高齢者をターゲットとした偽動画が、ここ数か月でYouTube上に増殖している。「バス料金が無料」「ゆうちょ銀行が使えなくなる」などのデマは2025年6月下旬にメディアでも取り上げられたばかりだが、それでも同じような動画の投稿が後を絶たない。
これらはAI(人工知能)で大量作成されたとみられ、一部には不自然な外国語が紛れており、複数人のグループで運用されていることを疑わせる痕跡も見られる。
生成AIで作られたとみられる画像や音声
6月下旬、YouTube上で「7月から各地で高齢者のバス料金が無料になる」という偽情報の動画の拡散が、テレビや新聞のニュースを賑わせた。動画は生成AIで作られたとみられる画像や音声を使っており、多いもので20万回以上が再生されていた。
YouTubeで「高齢者 交通費」「ゆうちょ銀行 使えなくなる」などと検索すると、いまだに類似の動画が複数ヒットする。これらは再生回数を稼ぐことで広告収益を得ることが目的とみられるが、誰が作ったのかは不明だ。ほぼ全てが今年に入ってから投稿されている。
一部には不自然な外国語の痕跡がある。ニュースで多く取り上げられた「高齢者の健康」というチャンネルは、現在は既に削除されているが、高齢者をターゲットとしたAI動画の他に、なぜか1件だけ2009年にアップロードされた古い動画があった。「Happy Birthday」と英語でタイトルが入り、外国人とみられる複数の人物が映り込んでいた。
サクラ疑わせるコメント、不自然なベトナム語やハングル
他の類似動画でも、ベトナム語でタグが入っていたり、チャンネル概要欄で不自然にハングル語が書かれていたりなど、日本国外との関連を疑わせる要素がある。
また、一部の動画のコメント欄には「こういう大切な話、テレビでは全然取り上げてくれない」などと"サクラ"と疑われる文言が書き込まれていた。コメント主のチャンネルを確認すると、別の高齢者向けAI動画を投稿している例も見られた。これらの事実から、AIの偽動画のチャンネルは複数人または組織的に運用されている可能性もある。
では、なぜ高齢者を狙った動画が増えているのか。
背景には生成AIの普及と、シニア層のYouTube利用の増加がある。実際にSNSでは、生成AIを使って台本から編集まで動画を簡単に生成するノウハウを伝える情報が多数存在する。その一部には「シニア層向けの動画は広告単価や再生維持率が高い」などと呼びかける内容も。高齢者のデジタルリテラシーの不十分さにつけ込んだ動きは、今後さらに問題化する可能性がある。