2021年 4月 17日 (土)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(32) ジャーナリストのマーティン・ファクラーさんと考える日米メディアの「信頼回復」

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NYタイムズの二つの失敗

   ファクラーさんは、自らの職場NYタイムズで起きた二つの失敗例を挙げて、その「試練」について説明してくれた。

   一つめは「ジェイソン・ブレア事件」だ。

   これは同紙記者のジェイソン・ブレア(当時27歳)が、大量の捏造や盗作記事を書いていたことが発覚した事件だ。同紙は03年5月11日に4面にわたって検証記事を載せ、公式に謝罪した。

   その検証記事によると、ブレアは同紙のインターンとして寄稿していたが、メリーランド大を卒業した01年に常勤記者になり、警察などを担当して02年から、全米各地を取材する担当になった。02年4月に、記事の信頼性を疑問に思った首都圏編集者が、編集局幹部にメールで、「ジェイソンにタイムズの記事を書かせるな。即刻だ」と警告したにもかかわらず、ジェイソンは記事を書き続けた。その後、ワシントン近郊の狙撃事件の記事に検察が抗議したが、他紙が自らの記事を盗用されたと抗議するに及んで、ようやく同紙は取材班を編成し、ジェイソンの記事の信憑性について調べることになった。

   その結果、02年10月から調査時点までに書かれた記事73本のうち36本が、捏造によるものか盗用・剽窃であることが判明した。

   タイムズ取材班は、彼が会ったとする取材対象者や一緒に取材した同僚カメラマンらに150回以上にわたってインタビューし、ジェイソンの旅行記録や通話記録などデジタル証拠も集めて、取材過程を検証した。

   ジェイソンは、行ってもいない場所の記事を書き、電話で話しただけのイラク戦争の傷病兵について、話したこともないコメントをでっちあげていた。その調査の結果、ジェイソンは辞任し、編集局幹部は引責辞任したが、検証は「152年の歴史がある新聞にとって極めて深刻な信頼性への裏切り」と謝罪した。

   二つめは「ジュディス・ミラー事件」だ。

   この事件の前段には「リークゲート」と呼ばれるブッシュ(息子)政権のリーク疑惑があった。イラクのフセイン政権を敵視するブッシュ政権は01年に、イラクが核兵器製造の原料となるウラン鉱を輸入している、という情報を入手した。米中央情報局(CIA)は元ガボン大使の外交官ジョセフ・ウイルソンを現地に派遣したが、証拠は見つからなかった。しかしブッシュ政権は、イラクがアルカイダと関係を持ち、大量破壊兵器を隠し持っているとして03年に対イラク戦争に突入した。

   ウイルソン氏は開戦後、NYタイムズなどでブッシュ政権による情報操作があったと批判した。その後、保守系コラムニストが「ウイルソン氏の妻はCIA」と暴露したことから、誰が連邦法に違反して情報関係者の身元をリークしたのかが問題になった。これが「リークゲート」だ。

   その捜査の過程で、大陪審から召喚されたのが、NYタイムズの安全保障担当・ジュディス・ミラー記者だった。彼女は出廷を拒否したため法廷侮辱罪で収監された。

   アメリカの記者は、仮に大陪審から法廷に召喚されても、取材源を守るために証言拒否を貫き、収監されることが少なくない。「取材源の秘匿」はジャーナリストが守るべき第1の職業倫理なので、ミラー記者の行動は称賛されてしかるべきだったろう。実際、NYタイムズはただちにミラー記者の決断を支持した。

   ところが事態は意外な展開をたどった。ミラー記者は、取材源の一人であるチェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・リビーから取材源を開示する同意を得たとして、出廷に同意し、大陪審で2度にわたって証言した。

   NYタイムズはリークゲートへの対応について読者に報告するとともに、ミラー記者の証言内容を紙面に掲載した。だがイラクから大量破壊兵器が見つからなかったことを受けてタイムズは、ミラー記者が02年から03年にかけて書いた「イラクは大量破壊兵器を保持しているか、獲得しようとしている」という一連の記事の多くが不正確で、タイムズの報道基準に合致していないと判断し、ミラー記者は追われるような形で社を去った。

   NYタイムズの二つの失敗は、いずれも長年をかけて築いたタイムズの信頼性に、深刻な打撃を与えるものだった。

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