2020年 8月 10日 (月)

「寄付するのが真のサポーター」の風潮「望まない」 J2大宮・水戸に「チケット払い戻し」の本懐を聞いた

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   「『寄付するのが真のサポーター』という風潮は望んでおりません」。サッカーJ2・大宮アルディージャや水戸ホーリーホックが、開幕前に販売していた「シーズンチケット(シーズンパスポート)」の払い戻し対応をめぐって発信したメッセージが、サポーターの共感を呼んだ。

   新型コロナウイルス感染拡大防止のため中断していたJリーグは約4か月ぶりの再開が決定したが、無観客試合(リモートマッチ)や観客数を制限した試合から始める。開幕前に販売していたシーズンチケットだが、多くのクラブが払い戻し対応をすることを発表。一方、払い戻し金をそのままクラブに寄付するというサポーターの動きもある。クラブにとってはありがたい申し出と思われるが、冒頭のメッセージを出した理由は何なのか。その1行には、さまざまな思いが込められていた。

  • 大宮アルディージャの6月13日付リリースの一部(赤い下線は編集部)
    大宮アルディージャの6月13日付リリースの一部(赤い下線は編集部)
  • 水戸ホーリーホックの6月15日付リリースの一部(赤い下線は編集部)
    水戸ホーリーホックの6月15日付リリースの一部(赤い下線は編集部)
  • 大宮アルディージャの6月13日付リリースの一部(赤い下線は編集部)
  • 水戸ホーリーホックの6月15日付リリースの一部(赤い下線は編集部)

「あくまで皆さまのご判断を大事にしていただければ幸いです」

   Jリーグは2020年5月29日、2月下旬の開幕戦以来中断していたJ1の再開を7月4日、J2再開とJ3開幕を6月27日とすることを発表。再開当初は無観客とし、その後は段階的に観客を入れていくことになった。6月15日には再編日程を発表。7月中は移動による感染リスクを下げるため、東西2ブロックに分けた対戦カードが新たに組まれた。

   シーズンチケットは、そのクラブ主管の年間全試合をスタジアム観戦できるもので、前年12月~年明け2月ごろにかけて販売されることが多い。だが、その直後に国内で蔓延した新型コロナウイルスの影響で、販売当時の予定とは異なるスケジュールでリーグを進行することが余儀なくされた。無観客や観客制限のため、本来シーズンチケットを使える試合に入場できないケースも出る。こうした事態を受け、多くのクラブがさまざまな形でシーズンチケットの払い戻し対応に乗り出していた。

   大宮アルディージャは6月13日、シーズンチケットの取り扱いについて発表。利用継続、払い戻し、払戻金の寄付など複数の選択肢がある。利用継続の場合も、無観客試合や制限付き試合で観戦できない分は1試合単位で払い戻す。払戻金をクラブに寄付する場合は、多くの他クラブと同様、スポーツ庁・文化庁が創設した寄付金控除の税優遇制度をあわせて案内した。

   「最も大事にした考え方は、『観戦を希望される方は観戦できるように、払戻しを希望される方は躊躇なく払戻しをできるように』し、お一人、お一人のご判断が尊重される状況をご提供することです」というのがクラブのスタンス。そして目を引いたのが、「無観客試合や制限付き開催における払戻し分のご寄付について多数ご意見を頂戴したことを受け、1試合単位でのご寄付に関しても対応させていただきます。心より感謝申し上げます」に続く、次のメッセージだった。

「しかし、『寄付するのが真のサポーター』という風潮は望んでおりません。繰り返しになりますが、あくまで皆さまのご判断を大事にしていただければ幸いです」

「公式でこれちゃんと言うたんはエライ」

   同様の文言は水戸ホーリーホックも15日、「2020シーズンパスポートの取り扱いについて」の発表で使っている。「クラブとして、根底にある考えは、(1)『観戦を希望される皆様は、制限付き開催の中でも可能な限り観戦ができるように』、(2)『払戻しをご希望の方は遠慮なく払戻しができるように』の二つです」とした後に、

「(2)について無観客試合や制限付き試合における払戻し分のご寄付について、『寄付するのが真のサポーター』という風潮はクラブとして望んでおりません。今回のコロナ禍において、皆様の置かれている状況は人によって様々です。あくまで皆さまご自身でのご判断を大事にしていただければ幸いです」

との姿勢を示した。

   水戸も、シーズンパスの継続使用(無観客試合分は払い戻しか寄付を選択、寄付の場合は税優遇制度を利用するか否かを選択)、払い戻し、払戻金の寄付(税優遇制度を利用するか否かを選択)と、複数の選択肢を用意している。

   払戻金の寄付をめぐり、クラブがオフィシャルでこうした姿勢を示すのは珍しい。インターネット上では「クラブの言い分が正しい」「こういうのをハッキリと表明するのは素晴らしいなあ」「公式でこれちゃんと言うたんはエライ」といった声があがった。

チケット所有者にアンケート実施「千差万別でした」

   大宮アルディージャのデジタルマーケティンググループ・小島陽介課長は17日、J-CASTニュースの取材に「この前代未聞の事態を乗り越えるにあたって、一番思ったのは『みんな真のサポーターだ』ということでした」と語る。コロナ禍でリーグ再開延期が続く中、シーズンチケットの扱いも再考が必要となり、クラブは対応に追われた。その中で5月20~21日、シーズンチケット所有者に「アンケート」を取ることとなり、回答を読んで感じたのだという。

