2020年 8月 11日 (火)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(15)日米地位協定の死角 在沖米軍に見る感染拡大の実態

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 検疫に関する日米合意の実態

   検疫に関する各国の米軍との取り決めはどうなっているのだろうか。沖縄県基地対策課に問い合わせると、「米軍が訪問軍としてローテーション配備されているオーストラリアでは、米豪地位協定18条において、オーストラリアの検疫法の順守が定められていることが分かっている」という。ただし、実際の運用については未確認だ。

   条文は次のようなものだ。

   「米豪地位協定第13条 米国政府は、米豪間で暫定的に有効となっている合意と合致するように、オーストラリアの検疫法、労働条件仲裁裁定及び決定を含む、連邦および州の関連法令の規定を順守しなければならない。また米国人員はこのような法令を順守しなければならない」

   なお、韓国、NATO、独、伊については、該当する条文は現時点では見つかっていないという。米豪地位協定の条文は、受入国の検疫法を順守することが、少なくとも不可能ではないことを示している。

   それでは、日米間の場合はどうか。

   沖縄県の「地位協定ポータルサイト」には日米地位協定の条文ごとに、日米合同委員会の合意記録が掲載されている、軍人・軍属とその家族の出入国については、「第9条」の項目にその記録がある。

   明田川さんによると、1952年の最初の合意で、入出国は「検疫特例法」による、という合意、つまりは日本の検疫法の重要部分は適用しないという合意がなされた。

   「人の検疫 安全保障条約第3条に基づく日米行政協定の本文中に直接検疫の取扱についての明文がないが、外国軍用艦船等に関する検疫法特例(昭和27年法律第201号)の範囲内において、次の措置を実施することに同意」した、というのがその項目だ。それによれば、米軍使用の船舶や飛行機で入国する場合の検疫は米側が行い、伝染病があった場合は日本の法律を尊重して担当軍医が所要の措置を行い、最寄りの検疫所に通報する、としている。

   その後も、日米合同委員会ではしばしば、米軍関係者の入国について話し合いが行われてきたが、新たな感染症が確認されれば、それを合意事項に加えるだけで、基本的な構図は変わっていない。

   つまり、米軍人が米軍の飛行機や艦船で入国する場合は、米軍が検疫を実施する。その場合、「合衆国軍隊の検疫官は、検疫伝染病の患者若しくはその死体又はペストに感染した若しくはそのおそれのあるねずみ族を船内又は機内において発見したときは、直ちに所轄の日本国の検疫所長に通報する」との取り決めがある。他方、軍人でも、民間機や船舶で入国する場合は日本側が行う、ということだ。こうした構図を前提としたうえで、明田川さんはこう指摘する。

   「新型コロナに関する情報を、政府は『日米で速やかに共有している』というが、提供された情報が本当かウソか、チェックする方法がない。あるいは、きちんとしたデータであったとしても、それが地元の感染拡大防止に役立つかどうか、というニーズに合致しているとは限らない」

   今回の場合、検査を要する濃厚接触者を割り出すためには、感染者の所属基地や性別、年代、基地の外での行動履歴などが欠かせないが、米軍側がそれに応じるかどうかは不明だ。

   「日本側が『要請』し、米側が『考慮する』という関係においては、日本側が地元の側に立って、強く求めることが欠かせない」と明田川さんはいう。

   しかし、これまでの私の取材経験からいえば、沖縄側が、地位協定の改定を強く求めてきたにもかかわらず、これまで日本側が強く要求したという例は、残念ながらあまりないように思える。

   10年ほど前、「今度の地位協定の課題」について沖縄県の聞き取り調査を受けた明田川さんは、「感染症対策」をその一つにあげた。地球温暖化により、熱帯や亜熱帯での感染症が北上し、日本列島に迫ることが予想される。機能性を重視して移動を繰り返し、「密」な集団生活を送る軍隊は、それ自体が地域に感染症を媒介する可能性がある。そのために、地位協定の問題点や課題を洗い出して置くべき、との指摘だった。

   コロナ禍で、日米地位協定の問題が浮上したが、その問題の根深さは、本土に理解されているとはいいがたい。本土での危機意識が強くない理由について明田川さんは、米軍基地が集約され、あるいは負担が軽減されて、「身近」な問題ではなくなったことにも理由があるという。

   「本土では1960~70年代に『関東計画』などで各地に散在する米軍基地が横田基地などに集約され、海兵隊も1950年代中頃から沖縄に移駐するなど、身近な場から消えていった。その結果、沖縄に米軍基地が偏在する結果になったが、その歴史は広く国民に共有されていない」

   明田川さんは修士課程で旧安保条約の成立過程を研究したが、その実態は行政協定にあると考え、博士課程では行政協定から地位協定への移り変わりを集中的に研究した。だが、その実態が見えるのは沖縄だと知り、現地に通うようになった。

   「沖縄に一度でも行けば、基地が単なる安全保障の問題ではなく、日常生活を脅かす暮らしと背中合わせの問題であることがわかる」。沖縄でよく聞いた言葉に、「基地は本土では安全保障の問題。しかし、ここでは基地は人権と命の問題なのです」という悲痛な声があった。

   「基地」は器であり、軍事施設だ。もちろん、その縮小は最優先の課題だが、同時に、軍人たちの行動を律する「地位協定」を変えない限り、沖縄の人々の不安や恐れはなくならない。今回のコロナ禍は、基地や地位協定をめぐる本土と沖縄の危機意識の落差を、静かに照らし出している。

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