2024年 4月 27日 (土)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(39)斎藤幸平さんに聞くコロナと「人新世の『資本論』」

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   将来コロナ禍を振り返る時、渦中で最も大きな影響を与えた本として名前が挙がるのは、「人新世の『資本論』」(集英社新書)だろう。その著者で哲学者の斎藤幸平さん(34)に、コロナと気候変動、資本主義についてうかがった。

  •                             (マンガ:山井教雄)
                                (マンガ:山井教雄)
  •                             (マンガ:山井教雄)

中軸に据えた「気候変動」

   「人新世」は「ひと・しんせい」と読む。

   まだお読みでない方のために、ごく簡単なあらましをご紹介したい。

   「人新世」は、オゾンホールの研究などでノーベル化学賞を受けたオランダの科学者パウル・クルッツェンが提唱して世に広まった言葉だ。彼は、人類の活動の痕跡が地球を覆いつくし、環境や生態に大きな影響を与えるようになった現代は、地質学的に見て新たな年代に突入したと考え、それを「人新世」と名付けた。

   学校で習ったように、地質時代は大きく分けて、動物が出現して以降の「古生代」、恐竜などが栄えた「中生代」、動植物がほぼ今の状態に近くなった「新生代」と続き、それぞれがさらに細分化されている。私たちは1万年以上も前から続く「完新世」の時代にいる、とされてきた。

   だが、人は産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を大量に使い、膨大な二酸化炭素を放出してきた。それが「待ったなし」の気候変動を招き、地球規模の危機をもたらしている。それだけではない。人は都市化で超高層のビルや巨大構築物を集積し、海洋は分解されないプラスチックごみで覆われるようになった。「自然」は、もはやあるがままの自然ではなく、人の活動の痕跡が無視できないままに改変を加え、地質や生態までが新たな定義を必要とするような時代に突入した。そうした思考の枠組みを示す言葉が「人新世」だという。

   斎藤さんの「人新世の『資本論』」は、マルクスの「資本論」を足掛かりに、「人新世」が資本主義システムと分かちがたく結びつき、その「成長主義」から脱却しない限り、危機を迎え撃つことはできない、と指摘する。

   この本が注目を集める理由は二つあると思う。一つは、気候変動を日本では初めて思想課題の中軸に据えた点だ。

   2021年就任したアメリカのバイデン大統領は3月末、環境などを中心に8年間で2兆ドル(220兆円)を超えるインフラ投資を行うという案を発表した。気候変動対策などを柱に、戦前のニューディール政策に匹敵する財政出動をめざす。財源は多国籍企業への増税でまかない、富の再分配も図る計画だ。議会での調整は難航必至だが、コロナ禍を受け、米国が強力な市場介入を伴う「大きな政府」へ急速にかじを切っている。

   バイデン政権は40の国・地域の首脳に呼びかけ、4月22、23日にオンライン方式で気候変動サミットを主催した。バイデン政権は、開幕直前に、米国が2030年の削減目標を05年比で50~52%とし、オバマ政権が掲げた「25年に05年比で26~28%」という削減目標値をほぼ倍増させた。

   会議には、他の分野では対立を深める中国、ロシアも参加し、各国首脳は相次いで新たな目標を打ち出した。

   英国はサミット直前、35年に1990年比で78%削減する目標を打ち出した。カナダのトルドー首相は2030年の削減目標を「05年比で40~45%」に設定すると宣言し、これまでの36%目標に上乗せした。韓国の文在寅大統領は、海外の石炭火力発電への支援を廃止すると発言し、ブラジルのボルソナーロ大統領は60年の目標だった排出量実質ゼロを10年前倒しにすると語った。

   こうして国際社会が競って気候変動対策を強化するなか、菅義偉首相も開幕直前に、30年度に13年度比で46%削減するという目標を掲げた。

   トランプ政権がパリ協定からの離脱を宣言し、結束が乱れた国際社会は、環境政策を外交の中軸に据えて主導権を握ろうとするバイデン政権のもと、ようやく足並みをそろえつつあるかに見える。しかもバイデン政権は、気候変動対策に巨費を投じ、環境分野で雇用を創出しながら技術革新でも覇権を握る「グリーン・ニューディール」を構想しているといわれる。

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