2024年 4月 26日 (金)

気づかなかったことも「無理やりにでも変わっていかざるを得ない」 曽我部恵一が、コロナ禍の今考えること

   東京・下北沢を拠点に音楽活動を続ける曽我部恵一さん。

   夏以降は自身のレコード店でオンライン弾き語りライブを毎月のように開催する傍ら、コロナで中断していたリアルなライブ活動も本格化させた。一方で、ライブ中の感染リスクを無視できない環境にあって「今も恐る恐るやるしかない」と語る。

   インタビュー後編では、都市生活者・曽我部恵一が考える「コロナ観」や「社会観」、そして「SNS観」に迫る。

(聞き手・構成・写真:J-CASTニュース 佐藤庄之介)

  • 「カレーの店・八月」で取材に答えてくれた曽我部恵一さん
    「カレーの店・八月」で取材に答えてくれた曽我部恵一さん
  • 「カレーの店・八月」で取材に答えてくれた曽我部恵一さん

弾き語り配信は「ゆるく」、ステージは「戦い」

   ――緊急事態宣言が明けたあと、7月からは毎月のように「PINK MOON RECORDS」でオンラインの弾き語りライブを開催されています。どんなお考えで、オンラインライブをやられているのでしょうか。

曽我部:「自分たち発信」のオンラインライブはそれまで全くやってなくて。でも、弾き語りライブに行くと、7割くらいは「お客さんも入るけど配信もやる」というのが普通だった。じゃあ「自分たち発信」のもやっていいんじゃない?となって。それで「自分の部屋からファンの人の部屋へ」っていうコンセプトで始めたんですよ。だから、あえて限定人数にして、ちょっと閉じた空間を作っています。配信って本当は世界中、数限りなく見れるはずなんだけど、あえて限定にすることで「パーソナル感」というか、そういうマンツーマンな感じを大事にしたいと思ってやっています。

   ――実際にオンライン配信をやってみて、どうですか。

曽我部:楽しいし、いつものライブと違って、ゆるくやったほうがお客さんも楽しいというか。真剣勝負みたいな感じでやっちゃうと疲れちゃうのかなって。部屋で練習している延長線上でやれるので。ライブとは言うけど、ちょっと違うなって。お喋りしながらメールでもらった質問やメッセージを読んで答えたりしています。11月は楽曲制作が忙しくてやっていなかったので、今月はやろうと思います。(その後、12月29日にYouTubeで無料配信を実施)

   ――3人体制になったサニーデイ・サービスも、フェスなどへの出演でライブ活動を本格化させていきました。何度か演奏映像を拝見しましたが、ものすごい迫力で鳥肌が立ちました。求めていた表現は出来ていますか。

曽我部:今はギター、ベース、ドラムの3人だけでやっているから、3人それぞれの武器を持ち寄って、ステージで何か一つの「戦い」をしている。みんなそれぞれ責任を持っていて、すごく今はいい状態だなと思います。

「お互いに心配をしながら、最大限できることはやろう」

   ――ただ、世の中的には、ある日を境にして「対面ライブに行ってもいいぞ」というマインドになったわけではないと思います。ライブに行くべきかやめるべきか。そういう「曖昧な空気感」は感じていましたか。

曽我部:多分、明確に「この日からOK」っていうのは今後も言えないじゃないですか。だから、恐る恐るやるしかないなっていうのはミュージシャンもみんな思っていることで。お客さんも「行きたいけど行っていいんだろうか」って思いながら暮らしている。

   ――曽我部さんとしては、大勢の観客を前にしてライブをやりたいというお気持ちはありますか。

曽我部:やっぱり安心してできるところがいいですね。今はどうしても「消極案」になってしまう。演奏とか歌自体は真剣勝負の一生に一回きりのライブだから、人がいようが配信だろうが関係ないですけど。お客さんの立場になってみたら、不安を抱えたままライブに臨むっていうのは残念だし、「声出したらダメ」「動いたらダメ」っていう、いろんな規制がある中で見なきゃいけないというのはあんまりだなって。あくまでも自由な立ち位置というか、そういうものでライブを見て欲しいし、早くそうなったらいいなと思います。こっちもお客さんのことは気を遣わずにできるっていうのが一番いいです。でも今はお互いに心配をしながら、最大限できることはやろうと思います。

「人類や文化の前進のためには、ここからひとつひとつ賢くなっていかないと」

   ――あっという間の1年でしたが、コロナ禍を通じて自身の音楽観に変化はありましたか。

曽我部:うーん、変化は特にないですね。音楽への捉え方もその日その日で違うので。あまり音楽を対象化して見られていないというか。とにかく今日やりたいことをやるという生き方なんで。相変わらず音楽は好きですし、自分がやる仕事だなっていうのは思っていますけど。ただ、いい歌を歌いたいなと思っているだけで。今後もそれは変わらないと思います。

