和食の献立として馴染みが深い「茶碗蒸し」について、箸でかき混ぜて食べて最後は飲んだところ、汚い食べ方だと言われたとするエピソードが、ネット上で紹介された。
ところが、実は、これが正しい食べ方だと食堂のスタッフがかばったという。ネットで検索すると、この食べ方を支持する和食関係者の投稿もいくつか見られるが、実際のところはどうなのだろうか。
一説では、江戸時代の長崎でルーツが生まれ、老舗も開業
茶碗蒸しの食べ方については、2025年8月初めにX上でエピソードの投稿があった。
この投稿は、13万件以上の「いいね」が付いて、まとめサイト「togetter」などでも取り上げられている。
X上では、木のサジで食べることが多いなどとして、かき混ぜて最後は飲むという食べ方について、「はじめて知りました!」と驚く声が上がった。「プリンみたいにすくって食べてました」といった告白も相次いでいる。
その一方で、かき混ぜて食べることについて、「現代の茶碗蒸しには馴染まない食べ方だ」「ずずって音を立てて飲むのはどうなの?」と首をひねる向きもあった。
茶碗蒸しの食べ方について、ネット上で検索すると、箸でかき混ぜて食べたり飲んだりすることを勧める和食関係者の投稿が、いくつか見つかる。器を縁取りするように箸を回してから、具をかき混ぜ、箸を使ったり器に口を付けたりして食べると、指南する動画もあった。お吸い物や汁物に分類されるが、現在では、箸の代わりになっているのが、木のサジやスプーンだとする指摘も出ていた。
実際、茶碗蒸しには、「正しい食べ方」というものはあるのだろうか?
農水省の食文化室は、J-CASTニュースの取材に対し、「特に承知していません」と答え、日本食を若者に広げていく目的の有識者懇談会でも、そういった議論が出たことはないという。文化庁の食文化担当者も、「食べ方や歴史などは把握していません」とのことだった。
老舗茶碗蒸し店「どのように食べてもらっても構いません」
茶碗蒸しにも使える出汁を出している醬油メーカー各社では、公式サイトなどでその特色や歴史について解説している。
ヤマサ醤油(千葉県銚子市)のレシピサイトによると、江戸時代の1689年(元禄2年)に中国などとの交易が盛んだった長崎で、茶碗蒸しのルーツにもなる「卓袱(しっぽく)料理」が生まれた。その後、伊予松山の藩士であった吉田宗吉信武がその献立の1つの茶碗蒸しを食べて感動し、1866年(慶応2年)に長崎で蒸し物の専門店「吉宗(よっそう)」を開業したという。
一方、茶碗蒸しについて、キッコーマン(千葉県野田市)の公式サイトでは、「だし汁と卵を味わう『汁物』です」と紹介している。
長崎で開業した「吉宗」は、現在も、元祖とされる老舗として同市内で営業を続けている。
その広報担当者は8月6日、取材に対し、茶碗蒸しの食べ方について、店の考えをこう説明した。
「7代目となる社長は、『どのように食べてもらっても構いません。肩ひじ張らずに楽しんでほしい』といつも言っています。お客様は、すくって食べたり、グジャグジャにして食べたりと、お好みの食べ方をされますね。多めの出汁で下の方が濃くなっていますので、味の変化を楽しまれるお客様もおられます。メニューの蒸し寿司にかけて、ネコまんまのように食べる方もおられます」
店では、茶碗蒸しを丼サイズで出しており、食べやすいように、箸と陶器のレンゲを用意している。
かき混ぜて最後は飲むのが正しい食べ方ともされたことについては、こう話した。
「何とも言えませんので、戸惑っています。上方などとは違うのかもしれませんが、お吸い物というのも、聞いたことがありません。蒸したてでは、箸で混ぜて飲んだりすれば、やけどしてしまいます。創業当初は、屋台でしたので、お店の茶碗蒸しは、かしこまって食べる料理ではありません。昭和初期の建物で敷居が高いと見られることもありますが、大衆食堂として楽しんでいただけたらと願っています」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)