夏の風物詩として知られる「セミ」の鳴き声だが、今年(2025年)の厳しい猛暑では静まり返り、気温が下がった頃に声が聞こえてくるとして、むしろ「涼しさ」の象徴や目安になっているのでは――。Xで話題を集めているが、その実態とは? 猛暑による生態への影響を取材した。
「『セミも鳴けない』暑さになっています」
気象庁の発表によると2025年8月5日に群馬県・伊勢崎で41.8度が観測され、過去最高気温を塗り替えるなど、今夏は全国各地が猛暑に見舞われている。Xでは8月下旬ごろから、セミの異変をめぐって、このような声が出ている。
「いちばん暑かった時期にはセミが鳴いてなくて変な夏だなと思ってた」
「最近じゃ『やっと蝉が鳴く気温まで下がったね』とか家族で話してる...」
「すでに蚊は夏の風物詩ではなく、涼しくなったら刺されるという存在になってるから、セミもそうなる日は遠くないかも...」
「実際マシな気温かどうかを手軽に知る為の目安にしてる」
セミと猛暑との関係について、J-CASTニュースは26日、防虫サービスなど環境衛生保全に取り組む東洋産業(岡山市)の名物社員で、虫に詳しい大野竜徳さんに取材した。大野さんは「セミも暑くなりすぎると鳴かずに涼しい場所で暑い時間をやり過ごします」と見解を述べている。
具体的には種類によるが、西日本に多いクマゼミは「33度くらいが限界です。30度くらいだと元気に鳴きます」。関東でみられるミンミンゼミは例外で「35度でも鳴きます」と説明した。セミを涼しさの象徴・目安とする見方には、下記のように指摘した。
「昔と比べて異常な暑さなのは間違いありません。文字通り『セミも鳴けない』暑さになっています。セミが鳴けば涼しい日、と感じるのは人の感覚も変わってきたのかもしれません(33度くらいまでは元気にセミが鳴くと考えて、33度は涼しいですか? おそらく20年前だったらこの気温はものすごい暑い日、と言っていたのでは?)。自然を主観的に感じる今の私たちには昔とは違う感覚になっているのでしょう」
セミ自体が少なかった?羽化失敗も多数か
大野さん曰く、そもそもセミが鳴く条件は「日の長さ(光)」「気温」「天気」といった周囲の環境が関係しているようだという。
「日の長さ(光)」に関しては、冬ごもりしていた虫が地中から出てくる「啓蟄(けいちつ)」を類似例に挙げながら、猛暑の夏でも冷夏でもセミの出現時期はだいたい同じだとして、繁殖期のある生き物には「日の長さ」が基本のリズムをもたらす、と説明した。
加えて、セミの幼虫は土の中で育つため、「春から羽化までの間の温度の積み重ね」(有効積算温度)や、適正な雨量で土が柔らかくなったり、羽化直前に水分を取ったりすることも必要になるという。
これらによって、セミの出現時期、そして種ごとにおおよその鳴く時間が決まる。そのなかでも「気温」が高すぎる、「天気」が悪いといった場合は鳴かなくなる、とのことだ。一方、大野さんが知る限りとした上で、気温や土中の温度は十分だったにもかかわらず「今年のセミは少なかったように思います」。特に都市部では少なかったとみている。
考えられる要因は「羽化の時期」の気候だという。
つまり、7月末~8月上旬の(1)雨の少なさ─「そろそろ羽化するぞ!というスイッチが入らなかった」「土中で幼虫が死んでいたという情報もあります」、(2)気温の高さ─「梅雨が明けたことに気づいて外に出てきたところで、エネルギー切れで死んでしまった」ことを指摘した。自身も、朝に羽化を始めたセミを見たといい、このあたりも例年との違いだ。
「羽化の失敗は時々あるのですが、今年は多かったように思います。梅雨が短く、羽化の時期になっても水分も少なく、気温が高かった、というのが遠因ではないかと考えています」「通常は夕方から深夜までには羽化が完了しているはずが、朝になってのそのそ幼虫が出ているのも何かがおかしかったのではないか」
「セミの少子化」可能性も...今年の影響は4~5年後に
「ただし、暑すぎて鳴けないセミも見られているため、声が聞こえないからといってその分激減していたか?といわれると、全滅したわけではないとも思います」(大野さん)
ちなみに、Xでは昼夜逆転したセミの目撃談もあるが、大野さんは「都市部では夜まで明るいので、セミが夜更かしをしてしまい、夜も鳴いてしまう、という現象は昔からあります。こうなると、本来鳴くはずの時間に力尽きてしまっているかもしれません」と分析した。
今年の暑さによる生態への影響は「セミの少子化問題が起こっている可能性があります。この少子化問題の結果は4~5年後にまた羽化してきたものがどうなるかですね」「少ない可能性はある」。また、「自然界全体として、セミを食べる生き物が少しひもじかったかもしれませんが影響は不明です」という。
「セミの少子化は、温暖化の影響で都市を中心に今後も少しずつすすみ、また、セミの南国化(クマゼミの分布が南から広がっています)も進むでしょう」