   ――ライブエンターテイメントを核とする音楽業界、そして飲食業界はコロナ禍で最も痛手を被った業界の一つだと思います。アーティスト、飲食店オーナーの立場として、改めて「新型コロナウイルス」をどう思いますか。

曽我部:うーん...(しばらく考え込む)。確かにコロナですごく大変な状況になったけど、こうでもならないと気づかなかったり、変えようとしなかったこともいっぱいあると思うんですよね。例えば勤務形態とか、学生なら勉強の仕方とか。当たり前だと思って満員電車に乗って出社してたことが、実は理にかなっていなかったというか。今日もニュースで見たけど、大学生の勉強への理解度がリモート講義の方が高かったとか。もちろんウイルスだけを取ったら、亡くなられている方もいるし、ライブハウスや飲食も大変な状況にある。もたらした社会的なダメージはネガティブに捉えるべきかもしれない。けれど、人類や文化の前進のためには、ここからひとつひとつ賢くなっていかないとダメだなと思います。

   ――コロナが変革への「いいきっかけ」になる、ということですかね。

曽我部:いいきっかけ、っていうと語弊があるかもしれないけど。でもオリンピックもそうだし、働き方改革と言いながら何も変わらなかったのもそう。みんな口だけで何も変えようとしないし、気づかなかったことが、無理矢理にでも変わっていかざるを得ない状況なんだと思います。

大学は「新歓コンパが楽しい」なんていう場所じゃない

   ――大学も全然違うものになりましたよね。

曽我部:子供がいま大学1年で、本当なら「めちゃくちゃ楽しいキャンパスライフを送っている」みたいなところなんだけど、今は家でリモート学習してる。でも、大学って専門分野を深く勉強しに行く場所だから、本当は「新歓コンパが楽しい」なんていう場所じゃない。僕の時にはそれしかなかったけど(笑)。それでいろんな先輩とか同級生とか、いろんな人間関係ができて、勉強そっちのけで遊ぶのが楽しいっていう価値観だった。でも大学って本来そういうところじゃないじゃないですか。

   ――確かにそうですね。

曽我部:キャンパスライフがないから寂しいだろうなって思うんですけど、それでいいんでしょうね。本当は。大学も勉強したいという人が行けばいいんじゃない、って思う。あんな大学のでっかい校舎とか必要ないわけだし、維持費とかがなくなれば、大学に行くお金って安くなるんじゃないって。今までお金のことで大学を断念した人がめちゃくちゃいるわけでしょ。そういうこともなくなればいい。あとは対面授業に拘束されないわけだから、自分で働いて稼いで大学の勉強をリモートで受けるっていうスタイルを、本当にちゃんと考えるべきだと思う。そうしたら、どんな人だって大学に行けるかもしれない。1日3時間でカリキュラムを組めるならば、それ以外のところで十分仕事できる。

   ――そうなると、新卒一括採用をはじめとする日本社会の大学に対する古典的な考え方も変わっていきそうですね。

曽我部:だから、本当に最悪のシナリオは、このままコロナが終わって全く元どおりに戻っていくこと。満員電車に朝乗って会社に行くのがスタンダードになってしまうというのは、もったいない。大学や会社のあり方はこれ(コロナ禍)で変わっていかないと、本当に古い習慣に引っ張られる国になっちゃうのかなと思いますね。

「どれが正しい、どれが間違っている、っていうのは、今の日本においてはない」

   ――(12月10日時点)最近また感染者が増えていますが、コロナ禍では「自粛」と「経済優先」、あるいは「地方」と「都市」といったように、あらゆる対立軸が表面化したようにも思えます。

曽我部:それだけ、国民が選択に迫られる局面がいっぱいあるっていうことですよね。このままのらりくらりやるか、ビシッとした立場を国が定めて「これでやるから」っていうのか。どっちしかないじゃないですか。どっちにしてもメリットとデメリットがあるものだから。でも、国としての立場がここまでゆるい国って先進国であるのかなって思うんですけどね。日本って、なんとなく「気をつけてくださいね」って言いながら、全く逆の政策をとっているじゃないですか。GoToの延長とか。『この人ら整合性がないな』っていうのは子供が見てもわかると思う。全部が矛盾している。でも、どうしようもないでしょうね。こちらを立てたらあちらが...っていうのはめちゃくちゃあるんだと思います。我々の社会もそう。でも、それと同じ感じで国の政策としてやられても困るというか。まずはそこがしっかりしないと。自分たち国民の動き方が、それぞれの価値観、判断基準にしかならない。

   ――「自己責任社会」の弊害とも言えますよね。

曽我部:うん。お店を開けるかどうかというのも「あなたたちに委ねますよ」って言われちゃってるわけだから、それをみんな一生懸命考えて、それぞれの選択をしているっていう状況なんでしょうね。どれが正しい、どれが間違っている、っていうのは、今の日本においてはない。

