2021年 9月 19日 (日)

コカ・コーラは、檸檬堂で「やらない」ことを決めていた 最後発ブランドの勝因【#令和のヒット】

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   レトロモダンなパッケージでお馴染みの、アルコールブランド「檸檬堂」。販売するのは日本コカ・コーラ(東京都・渋谷区)で、これが初のアルコール飲料となる。

   檸檬堂は2018年5月に九州で限定販売され、19年10月に4種のラインアップで全国展開(沖縄県を除く)、一気に認知度を上げた。九州でのパイロット販売から約2年半で、缶チューハイ市場をけん引するブランドとなったが、なぜこんなにも人々に受け入れられているのだろうか。

   J-CASTニュースは20年12月18日、日本コカ・コーラのマーケティング本部アルコールグループシニアマネージャー、パトリック・サブストロームさんにヒット商品誕生の裏側を聞いた。(聞き手・構成:笹木萌、撮影:堀内紘子)

  • パトリック・サブストロームさん(2020年12月撮影)
    パトリック・サブストロームさん(2020年12月撮影)
  • パッケージと同じデザインの「前掛け」を着用
    パッケージと同じデザインの「前掛け」を着用
  • パトリック・サブストロームさん(2020年12月撮影)
  • パッケージと同じデザインの「前掛け」を着用

「どうせなら一番消費者のニーズが大きいところに」

   そもそも、コカ・コーラはなぜアルコール飲料に参入したのだろうか。

サブストローム:弊社には「世の中のすべての人に爽やかさを届けたい」という大きな理念があり、アルコールへの参入はその中の一つのチャレンジになります。これまではソフトドリンクだけで様々な消費者のニーズに応え、価値提供することを目指してきました。 より広く消費者に爽やかさを届けると考えた時に、アルコール飲料も消費者の生活に密接に関わるセグメントで、そこで価値提供ができるのではないかと考えました。

――アルコール飲料の中でも、レモンサワーを選んだ理由を教えてください。

サブストローム:チューハイやハイボールのように、すぐに飲めるRTDという市場があります。いろいろなブランドがひしめき合っていますが、ほとんどのブランドがレモンフレーバーを必ず持っています。一番競合関係が激しいですが、裏を返すとそれだけニーズがある。最後発での市場参入になるので、どうせなら一番消費者のニーズが大きいところに入ろうと考え、レモンセグメントにフォーカスを当てました。

   サントリースピリッツが2020年3月に発表した「RTDに関する消費者飲用実態調査 サントリーRTDレポート2020」によれば、19年のレモンRTD市場は8200万ケース(対前年134%)。10年連続で前年を超え、過去最大の市場規模に成長したとされている。

サブストローム:最初はコスパのいい安いお酒として飲まれていたレモンサワーが、どんどん大衆酒場で人気になり、現代ではお店の方が情熱を持って作っています。1960年代から続くレモンサワーと、現代の飲食店が注力しているこだわり、この2つをRTDで出せれば魅力的な製品になると思いました。

   実際にレモンサワーの専門店を開くとしたら――そんなコンセプトの下に生まれた「檸檬堂」。ブランド名は店名をイメージし、「できるだけシンプルで、だれが見てもわかるようにしたい」という思いから名付けられたという。

ヒットの理由は「パッケージ」にあり?

   続いて、九州で販売を始めた2018年5月から、19年10月の全国展開、現在のヒットに至るまでの経緯を、サブストロームさんに振り返ってもらった。

――最初の発売地域を九州限定にしたのはなぜですか。

サブストローム:僕は九州出身ですが、九州は焼酎文化が強いです。日本酒もおいしいものがいっぱいあるし、すごくお酒の舌が肥えているエリアです。そこに一度出してみて、レモンサワーが消費者にどの程度受け入れられるのか、見てみたいと思いました。

――19年10月に全国展開したきっかけは。

サブストローム:九州の販売も好調でしたし、消費者の声が非常に良かったからです。中には、出張などで檸檬堂を買って帰ってきて「密輸」と表現する方もいました。「買ってきてと頼まれたから密輸してきた」とか。セールス動向だけじゃなく、消費者の反応もポジティブに捉えて全国拡大に至りました。

――実際に全国展開してみて、どうでしたか。

サブストローム:九州は販売エリアが限られていて、認知も低かったと思います。ただ、お酒好きの中では「九州でコカ・コーラが初めてのお酒をやっているらしい」「しかもすごくおいしいらしい」と口コミが広まっていました。その声が後押しとなって、全国では九州の時以上にたくさん売れていると感じます。

   20年1月には販売が想定を上回り、コカ・コーラボトラーズジャパンが出荷を一時停止するほど売れ行きは好調。日経トレンディと日経クロストレンドが11月に発表した「2020年ヒット商品ベスト30」の第5位にも選出されている。

パトリック・サブストロームさん
パトリック・サブストロームさん

   また、コカ・コーラボトラーズジャパンが11月に発表した20年12月期第3四半期決算の発表によれば、「定番レモン」はレモンサワー部門の金額シェア第1位を獲得(出典: Intage SRI 1-9月)。レモンサワーを代表するブランドになったといっても過言ではないだろう。

――ここまでのヒットは予想されていましたか。

サブストローム:個人的には、自分が飲みたくなるようなおいしいものを作って、世の中に出すというのが一番のゴールでした。どのくらいのセールス規模でというのは意識しないようにしていました。

