2021年 6月 21日 (月)

同人誌即売会は「漫画の裾野を広げてきた」 コミティア支援の出版社が語る「同人文化の重要性」

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   新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、多くの同人誌即売会が存続の危機に瀕している。オリジナル作品「一次創作」に限定した日本最大級の同人誌即売会「コミティア」もその一つで、2020年8月から10月にかけて開催継続のためのクラウドファンディングを実施した。

   これにはファンだけでなく、出版社などの企業からも多額の寄付が寄せられ、最終的な支援総額は1億4000万円を超えた。マンガ業界はなぜ、同人誌即売会の存続を支えたのだろうか。J-CASTニュースは、コミティアを支援した小学館、マッグガーデン、BookLiveに取材した。

  • 小学館・マンガワン編集長の和田裕樹さん(左)とマッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)
    小学館・マンガワン編集長の和田裕樹さん(左)とマッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)
  • マンガワン編集長の和田裕樹さん
    マンガワン編集長の和田裕樹さん
  • コミティアにゆかりのあるマッグガーデンの作品
    コミティアにゆかりのあるマッグガーデンの作品
  • マッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)と看板作品「魔法使いの嫁」担当編集の新福恭平さん(左)
    マッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)と看板作品「魔法使いの嫁」担当編集の新福恭平さん(左)
  • 「魔法使いの嫁」登場キャラクター達と並ぶ新福さんと飯田さん
    「魔法使いの嫁」登場キャラクター達と並ぶ新福さんと飯田さん
  • 小学館・マンガワン編集長の和田裕樹さん(左)とマッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)
  • マンガワン編集長の和田裕樹さん
  • コミティアにゆかりのあるマッグガーデンの作品
  • マッグガーデンの取締役社長である飯田義弘さん(右)と看板作品「魔法使いの嫁」担当編集の新福恭平さん(左)
  • 「魔法使いの嫁」登場キャラクター達と並ぶ新福さんと飯田さん

同人誌即売会はマンガ業界にとって重要な存在

   コミティアは、プロ・アマチュア問わずたくさんの人々が創作を通した交流を行うことができるイベントだ。この場を通じて商業デビューする作家も多数おり、同イベントの代表である中村公彦さんは、「日本のマンガ界に貢献、底上げしてきた」として2013年に文化庁メディア芸術祭功労賞を受賞している。

   電子書籍の配信サービスで知られるBookLive(東京都港区)は、クラウドファンディングでコミティアを支援した企業の1つだ。河田洋次郎執行役員は、同人誌即売会はクリエイターが集まる重要な場の1つであると考え、コロナ禍で途切れてしまうのは非常に残念なことだと話す。

「同人誌即売会はこれまで漫画の裾野を広げる下支えとなってきているものとみられ、マンガ業界にとって重要な存在の1つだと思います。コミティアを回ると色んな面白い作品を並べている方がいらっしゃいます。たくさんのクリエイターが多様なジャンルの作品を持ち寄り、直接お話をすることができる。作家同士はもちろん、編集も新しい刺激をもらうことが出来ます。
こうしたイベントがコロナで開催できず、途切れてしまうのは残念なことと考え、当社として出来うる支援はないかという視点で検討し、今回のクラウドファンディング参加に至りました」

   小学館(東京都千代田区)も、マンガ雑誌アプリ「マンガワン」や「週刊少年サンデー×ゲッサン×サンデーGX」名義などでコミティアの支援を行っていた。マンガワン編集長の和田裕樹さんは、アマチュアの漫画家が活躍する場が業界にとっても重要だと話す。

「広い意味で言えばマンガ業界は、商業連載している人だけではなく、個人で自由に創作をしている人も含まれるものだと思います。例えばサッカーや野球などでは、少年リーグや草野球のようなアマチュアがあってプロというものがあると思います。プロしかいなければ異次元の人が戦っているだけなので。
漫画も同じで、沢山のアマチュアの人々がいてプロの世界に飛び込んでくる人もいる。コミティアのような即売会は大事なアマチュアの場で、将来素晴らしい書き手になる人もいれば、熱心なファンもいる。広い意味で漫画に携わったりたり楽しんだりする人がたくさんいる場が消滅しそうだということで、何とかお力になればと思い支援しました」

