悪質ホストクラブを撲滅するべく、2025年6月28日より風営法が改正された。広告で使用する文言のワード規制やランキング発表、及び売り上げバトルの廃止など、禁則事項はさまざま。だが、その中でも物議を醸したのが「色恋営業、及び接客の禁止」だ。
夜の世界での「色恋」とは客に疑似恋愛を仕掛け、お金を遣ってもらうための代表的な「営業テクニック」である。接客には「本営」と呼ばれる、指名客を本当の恋人と見立てた営業もあるが、こちらも色恋に該当するため今回のルールと共に禁止を命じられた。
色恋接客禁止のボーダーライン、どこまでなら許される?
しかし、ルールが改変され、これで夜の街は平和に......とは、なかなかならないもの。色恋営業の線引きは非常に難しく、「何をもって色恋と定義するのか」や「どこまでならOKなのか」がいまだに曖昧だからだ。
水商売は元から、明確なルールブックなど存在しない。接客も在り方も十人十色となると、罰則が強まった現実に頭を悩ませるナイトワーカーが急増している。
2025年8月現在、たとえば接客時に少女漫画のようなセリフを吐き、女性を恋人のように扱いながら「お金を遣ってよ」と言えばルール違反にあたる。そして今回の改変により「あのシャンパンを入れてくれたら、この後アフター行くよ」や「○○円遣ってくれたら、店外デートするか考える」など、交換条件を匂わせる発言も禁止された。
交換条件は「色恋」ではないように思えるが、相手の好意を利用した営業のため新たな風営法に引っかかってしまう。今まで客側の好意や善意を逆手に取り、悪質な行為に及ぶキャストが絶えなかったせいで、これらも一種の色恋営業としてカテゴライズされるのだろう。
法が変わったのなら従うほかないものの、ボーダーラインが不透明である点は否めないと筆者は考える。なぜなら冒頭でも触れた通り、歓楽街は営業に関しての正解・不正解がないからだ。
色恋=決められた言動とは限らないとなると、イレギュラーが必ず発生する。その度に問題提起し、さらに罰則を強めるのか?それとも曖昧なままにするのか?と、筆者は疑問に思ってしまう。
それにキャスト自身が色恋営業を掛けたつもりはなくとも、客側の捉え方次第で状況が一気にひっくり返る危険性も考えられる。
元から水商売には「人たらし」のようなタイプが多い。何気なくした言動に対し、顧客が「色恋だ!」と指摘すれば働き手は一発アウト。夜の街で戦う人は、今非常に不利な立場に陥っているといえる。
線引き自体が難しく、基準も曖昧となると今まで色恋を得意としていたキャストは確実に苦戦する。法の改正により、頭一つ抜きんでた人物以外の生き残りは、今後とても厳しくなるだろう。
色恋営業を楽しむ客の不満
大人になるとたくさんの現実を目の当たりにし、いいことも悪いことも束になってかかってくる。壁にぶち当たれば、誰だって現実逃避をしたくなる瞬間が訪れるだろう。そんな時に非日常を求めて飲み屋へ辿り着く女性は非常に多く、心の寂しさを埋めるのがホストの役割とも言えよう。
色恋営業という疑似恋愛は、まさに「大人の遊園地」の目玉アトラクションと言えるかもしれない。イケメンと会話をするだけで満足する客もいるが、乙女は夢見心地なサービスを受けたいから大金を遣う。トキメキを全く欲していないのなら、そもそもホストクラブに通わないし、シャンパンのおねだりもあっさり断るはずだ。
ひるがえって今回の新ルールは、ある意味、目玉を潰されたようなもの。営業法を狭められたホストだけではなく、夢の世界を楽しむ客からも不満の声が挙がっているのは事実である。
あくまで営業は営業に過ぎないため、真に受けるのは御法度なのだが......。おとぎ話が操り広げられるから、夜の街の経済は回る。その観点では、筆者としては風営法の締め付けが、良い方向に働くとは思えない。
「夜の店などない方が良い」という意見を持つ人々からすると、「個性の消失=客足の減少=規模の縮小」を狙えるため、法の改変は好都合だ。しかし、行き場をなくした女性たちが必ず太陽の下を歩くのか?と問われると、たぶん違う。ある程度の「受け皿」は作っておくべきで、全てをキレイに掃除すればまた別のゴミが絶対に出てきてしまう。負の連鎖となってしまうような事態には懸念する。
そもそもの話、悪質行為をはたらくキャストがいけないのだけれど......。ルール改変が「有難迷惑」にならぬよう、世の中の動き方ももう少し工夫を凝らしてほしいものだ。
【プロフィール】
たかなし亜妖/2016年にセクシー女優デビュー、2018年半ばに引退しゲーム会社に転職。シナリオライターとして文章のイロハを学び、のちにフリーライターとして独立する。現在は業界の裏側や夜職の実態、漫画レビューなど幅広いジャンルのコラムを執筆中。