――檸檬堂がここまででヒットした理由は、何だと思いますか。

サブストローム:どうですかね...。それがわかったら社長になれるかも(笑)
まず、一日の終わりのご褒美に買って飲むものとして、受け入れてもらえたと思います。檸檬堂は自分だけの大切な時間に飲むものに、おいしさだけでなく、雰囲気やちょっとしたクオリティを含めて提供することを目指して開発しました。それがうまくいったと思います。

   事前に「やらない」ことをいくつか決めていたというサブストロームさん。その一つが「パッケージデザインにフルーツの写真は入れない」というものだった。多くの競合商品では、こうしたパッケージを採用しているが――。

サブストローム:缶チューハイは大体家で飲まれることが多いので、家に置いておきたいデザインにしたいというのは当初から話していました。それは、人の温もりや気配を感じるようなデザインです。
檸檬堂のラインアップ。左端は新製品の「カミソリレモン」
檸檬堂のラインアップ。左端は新製品の「カミソリレモン」

   檸檬堂の開発にあたり、サブストロームさんは全国各地のレモンサワー専門店に足を運んだ。店内の雰囲気、並んでいるメニュー、スタッフの服装、来ているお客さんの傾向...店の隅々までリサーチし、そこからパッケージデザインのヒントを得た。

サブストローム:お店では、和のデザインでも古臭くないものを使っているところが多く見られ、1960年にスタートしたレモンサワーを新しい形で消費者に届けるにはいいのではないか、と考えました。上部の赤と白の結びは、前掛けをイメージしています。

   インスタグラムでは檸檬堂の投稿が多く見られ、「#檸檬堂」と検索するだけでも3万5000件がヒットする。SNS映えするデザインは檸檬堂の大きな強みの一つと言える。

サブストローム:パッケージがかわいいと言ってくださる方は多いですし、リピートしてくださる方も非常に多いです。そして味もおいしいから、もう1本、2本というように買っていただいている。値段は他のものより少し高いですが、その値段に見合ったおいしさは感じていただけているようです。

おいしさの裏には...「何度も何度も試飲しました」

   開発にあたり「消費者に触れる部分を作りこむのに一番苦労した」と話すサブストロームさん。「消費者に触れる部分」とは先述したパッケージデザイン、そして味だ。せっかくパッケージで目を引いても、おいしくなければリピートにはつながらない。

サブストローム:初めてアルコール市場に参入するので、お酒の味をどういう風に作っていくのがいいかという知見が少ないと思います。その中で、チームで何度も何度も試飲しながら、お店で絞って飲むようなレモンサワーの味を作っていくのは、すごく難しいところでした。

――檸檬堂の「おいしさ」は、どのように引き出しているのでしょうか。

サブストローム:檸檬堂は、レモンを皮ごと含めて丸ごとすりおろす「前割りレモン製法」を使っています。レモンのおいしさは、果汁だけでなく、皮にもあります。すりおろしたものをお酒に漬け込み、レモンのおいしさを引き出してから、炭酸を加えています。

   前割りレモン製法は、全国のレモンサワー専門店を巡った時に得た情報や、九州で親しまれている「前割り焼酎」という飲み方に着想を得ている。前割り焼酎とは、数日前から焼酎と水で水割りを作り、味をなじませ、お客さんをもてなすという文化だ。サブストロームさんは、この方法ともてなしの心に、檸檬堂との親和性を感じたという。

   現在、檸檬堂が展開している商品は以下の5種。

「定番レモン」(アルコール分5%、レモン果汁10%)
「塩レモン」(アルコール分7%、レモン果汁7%)
「はちみつレモン」(アルコール分3%、レモン果汁7%)
「鬼レモン」(アルコール分9%、レモン果汁17%)
「カミソリレモン」(アルコール分9%、レモン果汁9%)

   ここで注目したいのが、それぞれの「アルコール度数」と「果汁率」。製品によって異なるが、それらを変えることにどのような意図があるのだろうか。

サブストローム:発想のヒントは低アルコール市場全体を見た時にありました。販売されている低アルコールブランドは、だいたい1つのブランドで1つの度数です。例外もありますが、ビールは5%、低アルコール市場は3~9%で、ビール市場はどんどん右肩下がりで落ちている。逆に低アルコール市場は10年以上ずっと伸び続けています。
興味深いと思ったのは、低アルコール市場はビールに比べて幅広いアルコール度数を提供しているということ。味もいろいろあります。多様な消費者の好みに対応していることが、低アルコール市場の価値・魅力の一つだと思い、このブランドでの再現にチャレンジしました。

   つまり、その日の気分やシーンに合わせて、アルコール度数や果汁率を選べるということ。12月28日には「甘くない檸檬堂が飲みたい」といった消費者の声を受け、新製品「カミソリレモン」を発売した。

新製品のカミソリレモン
新製品のカミソリレモン

   最後に、檸檬堂の今後の展望を、サブストロームさんに聞いた。

サブストローム:お酒が強い弱いに関わらず、そのおいしさや楽しさを、より多くの方に知ってもらえるようにしていきたいです。また、新しいことをどんどん市場でやっていくことで、より低アルコール市場が盛り上がり、活性化していくと嬉しいです。

――新製品もどんどん出していく予定ですか。

サブストローム:考えなしに出していくつもりはないです。檸檬堂はお店なので「その時の最適なラインアップは何か」と考えながら提供していきます。おいしいお酒を造るのは簡単ではなく、納得できる味じゃなければ出しません。
カミソリレモンも、消費者の声に応えられるだけの、おいしいものができたから出せました。ドライな味にしていくと、だんだんお酒くささが悪めだちしますが、そうはならなかった。レモンの果汁感がちゃんとあって、でもキレがあるものが実現できました。
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