2024年 4月 19日 (金)

金融庁警告の「無登録FX業者」宣伝リリースを多数掲載 PR TIMESが謝罪「審査が十分行えていなかった」

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   大手プレスリリース配信サイト「PR TIMES」でゲームの不正ツールが宣伝されていた問題で、金融庁から警告を受ける海外FX(外国為替証拠金取引)業者が多数紹介されていたことが新たに分かった。

   海外FXをめぐっては、国民生活センターへ投資被害の相談が急増している。運営会社は審査体制の不備を認め、「金融商品取引法に抵触する可能性を否定できない」と話した。

  • PR TIMESツイッターより
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  • PR TIMES発表文より
    PR TIMES発表文より
  • PR TIMES発表文より
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  • PR TIMES発表文より
  • PR TIMES発表文より

「最大レバレッジ1111倍」「怒涛のサービス向上」

   FXとは、販売業者に証拠金(担保)を差し入れ、2つの国の通貨の為替相場を予測して売買差益を狙う取引を指す。

   FXの勧誘など金融商品取引業に携わるには国の登録が必要で、違反すると5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科される。しかし無登録の海外業者が少なくなく、追及も難しいためトラブルの温床となっている。

   国民生活センターによれば、FXに関する相談は年々増加し、19年度が751件、20年度は1585件、21年度は3026件あった。22年度も23年3月6日までに2071件寄せられている。金融庁は問題業者には警告書を送り、社名を公表している。

   そうした警告を受けた業者が、PR TIMESでたびたび紹介されていた。2022年1月以降、少なくとも十数以上のリリースで、無登録の海外FX業者が登場していた。

   たとえば金融メディアを運営するIT企業は、支持されるとうたうFX業者をランキング形式で紹介。リストの11社は無登録業者で、「信頼性が高く、ボーナスキャンペーンを豊富に行っている業者が人気」と分析していた。結果をもとにした比較ページでは、それぞれの業者の特徴を列挙し、「今すぐ口座開設」と書かれたボタンが設置されている。送客数や契約数に応じて得られる「アフィリエイト」収入が目的とみられる。

   海外FX業者を利用したFXシステムの提供企業は、「面倒な作業は一切不要。スマホにアプリをインストール、たったそれだけで、最短1時間後には年金2000万円問題の解消が現実的に」と宣伝していた。リリースは22年1月に配信され、現在はキャンペーンページ、企業サイトともに閲覧できなくなっていた。

   海外FXの比較サイトを運営する日本企業は、無登録業者とのタイアップ企画をPRする。この業者の特徴を「最大レバレッジ1111倍」と紹介し、「怒涛のサービス向上によって注目度が高まっている海外FX業者です」と勧めた。日本では投資家保護のため、最大レバレッジ(取引倍率)を25倍と定めている。

   いずれのリリースも、無登録業者であることや投資リスクには言及していない。

読売、朝日など約225媒体と提携

   PR TIMESは、東証プライム上場の同名企業が運営する。

   月間6700万ページビュー(閲覧数、22年11月時点)を数える人気の情報サイトで、企業などは有料で自社のプレスリリースを掲載できる。月間契約プランは8万円、従量課金プランは1件につき3万円だ。

   大きな特徴として、提携メディアにも転載される点がある。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、スマートニュース、東洋経済オンライン、ブルームバーグなど約225媒体が名を連ね、「最適な20媒体以上に原文転載」するという。企業としては、多くのブランド力のある媒体に少額で露出する機会が得られる。

   PR TIMES側では、多くの読者とパートナーを抱えるだけにリリースの質の担保に力を入れている。配信には企業審査が必須で、リリースも配信後にシステムと目視で全件確認する。

   リリースは事前審査制としている同業他社もあるが、「仮に検閲を過剰に優先させて"発表前"審査を行うと、間違いを防ぎやすくなる一方で、可能性を持つ多くの発表を遅らせてしまうことになります」と説明している。掲載基準に沿わない場合は取り下げや利用停止措置も辞さない。

   掲載基準は、業種別に設けるなど厳格さをアピールしている。22年5月には調査リリースの基準を引き上げ、SNSで称賛を集めた。

   PR TIMESは当時、J-CASTニュースに「プラットフォームをいかに長期的に成長させるかを大事にしていますので、仮に短期的に掲載数が減ったとしても、その件数を取るためにそぐわない内容を許容してしまうことになれば我々のポリシーにふさわしくない」と自社の方針を話していた(詳報:「No.1広告」制限へ...プレスリリース大手PR TIMESが決断 「やらせ横行」で業界団体も危機感)。

