2024年 4月 26日 (金)

「日本独自の漫画文化を守るためにも」同人誌即売会コロナ3年目の行方 関係者が課題報告、都は支援策検討

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   プロ・アマチュアを問わず、個人が趣味で制作した本を売買するイベント「同人誌即売会」。

   同人活動を経て商業作家となった人も多いため、同人誌即売会は日本の漫画文化を支える存在の1つとなっている、との見方をされることもある。しかし多くの同人誌即売会は、コロナ禍によって存続の危機にさらされている。

   こうした状況を鑑みて2022年5月19日、参議院議員会館の会議室で同人誌即売会の現状報告会が開かれた。関係者が課題を共有し、連携して対応に取り組める体制を構築することを目的としている。藤末健三参院議員(自民党・国民の声会派)が主催し、同人誌即売会の関係者、政府関係者、東京都議会議員ら約30人が参加した。

   同人誌即売会は今、どんな状況にあるのか。現場で取材したJ-CASTニュース記者がレポートする。

  • 奥左から時計回りに、恒川亮太さん、小早川真樹さん、内田朋紀さん、北條孝宏さん、市川孝一さん、赤桐弦さん、安田かほるさん、中村公彦さん、 手前右から藤末健三参院議員、鈴木晶雅都議会議員、荻野稔大田区議会議員
    奥左から時計回りに、恒川亮太さん、小早川真樹さん、内田朋紀さん、北條孝宏さん、市川孝一さん、赤桐弦さん、安田かほるさん、中村公彦さん、 手前右から藤末健三参院議員、鈴木晶雅都議会議員、荻野稔大田区議会議員
  • 主催の藤末健三参院議員
    主催の藤末健三参院議員
  • コミックマーケット準備会の安田かおる共同代表
    コミックマーケット準備会の安田かおる共同代表
  • る赤ブーブー通信社(有限会社ケイ・コーポレーション)の赤桐弦代表
    る赤ブーブー通信社(有限会社ケイ・コーポレーション)の赤桐弦代表
  • コミティア実行委員会代表の中村公彦さん
    コミティア実行委員会代表の中村公彦さん
  • 「博麗神社例大祭」を開催する北條孝宏代表
    「博麗神社例大祭」を開催する北條孝宏代表
  • 「COMIC1」の相談役でありコミックマーケットの共同代表も務める市川孝一さん
    「COMIC1」の相談役でありコミックマーケットの共同代表も務める市川孝一さん
  • ねこのしっぽの荒巻喜光専務(左)と内田朋紀代表取締役(右)
    ねこのしっぽの荒巻喜光専務(左)と内田朋紀代表取締役(右)
  • HakoBook事務局主任の恒川亮太さん
    HakoBook事務局主任の恒川亮太さん
  • 東京都産業労働局商工部部長の緑川武博さん
    東京都産業労働局商工部部長の緑川武博さん
  • 奥左から時計回りに、恒川亮太さん、小早川真樹さん、内田朋紀さん、北條孝宏さん、市川孝一さん、赤桐弦さん、安田かほるさん、中村公彦さん、 手前右から藤末健三参院議員、鈴木晶雅都議会議員、荻野稔大田区議会議員
  • 主催の藤末健三参院議員
  • コミックマーケット準備会の安田かおる共同代表
  • る赤ブーブー通信社(有限会社ケイ・コーポレーション)の赤桐弦代表
  • コミティア実行委員会代表の中村公彦さん
  • 「博麗神社例大祭」を開催する北條孝宏代表
  • 「COMIC1」の相談役でありコミックマーケットの共同代表も務める市川孝一さん
  • ねこのしっぽの荒巻喜光専務(左)と内田朋紀代表取締役(右)
  • HakoBook事務局主任の恒川亮太さん
  • 東京都産業労働局商工部部長の緑川武博さん

日本最大級の同人誌即売会の現在

   政治家からは主催の藤末氏のほか、都議会議員の鈴木晶雅氏と大田区議会議員の荻野稔氏も参加した。多数の同人関係者と行政関係者らが集うのは、21年8月20日に開催された「東京ビッグサイトにおける同人誌即売会の開催に向けた関係者ラウンドテーブル」以来2回目だ。21年冬のコミックマーケットや、ゴールデンウィーク期間中に開催された同人誌即売会の現状や課題の報告が行われた。

