ことの発端は、木更津市など4市が、2025年8月20~22日に横浜で開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」で、国際協力機構(JICA)から「JICAアフリカ・ホームタウン」として認定されたことだ。4市は、山形県長井市、千葉県木更津市、新潟県三条市、愛媛県今治市。これまで海外との交流もあった都市もあるが、寝耳に水の都市もあり、日本が乗っ取られる、移民が大量流入するなどとSNS上で騒ぎになった。従来からの国際交流の枠内だと確認していたので言及しなかったが......筆者も、TICAD9に関する寄稿などを求められたが、このホームタウン構想は、従来からの国際交流の枠内で、特別なビザなどの措置がないことを確認していたので、言及しなかった。ところが、アフリカの現地メディアや政府による発信に「移民の受け入れ促進」や「特別なビザの枠組みを創設」など、事実に反することが出たので驚いた。すると、これらを根拠にSNSで誤った情報が拡散された。木更津市が「ホームタウン」とされたナイジェリアは特別ビザを発行するなどとしていた22日付の発表を大統領府のホームページから削除した。TICAD9は、20日から23日の3日間で26か国との首脳会談というハードスケジュールだった。ある首相経験者は、このハードスケジュールは「もうこりごりだ」とも語ったほどだ。こんなスケジュールでは、石破茂首相も誰に会ったのか、覚えていないだろう。外交はトトップ同士がじっくり話し合うことに意味があるので、外交のやり方としてもいかがなものか。SNSでプロセスが可視化され、スピードアップしたと思えばいいアフリカ諸国は最後のフロンティアといわれ、中ロなどがしのぎを削っているが、日本が入っていけるのかどうかという根本問題もある。いずれにしても、このハードスケジュールの中で日本とアフリカ諸国との間で、何らかの意思の疎通が不十分だったのだろう。筆者はこの馬鹿騒ぎを静観していたが、もしSNSがなければ、アフリカの現地メディアや政府の発信の誤りは、外務省関係者など一部の人しか知らずに、アフリカ諸国の政府には伝えられるだろうが、こんなに早く削除はされないだろう。従来の一部の関係者の間のやりとりが、SNSのために可視化され、プロセスがスピードアップしたと思えばいい。関係した都市の職員は電話対応に追われ、とんだとばっちりであったが、この際、電話対応をすべて人で行うことも含めてSNS対応を考えるきっかけにしたらいい。++ 高橋洋一プロフィール高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。
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