   しかし、人気ゲームの不正ツールがチェックをすり抜け紹介されていたことが23年2月に発覚し、PR TIMESは再発防止策を講じる事態となった(詳報:「ポケモンGO」不正指南リリース、PR TIMESに掲載 「位置偽装100%成功」...指摘受け削除)。

   今回の問題も、チェック体制の不備をうかがわせる出来事だ。無登録FX業者が載ったリリースは、産経新聞、時事通信、FNNプライムオンラインなど大手メディアにも転載され、信頼できる情報源から「お墨付き」を得ているという印象を与えかねない。

投資被害に詳しい弁護士の見解は

   投資被害に詳しい荒井哲朗弁護士は、「海外FX業者との間でのトラブルには、規約に反する取引が行われたと一方的に通知されて取引益金が没収されたり、口座が凍結されたり、出金条件に適合しないなどとして出金がなされないなどというケースが代表的なもので、そうしたトラブルは頻繁に見られます」と取材に指摘する。

   荒井弁護士によれば、海外FXの危険性を認識せずに高いレバレッジや特典に釣られる消費者は後を絶たず、「その入り口として、ランキング形式での紹介の体裁をとった記事やアフィリエイトサイトが利用されているものと思います」との見方を示す。

   海外FXの媒介・ほう助行為も違法性を問われる可能性があり、「本来FX取引は賭博であり、法令の範囲内で行われる場合に初めて違法性が阻却されるというものです。海外FX取引を大っぴらに紹介するということと、摘発されにくい地下カジノランキングなどというものを掲載することとの間に、どれほどの違いがあるというのでしょうか。海外FXに関しては、もう少し正しい規範意識を持って臨むべきだと思います」と問題視した。

   国民生活センターの担当者は、次のように注意喚起する。

「FXで儲かると言われたり、広告で見たとしても、鵜呑みにしないで欲しいです。仮に知人からの紹介であれば断りづらい面もあるかもしれませんが、紹介する側には何らかのメリットがあるとも考えられ、冷静に判断をしていただきたいです」
「また、トラブルは海外の無登録業者との間で起きていることが多いです。トラブルになってから業者について調べて怪しかったり、無登録だと分かるパターンが非常に多く、取引前に登録の有無を確認して欲しい」

再発防止策を公表、チェック体制強化へ

   PR TIMES経営管理本部長は7日の取材に、J-CASTニュースの指摘を受けて13件のリリースを掲載停止したと明かした。追加で、3件も同様の対応をする予定だという。

   弁護士に確認した上で、「プレスリリース内で金融庁に無登録の金融商品取引業者を宣伝する内容が含まれる場合に、金融商品取引法に抵触する可能性を否定できない」と判断した。

   投資商品の発表を主眼に置いたリリースの審査では、▽金融商品取引業者である場合は金融庁の免許・許可・登録などを受けていること▽投機心を著しくあおる表現や誇大表現が見られないこと▽取引に伴うリスクに言及していること――などを確認している。

   しかし、チェックが徹底されていなかった。加えて、調査結果の発表やキャンペーン開始の体裁だと「記載内容に含まれている金融商品取引業者への審査が十分行えていなかったことが分かった」と話す。

   8日には自社サイトで謝罪文を掲載し、再発防止として次の4点を挙げた。

・企業登録審査およびプレスリリース内容審査において、金融商品取引法および各種法令に抵触する恐れのある行為をチェックする項目を新たに設けます。
・ キーワード検知システムに新たな金融関連キーワードを追加し、注視いたします。
・ 新たな判定項目の社内教育を行い、社内エスカレーション条件を整備いたします。
・ 各行政庁が警告・違反を通告する企業を随時確認し、再審査を行います。

   「適切にPR TIMESを活用して情報発表いただいている企業・団体の皆さま、情報源として取材活動にお役立ていただいているメディア・記者の皆さま、有用な最新情報として楽しんでいただいている生活者の皆さまへ、PR TIMESに対してご心配をお掛けすることとなり、誠に申し訳ございません」としている。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)

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