「外国人は逮捕されても不起訴になりやすい」は本当か 埼玉のひき逃げ事件も...データから見えた事実

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   埼玉県三郷市で2025年5月14日に起きたひき逃げ事件で、中国籍の男が起訴された。しかし、乗用車に同乗して逮捕された中国籍の男性は不起訴となった。

   このことがSNSを中心に大きな議論を呼んでいる。

  • 不起訴処分=無罪とは限らない
    不起訴処分=無罪とは限らない
  • 不起訴処分=無罪とは限らない

日本人と比べて起訴される確率は

   事故のあらましを「産経新聞」Web(6月9日配信)から引用する。

《埼玉県三郷市で5月、小学生の列に乗用車が衝突し男児4人がけがをした事故で、さいたま地検越谷支部は6日、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱)と道交法違反(ひき逃げ)の罪で、乗用車を運転していた中国籍の解体工、鄧洪鵬容疑者(42)を起訴した。(中略)一緒に乗用車に乗ったとして、道交法違反(酒気帯び運転同乗)の疑いで逮捕された中国籍の男性(25)は不起訴にした。「警察と捜査したが、起訴しないという判断に至った」としている》

   これについてアルピニストの野口健氏は、自身のXで次のように指摘した。

「(前略)これだけ外国人による事件が多発する中で『不起訴』となるケースがとても目立つ。また、これだけ注目を浴びている事件。何故に不起訴になったのか明確に説明をされた方がいい。そうしないと『外国人だから不起訴にしたのか!』という穿った見方が蔓延する」

   調べてみると、たとえば2月19日に埼玉県川口市内で女性に乱暴したとして逮捕された「トルコ国籍の男性」、4月11日に長野県飯山市で職務質問をした警察官に切りつけたとして逮捕された「ベトナム国籍の男性」、いずれも不起訴となっている。

   こうした事例を見ると、「外国人は処罰されにくい」と感じる人がいても不思議ではない。しかし、実際の統計を見てみると、印象とは異なる実態が浮かび上がる。

   令和6年度版『犯罪白書』(法務省法務総合研究所)の「来日外国人被疑事件 検察庁終局処理状況」によると、刑法犯の検挙人数に対する起訴率は外国人41.6%、日本人39.6%と、外国人の起訴率のほうが高い。

   個別の不起訴事例だけを取り上げ、全体の傾向を判断するのは早計だろう。

報道における「外国人」の扱い方

   では、なぜ交通事故をはじめ、外国人の犯罪が目を引くように感じるのか。

   以下に、日本人が不起訴となった場合の、メディア報道の一例を挙げてみよう。

《都内に住む高齢女性から現金350万円をだまし取ったとして逮捕された21歳の男性が不起訴処分となりました。(中略)さいたま地検熊谷支部は不起訴処分の理由を明らかにしていません》(日テレNEWS WEB、2025年6月10日)

   日本人の場合「日本人男性」とは報道されないのである。移民についての研究で知られる東京大学准教授・永吉希久子氏は、以下のように記している。

《日本国籍をもつ人が大多数の社会で、「日本国籍」という情報は自明のものとされる。マイノリティである外国籍者についてはそうではない。この結果として「外国籍」と「窃盗団」が合わせて記載されることで、犯罪行為者としての外国人イメージが強められるのである》永吉希久子『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』(中公新書)

   国籍に関する記述の有無の慣例が、報道を受け取る側に対して、無意識のうちに「外国人の犯罪が目立つ」といった印象を与えている可能性も考えられる。

不起訴の理由開示は義務づけられていない

   ところで、「不起訴処分」とはどういうものなのだろうか。

   そもそも不起訴処分=無罪とは限らない。検察官が裁判所に起訴しないことを決めることで、前科はつかないものの、捜査対象となった前歴は残る。

   ひとえに不起訴といっても「法令違反の疑いなし」という判断もあれば、証拠が不足で立証困難な「嫌疑不十分」、罪は成立するものの、再犯可能性がない「起訴猶予」、被害者の告訴がない「不告訴」など、内容はさまざまだ。

   加えて、日本の検察官法や刑事訴訟法では、不起訴処分時に理由開示を義務づける規定はない。

   理由を開示しないのは、被疑者や被害者のプライバシー保護、捜査情報の保全など、事件の種類によって理由も多岐にわたるからだ。

   これらは当然、被疑者の国籍に限らない。日本の制度上、普通のことなのだ。つまり、「不起訴になった理由が明かされないからといって、不公平な判断が下された」という結論には直結しないのである。

   野口健氏は先に挙げた意見に加え、「その結果、外国人に対する偏見や差別に繋がりかねない。また真面目に日本で生活をしている外国人まで偏見が及ぶ可能性も」と続けている。

   たしかに、『犯罪白書』によれば、令和6年度の刑法犯検挙人員の総数(18万3269人)に占める外国人の比率はわずか5.3%に過ぎない。

   一部の事件に目を奪われるだけでなく、全体の傾向や制度の背景を踏まえ、先入観を避けた冷静な判断を社会全体で共有することが求められている。

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