   コミックマーケット準備会の安田かほる共同代表は、コロナ禍における参加者の安全を第一に考えた人数で実施したとし、次のように報告した。

   政府の技術実証実験の一環で「ワクチン・検査パッケージ」を実施するため、68レーンを設置し検温やワクチン接種証明や入場証の確認を行った。一人当たりの確認時間は約20秒で、参加者アンケートでは「思ったよりかなり早かった」と振り返る声が寄せられたという。さらに、イベントを続けることができたのは関係省庁、自治体との関係を構築できたことが有効だったと振り返る。21年のラウンドテーブルの開催に協力した藤末氏や、関係省庁とのミーティングを準備した山田太郎参院議員らに感謝した。

   日本最大級の同人誌即売会に挙げられる「HARU COMIC CITY(春コミ)」や「SUPER COMIC CITY(スパコミ)」を開催する赤ブーブー通信社(有限会社ケイ・コーポレーション)の赤桐弦代表は、次のように話す。

   コロナ禍によって、一時はサークル参加者(出展者)がコロナ前の25%ほどに落ち込んだ。現在は「かなりゆっくりのペース」で回復傾向にあるものの、10代から20代後半の参加者が激減。開催するデジタルイベントの参加者は、リアルイベントよりも高い年齢層となっており、赤桐代表は「オンラインで代替できるのは予算と社会経験がある人が中心となる」と考察する。若年層の消費活動が止まったままでは、将来的に大きな影響が出る可能性があると危機感をあらわにした。

来場者数が激減、参加料の値上げを検討する団体も

   オリジナル作品「一次創作」に限定した日本最大級の同人誌即売会「コミティア」は、直近では5月5日に開催された。コミティア実行委員会代表の中村公彦さんは「3年ぶりに緊急事態宣言が解除されたゴールデンウィークであったため来場者数は多かったが、サークル参加者数は少なかった」と振り返る。サークルの申込期間が開催の2、3か月前に設定されていたため、オミクロン株の流行期と被ってしまったのだという。先行きが不透明な中で、出展希望者が足踏みする状況が続き、常連は残っているものの新規の出店希望者は減っていると伝えた。

   中規模同人誌即売会「COMIC1」の開催状況については、代表の池上巌さんが所用で出席できなかったため、相談役でありコミックマーケットの共同代表も務める市川孝一さんが伝えた。COMIC1では先行入場や格安のレイト入場券を販売することで、入場時の密を避けているという。来場者の満足度は高く、閉会まで滞在する人が多かったと報告した。一方で、サークル募集期間(出店希望者を募る期間)が緊急事態宣言期間やまん延防止等重点措置期間に被ったことで、サークル数が減少すると、出展者の頒布物の購入を目的として参加する一般来場者数も伸び悩むと伝えた。

   ZUNさんの展開する作品群「東方Project」の二次創作物に限定した同人誌即売会「博麗神社例大祭」を開催する北條孝宏代表は、同イベントについてはライブや縁日などの企画を行っており、参加者の半数以上が10代から20代であると明かした。コロナ禍で接触を多く含む企画は控えているものの、参加する若年層は意欲旺盛で、イベントの回遊率も高く、閉会まで楽しんでいっているという。しかしコロナ前の参加者数を呼び戻すことはできていない。コロナに伴う特別貸し付けの返済を行う必要もあることから、入場料の値上げなどを検討する可能性があるとした。

同人誌即売会を支える印刷会社の苦境

   報告会には、同人誌の印刷を専門とする印刷所ねこのしっぽ(神奈川県川崎市)、しまや出版(東京都足立区)も参加した。

   ねこのしっぽの荒巻喜光専務は、プロだけでなくアマチュア作家が手作りの本を頒布できる場が存在するのは世界でも日本だけだと話す。こうした日本独自の漫画文化を守るためにも、この会に参加することに意義があると語った。しまや出版の小早川真樹代表取締役も、荒巻さんに同意し、同人誌即売会はイベンターと印刷会社、クリエイターの3者が手を取り合うことで存在できるものであるとして、同人誌即売会主催らの生の声が聞ける良い機会だと話した。