出版社の即売会支援が異例なワケ

   今回のように、出版社が名前を公表して同人誌即売会に支援を行うことは非常に珍しい。

   というのも一般的な同人誌即売会は、既存の商業作品をもとにした二次創作物を多数取り扱っているからだ。著者から権利を預かって守る立場である出版社とは相いれない存在、と言えるだろう。

   ある出版関係者は、コミティアは頒布物をオリジナル作品に限定しているために出版社として名を挙げて支援することができたのではないかと推察する。この関係者は、社として二次創作物を取り扱う同人誌即売会を支援することは難しいが、漫画が盛り上がる「お祭りごと」の存在自体は重要視していると話した。

   同人誌即売会と出版社の関係について、マンガワン編集長の和田さんは、こう私見を述べる。

「著作物を取り扱っている立場なので、二次創作のようなものは本来厳しいです。ファン活動のうちならともかく、キャラクターで収益を上げていると厳密にはだめだと言わざるを得ません。
その一方で、全ての漫画を描かれる方が自分の作品を作れる方ではありませんし、ファン活動で自分の描いたものを販売できるというのは結構大事だと思っています。そういった自由に好きなものを発表できる場があること自体が、その人の活動を続ける原動力となっていることは間違いないと思っています。
またこの場で育ってきた人々がプロの世界に飛び込んできてくれることもあります。ですから、僕としては既存の作品を使う場合は著作権者に迷惑のかからないようにうまくやってほしいと思います」

出版社と作家をつないできたコミティア

   コミティアではコロナ禍以前まで、「出張マンガ編集部」というマンガ・イラストなどの持込を受け付ける企業ブースを設けていた。小学館、マッグガーデン、BookLiveはもちろん、集英社や講談社、スクウェア・エニックスなど多数の出版社が、未来の漫画家を探し求めてコミティアに参加していた。

   なぜ、同人誌即売会で作家を探すのか。「マッグガーデン」(東京都千代田区)の取締役社長である飯田義弘さんはこう話す。

「以前まで漫画作家として商業出版に至るには、新人賞などで賞を取るか、作家のアシスタントとして力を蓄えるのが通例でした。こうした形に縛られず、『描きたい』『表現したい』という気持ちが強い人々に出会えることに魅力を感じています」

   従来の持ち込みのような各出版社へ照準を合わせた作品ではなく、「描きたい」気持ちが先行した作品と出会えることに強い魅力を感じているという。

   実際にマッグガーデンは、多くの作家にコミティアで出会った。現在連載中もしくは準備中の作家は10人以上。同社の看板作品「魔法使いの嫁」の作者・ヤマザキコレさんもその一人だ。担当編集・新福恭平さんは、ヤマザキさんと出会った当時のことをこう話す。

「僕が直接ブースを訪れ、本を買って読んだうえ、お声がけいたしました。同作品は当日行われた他社新人賞に落選、そこではご縁がなく今後どうしようか思案されていた中だったそうです」

   新福さんは、商業出版志望者がたくさんの出版社に出会えるのも出張編集部がある同人誌即売会の魅力のひとつだと考えている。

「従来の出版社への持ち込み形式ですと、物理的・心理的負担が大きいですよね。コミティアについていえば、出張編集部が横並びにあることで、同日に多くの意見を受け取る事ができ、比較検討しやすい。また、出版社の選択肢が実は多い事もわかる。それによって代替選択肢を見出せたり、商業出版を行ってみたいと思うきっかけになったりするのは良い点だと思います」

   マンガワン編集部も多くの作家に出会うためにブースを設けていた。和田さんはその背景として、作家を求める競争が激化していると明かした。

「当初はマンガワンの知名度が高くなかったので、こちらから待っていれば良い作家さんが来てくれるという状況ではありませんでした。
さらに昨今はウェブメディアを筆頭に媒体数も増えていますし、他社から声のかかった作家さんがすぐにデビューしてしまうこともある。
作家さんから出版社に来てくれる時代ではなく、どちらかと言えば、出版社が探しに行かなければならない時代だなと思っています」

同人誌即売会が減少すると・・・

   しかし新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、コミティアをはじめとする同人誌即売会の開催は減少している。同人誌即売会が減少するとマンガ業界はどうなるのだろうか。 マッグガーデンの飯田さんと新福さんは、危機感を露わにする。