   アンケートはクラブ公式サイトで結果を公表している。設問は「リーグ日程に大幅な変更が生じるが、シーズンチケットを利用できそうか」「シーズンチケットの払い戻しを希望するか」「払い戻しを希望する(しない)理由は何か」など。小島課長が「あけすけに聞かせていただきました」という通り、シーズンチケットをめぐるストレートな質問が多い。所有者の約40%にあたる1762人から回答を得ており、「様々な意見を頂戴しました」と話す。

「『返金するのが当然だろう』とアンケートそのものへのご批判、逆に『直接気持ちを聞いてくれてありがとう』という方、『仕事が減ってお金に困っているので返金してもらいたい。でも応援する気持ちは変わりません』とご自身の現状を明かしてくださった方もいます。千差万別でした。何千件とご回答いただいたアンケートを1通ずつ読んで、1人1人異なる経緯があるのだと改めて気づかされました」(小島課長)

   「千差万別」の胸中を把握したことで、別の懸念もよぎった。

「現在のような未曾有の事態の中では『同調圧力』も起きやすいです。サッカークラブのサポーターはそれこそ一丸となって応援してくださっているので、その心配はあります。

もしそうした風潮が生まれると、たとえばスタジアムでよく顔を合わせる人が『寄付する』と言った場合に、本当は払い戻したい人がサポーター同士の会話で言い出しにくくなるかもしれません。そうなると、楽しいはずのサッカー観戦で肩身の狭い思いをしたり、スタジアムに行きづらくなったりするかもしれない。

そんなことがないよう、個人個人の本当の希望に合わせて取り扱いを選択できるためにはどうすればいいのか。私たちは皆様にアルディージャを、サッカーを好きでいてほしいです。全員が真のサポーターですから、あらゆる判断をクラブが尊重します。そういう思いを込めたメッセージでした」(小島課長)

資金繰りは「クラブ側の事情」

   そもそもなぜアンケートなのか。「私たちは普段、スタジアムや練習場でサポーターの方々と接し、お互いに考え方を伝え合うことで、知らず知らず合意形成ができていたのだと思います。しかし今、新型コロナウイルスの影響で直接話す機会は激減しています。サポーターとコミュニケーションを取りたいし、取らないといけない。そこでアンケートで直接ご意見を募りました」(小島課長)と、ここにも背景があった。

   大宮は今季シーズンチケットを約5000枚販売。昨季1試合あたりの平均観客動員数が約1万人であることから考えると、ホームゲーム全体の約半数の席がシーズンチケット分になる。小中・シニア割などを除いた同チケットの一般料金は、席種によって異なるが2万8000~11万円。クラブの売り上げにおいて決して小さくない規模となる。

「経営基盤がある程度しっかりしているので、あのようなメッセージを出せたところもあります。とはいえ、確かに億単位の払い戻しの可能性もあるので資金繰りの懸念は当然出ます。でもそれはクラブ側の事情です。お客様の立場に立って考えないといけません。クラブに注いでくださっている愛情や、クラブとの絆が損なわれてしまうことのほうが損失です。リスクテイクはギリギリまでクラブがやるのが責務です。そのリスクを、お客様に不本意な形で負わせるわけにはいきません」(小島課長)

   アンケートでは「払い戻しを希望する場合、いつ、いくらを希望するか」も聞いている。その集計結果から今後の払い戻しの見通しもある程度立てやすくなったという。また、「Jリーグが各クラブに対し、払い戻し対応の必要性も含め、適切なタイミングで適切な指針を示してくれているので助かっています」と、リーグとの連携も一助となった。

「他の人やネットの意見などに流されることなく」

   大宮のリリースから2日後に「『寄付するのが真のサポーター』という風潮はクラブとして望んでおりません」のメッセージを発信した水戸ホーリーホック。広報マーケティング部のチケット担当者は17日、取材に対し「大宮アルディージャさんの文言を踏襲させていただきました」と明かした。

「新型コロナウイルスの影響で生活が苦しくなっている方もいれば、特に影響を受けていない方もおり、状況は人それぞれです。当クラブでは、シーズンパスポートをそのまま使ってご観戦いただくこともできますし、現金で払い戻すこともできます。他の人やネットの意見などに流されることなく、ご自身の状況から判断いただければと思います」(担当者)

   シーズンパスの払い戻し対応をするにあたって、「たぶんそういう(寄付する)風潮になるだろうと思っていました」という。それは11年の東日本大震災の経験も関係している。当時も、中止や延期となった試合のチケットは各クラブ払い戻し対応をとっていた。

「水戸は震災被害を受け、被災した方々がいる中で試合をすることに様々なご意見を頂戴していました。震災の影響を受けておらず『いつも通り開催してほしい』という方もいれば、サッカー観戦したいけど被災を受けてままならない方もいました。サポーターの皆様は『クラブのために』という思いが強く、寄付について発信される方もいます。当時も今回も、そうしたお気持ちはありがたいことです。一方で、実際は人によって状況が違います。今回『それぞれの判断を尊重する』とクラブがアナウンスすれば、寄付ではなくお金を払い戻そうと思っている方が、少しホッとするかなと思いました」(担当者)

   なお水戸は15日の発表の最後に「またお願いになりますが」として、

「無観客試合や制限付き試合は、スタジアムのある日常を取り戻すためのコロナとの戦いの一局面になります。特に制限付き試合において、スタジアムが安全に試合運営されるためには、シーズンパスポートの皆様のご協力は不可欠と思っております。ご来場の際にはご不便、ご迷惑をおかけするルールも多くなるかと存じますが、ご協力のほどよろしくお願いします」

という言葉で、引き続き新型コロナウイルスを乗り越えるための協力を呼びかけている。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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