   ねこのしっぽの代表取締役であり、日本同人誌印刷業界組合理事長を務める内田朋紀さんは、報告会で次のように述べた。

   多くのイベントの開催規模が縮小された影響で、出展者が頒布数を抑える傾向にある。21年冬のコミックマーケットでは、組合の中でも業績の良い会社であっても例年の40パーセントほどの売り上げだった。一方でゴールデンウィークに多くの同人誌即売会が無事に開催できた影響で、活動を再開したい人や新たに本を作ってみたい人からの問い合わせは増えている。ただし、コロナ前の売り上げに戻るのは数年かかる見込みだ。

   さらに内田代表は、同人印刷業界の状況が変化していると指摘する。コロナ禍で広告や販促物の受注が減った一般の印刷会社が、同人誌の印刷事業に参加してきているという。これによって同人誌印刷を専門とする印刷会社が減ってしまうと、同人誌即売会の運営に支障が出る可能性があると危惧する。印刷を発注するのが企業ではなく個人であることや、イベントの開催状況に合わせて本を搬入しなければならないなど、同人誌印刷は通常の印刷とは異なるノウハウやイベントとの連携が必要となる。そのため組合としては、組合員を増やし、同人誌即売会の開催が円滑に進む協力をしたいと話した。

   同人誌の配送や保管を手掛ける運送サービス「HakoBook」を展開するアイ・エイチサービス(愛知県豊橋市)のHakoBook事務局主任の恒川亮太さんは、この2年で預かる荷物は減っていると話す。参加予定のイベントの中止が相次いだことで、本の処分を希望する人も現れたと話した。

東京都が新たな支援策を明らかに

   同人関係者による現状報告が行われた後、多くのイベントの会場となる「東京ビッグサイト」を管轄する東京都産業労働局商工部の報告が行われた。商工部部長の緑川武博さんは「アニメ産業等の振興と言う観点からしっかりと取り組んでいかなければいけない問題だと認識している」として、東京都として下記のような支援策を検討していると明かした。

   まず、イベント当日に利用予定の入らなかった展示ホールを待機列として使用する場合の料金割引を検討しているという。

「これまで待機列を作る場合には画一的に利用ホールの全てを借りるように案内しておりましたが、コロナ禍の要請に基づいて発生する待機列に対して画一的な対応は改めようと考えております」

   具体的には、イベントで利用する展示ホールに隣接するホールが当日に空いていた場合、待機列を設ける場として割引価格で利用できるようにするという。使用面積に基づいた料金を設定するなどの新たな料金体系の検討を行っているとのことだ。

   続いて、東京ビッグサイトに用意された待機場について。駐車場として用いられることが多いため、駐車料金の設定しかなかった。しかしソーシャルディスタンスを求める中で、待機場を待機列の場として使う場合には、それに見合う格安の料金に改めたいと話した。

   さらに、東京ビッグサイト近隣の「有明西ふ頭公園」など、港湾部が所管する公園を待機列の場として使う場合について。イベント主催者ではなく、東京都産業労働局が港湾局と折衝し、警備対応が必要な場合には施設側で警備員を配置することを検討しているという。イベント主催者の手間が軽減される見込みだ。

   また支援策とは別に、有明体操競技場が今後、展示会利用できる施設になると明かした。オリンピックの競技場としての役目を終えた同競技場は22年4月から、東京都産業労働局の管轄となった。体操用の床や観客席を取り除いた後、貸し出しを行うという。広さは、オリンピック期間に仮設した青海展示棟の半分ほどの1万平米となる見込み。料金や予約の開始時期は未定だが、決まり次第告知するとした。

   東京都による支援策の発表は、イベント主催らにとって朗報となった。報告会後の取材に対し、コミックマーケットの市川共同代表は、有明西ふ頭公園を待機列利用するための導線警備を施設側が対応することや待機列用のホールの減額は、非常に大きな意味があると話す。コミティア代表の中村さんも、これらの支援の開始時期を気にかけていた。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

(追記:2022年5月21日12時50分)本文の一部記述を修正しました。

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