「ファーストチョイスになる出版社群はブランドと資本力がありますので門戸を叩いて頂けるという状況が残り、もしかすると趨勢に影響はないかもしれません。ただ、『魔法使いの嫁』がそうであったように、こぼれ落ちるものはある。イベントがあるからこそ、そういった作品を世に出してみようと作家も思うので、なくなれば、世に出るべきだった作品が日の目をみない事に繋がるのではと思います」(新福さん)

   BookLiveの河田さんも、影響が出てくるのではないかという見方を示す。

「同人誌即売会が減ってしまうと、クリエイターや作家さんが作品を発表する場が少なくなってしまいます。直接どのくらい影響が出てくるかはわかりません。すべての作家さんが同人誌即売会で育つわけではないですが、ここから生まれてくる作家さんもいらっしゃいますし、才能を持った人が世に出るチャンスは多いほうがいいと思います」

   一方で昨今は、オンラインの同人誌即売会が頻繁に開催されている。マンガワンの和田さんは、オンラインでのイベントがリアルに代わる可能性があるとみている。

「描きたい人思っている人とそれを欲しいと思っている人は、イベントがなくなったら消滅するのではなく、取引の流れを変えて残ると思います。
いろんなイベントがオンライン開催を模索していく中で、便利なものが登場すればリアルイベントに代わってくる可能性もあると思います。
リアルイベントのいいところは偶然通り過ぎた人の目に留まるようなところだと思いますが、同じようなことがSNS上でも起きているので、それも置き換え可能なのかもしれません」

   J-CASTニュースは以前、大規模同人誌即売会の主催者たちにオンラインとオフラインイベントの違いについて取材している。(「コミケ運営・赤ブー・コミVに聞く コロナ禍で浮き彫り、同人誌即売会の『役割』と『これから』」、2020年7月29日配信)その際、主催者たちは参加者のモチベーションを心配していた。

   マッグガーデンの新福さんも、「筆が止まってしまう人もいるのではないか」と心配している。

「オンライン上の数字が可視化された世界に晒された時、商業やほかの人気作品と同じ土俵の中でモチベーションが維持するのは難しいのではないかなと思います。目の前でお客さんが購入する『1』とダウンロード数の『1』では受ける印象も違うのではと思います。
本を手にしてくれる人を目の当たりにすると、次の執筆へのモチベーションにもつながる。そういう相手がみえる交流も書き手にとって大きな意義でしょうから、それが喪われると執筆を止めてしまう方もいるのではという心配はあります。」

距離感が難しい同人誌即売会

   マッグガーデンはコミティアを応援するサイトも設置し、ヤマザキさんをはじめとするコミティア出身の作家の応援メッセージなどを掲載している。コミティアのクラウドファンディングを周知したいという想いと、沢山の作家に出会った大事な場であることを伝えたいという意図から用意したとのことだった。

   その一方で、新福さんは同人誌即売会とは適切な距離を保っていきたいともは話す。

「同人誌即売会は商業から切り離されたところで、自由に創作活動を行いたいという理念があるのではないかと思います。そのため今回弊社では寄付をさせていただきましたが、今後スポンサーや協賛といった形で支援することは想定しておりません。
これは個人的な考えですが、資本関係の中にひとたび組み込まれたら自由な創作は残るのかという疑問があります。やはりビジネスになった瞬間に描けるもの、描けないものが生まれてきてしまうのではないかと考えると、そのきっかけにはなりたくないなという思いもあります」

   また新福さんは同人誌即売会に参加する際には、文化 に敬意をもって接したいと話した。

「同人誌即売会で『商業出版にしませんか』と出版社が言って回ることが正なのかということは、自分自身、常に問い続けないといけないと思います。商業出版だけが漫画である訳ではないので。一定のリスペクトや理解を持ったうえで、適切な距離で関わらせていただければ嬉しいなと思います」

   そして最後に、こう訴えた。

「弊社としては、同人イベントというのは距離感を間違えてはいけないと思いつつも、非常に意義深いものだと思っています。
コロナによるイベント存続の危機は終わっておらず未だ、予断を許さない、いつなくなってもおかしくない状態だと思います。僕が述べる事ではありませんが、コミティアにしてもコミケットにしても、ひとりひとりの参加者のコミットメントこそが力なのだと思いますので、自分が好きなイベントは引き続き気にかけてほしいと思います。僕個人としても、継続したコミットを行いたいと思っています。」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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