのローズガーデンで演説し、抗議デモを「終結させねばならない」と宣言したうえで、州知事らに対し、州兵を動員して「警察当局の圧倒的な存在感」を示すよう求め、そのような行動をとらない場合は、米軍を派遣する意向を表明した。

   警察官は、トランプ大統領のその演説直前まで、ホワイトハウス前のラファイエット広場で行われていた平和的な集会に催涙弾を撃ち込み、参加者を退散させていた。トランプ氏は、自らを「法と秩序の大統領だ」といい、「平和的な抗議活動をする人の味方だ」としたうえで、徒歩で近くのセントジョンズ教会まで行き、聖書を片手に写真に納まるパフォーマンスまでして見せた。

   NYタイムズによると、この時点までに、抗議活動は全米140都市以上に拡大し、少なくとも21州で州兵の投入が決定され、ニューヨークなどでも夜間外出禁止令が敷かれていた。

   トランプ大統領は「力には力を」という強硬姿勢で連邦軍投入までちらつかせたが、エスパー国防長官は3日の会見で「警察が担う役割に軍を使うことは最終手段であり、最も緊急性が高い事態に限られるべきだ。我々は今、そのような状況にない」と反対を表明。マティス前国防長官も米誌アトランティックに寄せた声明で、「国民を統合ではなく、分断しようとしている」と批判。政権の新旧国防長官が大統領の方針に異を唱える異例の事態となった。

   6日には、首都ワシントンで、これまで最大規模の抗議デモが行われ、CNN報道によると数万人の市民が、ホワイトハウス前にDC市長が命名した「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命が大事)・プラザ」を埋めた。

   トランプ大統領は7日、首都に動員していた州兵の撤収を命じたことをツイッターで明らかにし、米国防総省報道官も、首都近郊の基地に待機中だった約1600人の米軍部隊の完全撤収を明らかにした。 こうして首都での「力と力の激突」は、からくも回避された。

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