たった1粒で命を奪うという強力な合成麻薬「フェンタニル」。この薬物による被害が米国で深刻化している。過剰摂取による死者数は年間7万人を超え、その多くが若年層だ。「史上最悪」と呼ばれる薬物の流通に日本が関係しているという報道が出て、話題となっている。キャンディのようにカラフルなゾンビ麻薬本来、フェンタニルはがんなどの治療に使われる鎮痛薬である。しかし近年、違法に製造された「非医療用フェンタニル」が横行している。米国では、数年前から比較的安価で、一見キャンディのように見える「レインボーフェンタニル」が10代から20代の若者に広がった。一部では、SNSを通じての販売も横行していたという。見た目のカラフルさとは裏腹に、一粒で致死量に達する猛毒だ。米疾病対策センター(CDC)の報告によれば、2022年に合成オピオイドによる過剰摂取死が7万件を超えたという。また、フェンタニルを路上で使用する人が集まる「ゾンビ・タウン」も点在しているという報道もある。グラス駐日米大使「パートナーである日本と協力」こうした事態に米国は強硬姿勢を強めている。トランプ前大統領は再選公約の中で「フェンタニル密輸に関与した者には死刑も辞さない」、さらに大統領再選後は「米国にフェンタニルを流入させているメキシコ、カナダ、中国には大幅な追加関税を課す」と明言していた。そんな中、6月25日、日本経済新聞が「米国へのフェンタニル密輸、日本経由か 中国組織が名古屋に拠点」という独自取材の記事を掲載した。一連の報道によれば、中国で製造されたフェンタニルやその原料となる物質が日本を経由して米国へ送られている実態があり、国際郵便や民間配送サービスを利用して日本に流入しているという。日本国内で消費されるよりも、日本の通関制度の緩さを逆手に取って"中継地"として利用され、危険薬物流布の共犯となってしまっている可能性がある。6月26日、ジョージ・グラス駐日米国大使がX上で「中国からのフェンタニルやその前駆体化学物質の密輸には中国共産党が関与している」と発言。さらに「われわれはパートナーである日本と協力することで、こうした化学物質の日本経由での積み替えや流通を防ぎ、両国の地域社会と家族を守ることができます」と付け加えた。これについて、中国政府は「関わっていない」と主張している。関税交渉大詰めの時期に行われた迅速な対応このグラス駐日大使の発言は、ちょうど米国との関税交渉が注目されている時期でもあったため、日本政府の対応が注目された。6月27日、林芳正官房長官は記者会見で「許可を得ない輸出入や製造、販売、所持、使用などを厳格に取り締まっていく」とコメント。同日、岩屋毅外務大臣も「これまで政府として適切に対応してきた」「違法薬物の製造、販売や許可を得ない輸出入を絶対に許さない」と強く訴えた。厚生労働省は7月1日までに、フェンタニルの原料を取り扱う全国の事業者への指導を通知。3日には、警察庁が「フェンタニル」を悪用した事件が国内で3年前に2件確認されていたが、密輸入は確認されていないと発表。楠芳伸長官は今後も密輸入を「厳格に取り締まっていく」と述べた。こうした動きを受け、グラス駐日大使もX上で「日本経由での積み替えを阻止する上で重要な一歩だ」と書き込んでいる。とはいえ「史上最悪の薬物」と日本の関係について、まだ全貌が明らかになったわけではない。まず我々にできることは、その危険性を共有し、危険薬物に関わらないためのリテラシーを身につけることだろう。
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