2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(44) タリバン政権のアフガンは再び震源地になるのか

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今後のアフガン情勢と国際関係

   今回の撤退をめぐる混乱で、米国の諜報力への評価は地に堕ちた。そもそも、この20年に費やした膨大な金と軍事力は、何のためだったのか、と自問するアメリカ人も少なくないだろう。対イラク戦に当たって、開戦の根拠とした大量破壊兵器はもともと存在せず、アルカイダとの連携もなかったことが判明した。あとにはイスラム国(IS)の勃興と、果てしない混乱が残っただけだ。今回のアフガン撤退後に残されるのは何だろうか。

   まず米国の諜報力について、川端さんはこんな体験を話してくれた。

   ブラヒミ氏が特別代表になって以来、川端さんは何度か米政権と折衝にあたった。ワシントン訪問中に一度、国務省の窓のない一室に招かれた。米国の外交官、CIAや軍の担当者から、タリバンに関する安全保障ブリーフィングを受けた。だがその内容は通り一遍で皮相なものでしかなかった。

   国連には諜報能力こそないが、アフガン各地に人道支援や政治ミッションのネットワークがあり、現地から生の情報が送られてくる。そうした情報に比べると、当時米国がつかんでいた情報は研究者の論文をまとめたようで、政策立案の役に立たない抽象的なものでしかなかった。

   国務省を出てからブラヒミ氏は、「米国が国連に何か隠していることを切に望む」と川端さんに皮肉な言葉を漏らしたという。川端さんはいう。

「米国は、いったん集中すると大変な諜報力を発揮する一方で、その集中力は長続きせず、驚くほど緩慢で無能になることがある。本当に不思議な国です」

   今後、アフガン情勢はどのように展開していくのか。私の質問に対して川端さんは次のように答えた。

   今も昔も、アフガニスタンがユーラシア大陸の要衝にあることに変わりはない。シルクロードの中継地として栄えたアフガンは、英・ロ・米など大国の干渉や侵略に晒され続けが、ことごとく外敵を跳ね返し、「帝国の墓場」とまで言われた。だが外敵に対する結束力や戦闘能力の強さの代償として、アフガニスタンは第一次英ア戦争以来、外国からの資金援助に依存し、自国の近代化に失敗し続けてきた。ガニ政権時代になっても、国家予算の半分は海外からの援助で賄っていた。

「その結果、外国の支援でかりそめの近代化の恩恵を享受するカブールなど都市部と、近代化から取り残され、宗教が支配する地方の部族社会という、二極化が固定化されてしまった。アフガン社会が原理主義を払しょくできないのは、紛争の深層にある都市部と地方の対立に起因するところが大きいのでは」

   そんなアフガンは、中ロやイランにとって、今後、アメリカの影響力を削減・排除する絶好の機会を提供しそうだ。

「中ロは90年代に創設した上海協力機構を通して、中央アジアの国々を巻き込みつつ、ユーラシアに独自の勢力圏を築こうとするだろう。だが一方で、イスラム系の分離独立運動を抱える中ロは、安易にタリバンに接近することはできず、慎重に事態の推移を見守るのではないか。なかでも『一帯一路』を進める中国は、アフガンの内政に直接首を突っ込むのではなく、タリバンの背後にいるパキスタンとの関係強化を通して影響力の拡大を図るのでは」

   隣国イランにとって、シーア派を「異端」とするタリバンを認めることはできず、今後も緊張が続く。そんな中で、注目されるのは、これまで一度もアフガン和平に表立って関与してこなかったインドの出方だという。

「自由で開かれたインド太平洋地域」を目指す日米は、インドとオーストラリアを巻き込んだ「クワッド」を結成して、中国の海洋進出に対抗しようとしている。たぶん、今後のアフガン和平において、日本も無縁ではいられないだろう、と川端さんはいう。
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