2024年 4月 19日 (金)

アマビエ、これで「みんなが使える」ように... 商標出願「拒絶」確定へ、立役者となった社長の思い

   新型コロナウイルスの終息祈願としてイラストなどが流行している妖怪「アマビエ」について、製菓会社「お菓子のさかい」(福島県石川郡石川町)の商標出願が「登録できない」と判断されていたことが分かった。特許庁によると、アマビエをめぐる商標登録の可否判断が示されたのは初めてとみられるという。

   お菓子のさかいの酒井秀樹社長は2020年10月23日、J-CASTニュースの取材に「今回の判断で弊社も、他の製菓会社さんも、今までどおりにアマビエを使えるだろうと思います」と話している。同社は7月の取材時、商標出願はアマビエを用いた商品販売が継続できるようにするためだとし、登録されたとしてもアマビエの商標権を独占するつもりはない考えを明かしていた。

  • 『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)
    『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)
  • 「お菓子のさかい」の商標出願に対して示された特許庁の拒絶理由通知書の冒頭(特許情報プラットフォームに公開されている文書より)
    「お菓子のさかい」の商標出願に対して示された特許庁の拒絶理由通知書の冒頭(特許情報プラットフォームに公開されている文書より)
  • 『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)
  • 「お菓子のさかい」の商標出願に対して示された特許庁の拒絶理由通知書の冒頭(特許情報プラットフォームに公開されている文書より)

「『新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴』を表したものと認識するにとどまる」

   お菓子のさかいは4月10日付で「アマビエ」の文字商標を出願していた。指定商品・役務の区分は、第30類の「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)、パン」。同社は当時すでに、主力商品のブッセやかりんとう饅頭などに、アマビエをモチーフにした焼き印やイラストをつけて販売している。

   この出願に対し、特許庁による9月14日付の「拒絶理由通知書」が9月23日、特許・意匠・商標などのデータベース「特許情報プラットフォーム」(J-PlatPat。以下JPP)に公開された。「この商標登録出願については、商標登録をすることができない次の理由があります」として、商標法に基づき次のように理由を通知している。

   まずアマビエそのものについて、「江戸時代に肥後国(現在の熊本県)の海に現れて疫病を予言し、病気が流行した際には自身の姿を描き写して人々に見せるよう告げて姿を消したと伝えられている妖怪の名前であり、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願のために、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上にこれを描いた図などを投稿する人が続出するなどとして、話題となったものです」とし、現にこうした説明がされている新聞報道の事例を示した。

   また、新型コロナ感染拡大防止策の1つとして、厚生労働省がアマビエを描いた「啓発用アイコン」をウェブサイト上で公開したことも紹介。「『アマビエ』の文字やこれを描いた図は広く一般に知られるようになるとともに、新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴として広く使用されているものといえます」との認識を示している。

   出願の指定商品である菓子の業界でも、「多数の業者によって『アマビエ』の文字やこれを描いた図が、商品に使用されている実情があります」として、アマビエを用いた実際の菓子などの販売を伝えた10本の新聞報道も添えた。

   その上で「そうすると、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、『新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴』を表したものと認識するにとどまるというのが相当ですから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものと認めます」と説明。

   商標法第3条第1項「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」の第6号「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」に該当するとして、登録できないという判断を示した。

「みんなが使えるようになればそれが良いです」

   アマビエは新型コロナウイルスが蔓延し始めた3月上旬ごろから、疫病退散にご利益がある妖怪として人気が沸騰。京都大学では、所蔵している江戸時代後期に描かれたアマビエの資料のデジタルアーカイブを改めて紹介し、広く活用を呼びかけていた。

   複数の企業や個人が4月以降、アマビエの商標を出願。ただ、多くの人に愛される妖怪だけに、インターネット上では「権利を独占するのか」と否定的な向きもあった。その中で、JPPで確認できる限り最も早く出願していたのが今回の「お菓子のさかい」だった。

   同社の酒井秀樹社長は7月10日のJ-CASTニュースの取材に、「商標を取っておかないと商品を販売できなくなる可能性がある、というのが出願の一番大きな理由です」と説明。もし商標権が取得できた場合は「即座にオープンにし、誰もが商標を使えるようにする予定です」とし、取得できなかった場合も「誰でもアマビエの菓子を作れるようになりますから、『自社商品を販売できるようにする』という目的に合致します」としており、登録の可否にかかわらず審査結果が出ることで目的は達成されるという考えを示していた(詳細は7月13日付<アマビエ商標出願の製菓会社社長に聞いた 取得できたら他社への対応は?>)。

   酒井社長は10月23日、取材に対し「前回取材を受けた時と同じスタンスです。自社商品の販売が阻害されなければそれでよく、もし登録されたとしてもアマビエの商標権を独り占めする考えはありませんでした。今回の判断で弊社も、他の製菓会社さんも、今までどおりにアマビエを使えるだろうと思います。みんなが使えるようになればそれが良いです」と話した。「商品を販売するにあたっては通常ある段取りで、他の誰かが取得した場合に起きる弊社の販売リスクがないように出願していました」という。

意見書を提出する予定は「一切ありません」

   商標出願の審査結果に意見があれば、通知書面の発送日から40日以内に意見書を提出できる。意見書が出された場合、商標登録の可否について再度審査することになる。

   同社が通知を受け取ったのは9月14日といい、間もなく期限の40日を迎えるが、酒井社長は意見書を提出する予定は「一切ありません」と即答。担当の弁理士には、通知書を受け取った時点で意見書は出さない旨を伝えたという。

   JPPで確認できる限りアマビエを含む商標出願は10月23日現在、今回のお菓子のさかいのものを含めて17あり、これを除いてすべて「審査待ち」。指定商品・役務の区分が同じ第30類の出願も複数ある。

   これらのアマビエの出願について、特許庁商標課の担当者は23日、取材に対し「指定商品・役務が異なると、その区分においてその商標がどう認識されるかを判断するため、必ずしも全く同じ判断が下されるとはいえませんが、(今回のお菓子のさかいと)同様の理由で拒絶される可能性はあります。同じ区分の出願であれば、拒絶される可能性は高くなります。ただいずれも、最終的にはケース・バイ・ケースで個別に判断することになります」と話した。

   意見書については「期限までに提出されなければ、商標登録できないという最終判断になります」とする。なお、少なくともJPP上ではアマビエの商標が登録された事例はない。アマビエの商標出願に対する判断が示されたのは「おそらく初めてではないかと思います」と話している。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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