左:第一三共ヘルスケア株式会社 H&B研究所 有用性研究グループ 研究リーダー 辻恵子
右:第一三共ヘルスケア株式会社 H&B推進部 開発グループ 牧祐介
このところ、スキンケアの分野でよく聞かれるようになった成分「トラネキサム酸」。一般的に、出血を止める作用、炎症を抑える作用、あるいは湿疹やじんましんなどを抑える作用で知られる。
開発したのは、第一三共の前身のひとつ、第一製薬。第一三共のグループ会社、第一三共ヘルスケアが展開するさまざまな製品にも活用されている。薬用スキンケア製品にも応用されており、美白(メラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐこと)との関係もあるという。
第一三共ヘルスケアの研究員たちは、ポテンシャルを秘めるトラネキサム酸のさらなる研究も推し進めている。研究員たちの真摯な研究開発に込められた思いに迫る――。
トラネキサム酸の働きに着目した研究が進む
第一三共オリジナル成分である「トラネキサム酸」は1965年に医療用医薬品として発売された
トラネキサム酸は、1965年に医療用医薬品として発売されて以来、手術の際の止血や、のどの違和感の症状が出る扁桃炎の治療にも使われてきた。近年、スキンケアの製品でもトラネキサム酸という成分を目にする機会も増えている。
それにしてもなぜ、のどの痛みなどに際して処方される薬としても使われるトラネキサム酸と、スキンケアの製品に関連があるのだろうか。第一三共ヘルスケア H&B研究所 有用性研究グループ 研究リーダーの辻恵子さんは、次のように解説する。
「人の体で出血が起きると、プラスミンというタンパク質が発生します。このプラスミンには、血液を固まりにくくする働き、そして炎症や痛みに関わる物質を誘発する働きがあります。
第一三共が開発したトラネキサム酸には、このプラスミンを抑える働きがあります。そのため、喉の痛み、口内炎、じんましんなど体中のさまざまな炎症を抑えることができるのです」
トラネキサム酸は、炎症に関わる物質を誘発するプラスミンを抑える働きがある
プラスミンは、しみの生成にも関わっているという。仕組みはこうだ。
「プラスミンは紫外線などの刺激を受けると、色素細胞にその情報を伝え、情報を受け取った色素細胞は、しみの元となるメラニンを作り出します。
トラネキサム酸を内服すると、プラスミンを抑制して、しみの一種である肝斑(かんぱん)の改善に関与します。また、トラネキサム酸を肌表面から塗布すると、しみの予防につながります」
トラネキサム酸を内服するとプラスミンが抑えられ、しみの一種である肝斑(かんぱん)の改善に関与する
こうしたトラネキサム酸の働きに着目し、第一三共ヘルスケアでは、抗炎症成分としてのどの痛みや口内炎の薬、総合風邪薬に配合するほか、肝斑の改善薬やスキンケア製品など、さまざまな製品として展開している。
さらに同社は、トラネキサム酸の研究を深めている。H&B推進部 開発グループの牧祐介さんによると、トラネキサム酸の「保湿力」に着目した新しい研究結果も出ている。
「お顔の片側にトラネキサム酸を配合したクリームを、反対側にはトラネキサム酸を含まないクリームを毎日塗布し、12週間後にお肌の水分量の測定を行いました。すると、トラネキサム酸を配合したクリームを塗った部分の水分量が増加したことがわかりました」
トラネキサム酸が皮膚の角層水分量を増加させることを確認
前出の辻さんは「ブルーライトによる肌の光老化と、その抑制に着目した研究」について、次のような研究結果を述べる。
「シャーレに入った皮膚由来の細胞にブルーライトを当てると、ブルーライトに反応し炎症反応が起きます。ところが、このシャーレにあらかじめトラネキサム酸を添加しておくと、ブルーライトを当ててもトラネキサム酸が炎症反応を抑制することがわかりました。
さらに研究により、ブルーライトがしみの元となるメラニン産生促進因子を増加させることと、トラネキサム酸がそれを抑えること。そして、ブルーライトはコラーゲン量を減少させ、トラネキサム酸はコラーゲン量を増加させることがわかりました」
トラネキサム酸にコラーゲン量を増加させる働きがあることが判明
このような研究結果を盛り込んだ製品化への期待は高いが、水分増加や老化予防のメカニズムはまだ解明されていない部分も多い。さらなる研究を推し進め、近い将来、機能性の高い製品開発へとつなげていきたい考えだ。