2024年 4月 27日 (土)

次期財務長官は日本に冷ややか? イエレン氏の「高圧経済」論とは

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   米大統領選でジョー・バイデン前副大統領の当選が2020年12月14日(現地時間)の選挙人による投票で事実上確定し、次期政権の政策が注目されている。その中で、財務長官に前米連邦準備理事会(FRB)議長のジャネット・イエレン氏が指名され、同氏がFRB議長時代に主張した「高圧経済(High-pressure economy)」論が改めて注目を集めている。それは、どんな政策なのか。日本経済にはどんな影響を与えるのだろう。

   バイデン氏は主要な閣僚などのポストを順次内定していて、特に経済チームについては女性や黒人を多数起用している。主なポストは、イエレン氏のほか、ホワイトハウスのチーフエコノミストといえる大統領経済諮問委員会(CEA)委員長にオバマ政権でCEA委員を務めたセシリア・ラウズ氏(黒人女性)、行政管理予算局(OMB)長官に左派系シンクタンク、アメリカン進歩センター所長のニーラ・タンデン氏(女性)、通商代表部(USTR)代表に下院歳入委員会で民主党の貿易顧問を務めるキャサリン・タイ氏(台湾系女性)、財務副長官にオバマ政権で大統領副補佐官を経験したウォーリー・アデエモ氏(黒人男性)を指名した。

  • バイデン次期政権の経済政策に注目が集まる(画像は米民主党サイトより)
    バイデン次期政権の経済政策に注目が集まる(画像は米民主党サイトより)
  • バイデン次期政権の経済政策に注目が集まる(画像は米民主党サイトより)

「危機後のマクロ経済リサーチ」と題した講演

   注目される「高圧経済」とは、経済の総供給を上回る需要がある状態のことで、その政策(高圧経済論、高圧経済政策)は、需要が上回る状況を政策的に創り出す、つまり設備投資など供給能力向上のための追加的な需要を促進し、経済の好循環につなげる考えだ。

   イエレン氏がこれを唱えたのは2016年10月。「危機後のマクロ経済リサーチ」と題した講演だった。リーマン・ショックによる金融危機からの脱却という課題を踏まえたもので、学術論文的講演は難解だが、もともと労働経済学者であるイエレン氏の主張のポイントは、総需要を増やすことと並んで、「逼迫した労働市場」も高圧経済の重要要素と位置付ける点にある。

   リーマン・ショックを受け、雇用機会を得られずに就労を諦めた層があり、彼らは職を探すことが前提の失業者数には含まれない。その後の景気回復でも、就業率は失業率が改善したほどには改善していないことから、失業率の低下が賃金アップに十分つながらなかった。つまり、失業率が下がるだけでは不十分で、就業をあきらめた人の復帰が必要ということになる。それは、労働需給のひっ迫度を強めるということ。無就業者にまで仕事が回れば、労働投入の面から潜在成長率を引き上げることになるし、既に就労している人がより良いポストに転職できる機会が増え、経済の生産能力を底上げし、供給力をアップさせる――という。労働市場の過熱をテコに経済を刺激しようとする経済学ともいわれる。

   講演後、トランプ政権が誕生し、高圧経済政策は実行に至らぬまま、イエレン氏は2018年の任期で退任した。

   イエレン財務長官となった場合の高圧経済政策はどういうものになるだろうか。バイデン政権は新型コロナ対策や格差是正を重視し、大統領選の際には4年間で2兆ドル(約220兆円)のインフラ投資を公約、社会保障の拡充なども含め向こう10年間の歳出増は10兆ドル規模になるといわれる。

FRB議長時代には...

   財政拡張的な政策になるのだが、そこではFRBとの連携が重要なポイントになり、イエレン氏の登用は、まさにこれをにらんだものとみられる。FRB議長時代、金融緩和に積極的な「ハト派」として知られ、FRBの現執行部は、一時は財務長官候補に浮上したブレイナード理事をはじめ、かつてイエレン氏に仕えたメンバーも多い。パウエル議長はトランプ政権で就任したが、2020年8月に金融政策の新たな枠組みを導入した。物価上昇率目標を、長い目で見て平均的に2%とする「平均インフレ目標」が柱で、これまで長く2%割れが続いていたから、当面は2%を上回っても金融を引き締めないという意思表明で、市場は、ゼロ金利政策が長く続くと受け止めた。これは、高圧経済政策と親和性が高い。イエレン財務長官の下、財政支出が拡大しても、FRBは金融緩和を続け、国債を大量に買い、高圧経済政策を支えることになるだろう。

   ただ、そこから先は、新型コロナの動向を含め、世界全体で未知の領域だ。日本も日銀の異次元緩和をどう着地させるかは全く見通せない。欧州も引き続き緩和拡大に動いている。バイデン新政権は財政拡大で弱者を救済することを重視する見通しだが、一方で、財政を支えるための金融緩和が金融資産を高騰させ、富裕層をさらにもうけさせて格差を拡大しているとの批判がある。これは世界全体に通じる問題だ。

   さらに、「イエレン財務長官」は日本にどのような影響を及ぼすだろうか。大枠として、トランプ政権の「一国主義」「アメリカ第一主義」を改め、主要7カ国(G7)を中心にした国際協調に復帰するとみられるが、個々の政策は不透明だ。市場関係者の間では、イエレン氏がFRB議長時代、「日本側の円高懸念に対し、冷ややかだった」(為替市場関係者)との声もある。米国は世界から資金を集めて財政赤字を埋める(国債を買ってもらう)必要があるから、「強いドルを望む」と言い続けなければならないが、ドル高は貿易収支を悪化させる(赤字を増やす)方向に働くから、本音は分からないか。そもそも、高圧経済政策で米国の財政拡張、金融緩和が強まれば、それはドル安・円高要因になる。

   米新政権発足に向け、日本の政策担当者はイエレン氏の動向から目が離せない日が続く。

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