SNSは「駅の黒板」のようなもの

   ――職業柄、SNSの話題を扱うことが多いのですが、最近はSNS上での「対立」も目立っていると感じます。曽我部さんもツイッターをやられていますが、どう見ていますか。

曽我部:議論の場としてはすごくいい場所なんだと思います。ただ、独りよがりになりがちだから。対話じゃないですからね、SNSは。昔、駅に黒板があって「先に行っとくね」とか、ああいうようなもんですからね。みんながメモを貼っていくみたいに、口調にも何にも気をつけずに、ペタって貼っていくようなものだと捉えた方がいいのかな。そこで対話が奇跡的に生まれることはあるけど、やっぱりこうして対面で話すのとは違うってことは、僕らなんかはわかるんですけどね。

   ――なるほど。

曽我部:でも、あの環境がデフォルトっていう人たちも下の世代にいて、それがちょっと大丈夫かなって、って思うところはある。対話っていうものの方法論も変わってくるんだとは思うんですけどね。ツイッターが本当に心と心のコミュニケーションの場になって行かざるを得ないというか。僕らはあんまりツイッターで「心の交流」とか考えてないんだけど、子供たちってそれがメインになっちゃうのかもしれない。

   ――自分も学生時代からツイッターを利用してきましたが、実際にコミュニケーションの場として使っている感じはあります。

曽我部:希望的観測としては、下の世代には知性を持って使いこなして欲しいなとはもちろん思います。僕らが喧嘩になったりするような使い方じゃない、スマートな使い方をしてほしいなと。

延期ツアーは「そこで死んでもいいってくらい」

   ――色々な話に発展しましたが、そろそろ総括に行きたいと思います。延期されていたサニーデイのツアーが来春にかけて行われていく予定です(12月10日取材時点)。今後、社会情勢の変化があるかもしれませんが、ツアーに懸ける意気込みをお聞かせください。

曽我部:もう散々伸ばしたんで、僕らとしてはやっとお客さんの前でできる、という気持ちです。こんな時期ですけど、チケット買って来てくださるお客さんがいるわけで、それは感謝しかない。思いっきり、そこで死んでもいいってくらい、自分たちの「一瞬の真実」みたいなものを表現するつもりではいます。とにかく、全力でやります。

   ――最後にお聞きします。このお店(カレーの店・八月)をどんなお店にしていきたいですか。

曽我部:お店って、バンドもそうなんですけど、長くやらないと本当の良さって分からなかったりする。長いことがいいっていうものではないですけど、やっていってお客さんが育ててくれるというところがある。お店のカラーはお客さんのカラー。今はまだ赤ちゃんみたいなものなので、成長して、いい形になって行きたいなと思います。とにかく「お店を続ける」ことが目標です。

   ――PINK MOON RECORDSはどうですか。

曽我部:レコード屋は急場凌ぎで始めたので、「いつやめようか」って感じです(笑)。なので、ここは色々な形に変わっていったら面白いなと。「〜年から〜年までギャラリーだったよね、あの時期はギターの修理屋さんだったよね」とかなんでもいいんですけど、そういうフレキシブルな使い方を考えています。

   ――変わらないもの(カレー店)と、変わり続けるもの(3階スペース)のミックスで1つのビルを成り立たせる。面白い構造ですね。

曽我部:そうそう。

受け取った「コンビニのコーヒー」〜取材を終えて〜

   「コーヒー、飲めますか」。取材中、緊張気味の記者に、スタッフを通じて差し入れをしてくれた。コーヒーは、大手コンビニチェーンのものだった。

   ふと、今年サニーデイ・サービスが世に出した「コンビニのコーヒー」という曲が思い浮かんだ。コンビニのコーヒーは100円で買える物の中で最も熱く、コインランドリーがいつも開いていることは「優しさ」だと歌った曲だ。

   都の時短要請を受け、多くの飲食店が22時に閉まる。労働時間が伸びれば、一人で外食するのも難しい。当たり前が当たり前ではなくなった中、24時間営業の店には何度も救われた。受け取ったコーヒーには、曽我部さんとコンビニ営業を支える人々の「優しさ」が含まれていた気がした。

   22時半にインタビューをはじめ、日付を跨ぐギリギリまで取材に答えてくれた曽我部さん。予定の質問を終えたあとも、記者がたまらず口にした「サニーデイ愛」に耳を傾けてくれた。この場を借りて、感謝を伝えたい。

サニーデイ・サービスのアルバム「DANCE TO YOU」のジャケット画の前に座る曽我部さん
サニーデイ・サービスのアルバム「DANCE TO YOU」のジャケット画の前に座る曽我部さん

曽我部恵一さん プロフィール
そかべ・けいいち
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。
90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。
1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。70年代の日本のフォーク/ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。
2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。
2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。
以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。 http://www.sokabekeiichi.com


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