「体罰」に当たる可能性あり
学校側は保護者に「一定の理解は得られた」としているが、7キロを歩かせるという行為について、法的な問題は生じないのだろうか。
京葉つばめ法律事務所の小林貴行弁護士は、まず教諭が刑事上の責任を負う可能性について、「刑事上の責任の発生、すなわち犯罪とまで言えるかというと、簡単ではないと思います。理論上は強要罪(刑法223条)に当たる可能性が無いとは言えないかもしれませんが、現実的には「強要」にまで至ったとの評価や立証は難しいでしょう」とした。他方で、民事上の責任については問える可能性があるとみている。
「部活動というのは、学校教育の正規の課程の外に位置づけられる、生徒たちの自主的な活動というかなり法的には特殊な位置付けにある活動です。そのため、教員が部活動の「顧問」であるということの意味合いも、多様な法律関係があり得るとは思います。とはいえ、一般的には学校内に設置されているバスケ部という枠組みの中で、教員である顧問というのは生徒に対してかなり強い立場にあることがほとんどです。そうした前提の中で、部員たちが対戦相手の高校まで移動しなければならない状況のなか、バスという適切な移動手段があったにも関わらず、顧問の指示によって、7キロという相当長い距離を歩くことを余儀なくされたことは、不法行為(民法709条)にあたる可能性があります。
そうすると、この指示で生徒に生じた精神的苦痛に対する慰謝料などを賠償する責任が発生します。仮に7キロを歩く過程で部員がけがをした場合などには、その補償についても責任を負う可能性が高いかと思われます」
また、学校教育法で教員には生徒に対して「懲戒を加える」権限が定められているものの、「体罰」はしてはならないものとされているという。小林弁護士は、「今回の指示が間違いなく体罰に当たるのかどうか」については「議論があるのかもしれません」としつつ、7キロという距離を歩かせることは「体罰だと取られても全然おかしくないものと思われます。こうした点も不法行為の成立を支える事情になります」と指摘した。
今回の佐久長聖高校のように私立の場合には、賠償責任は教師と学校法人との連帯責任になるという。(なお、学校が公立の場合には、教師自身ではなく、学校を設置した教育委員会が属する市区町村又は都道府県が責任を負うことになるとのことだ)
なお、部員1人が新幹線で帰った件について小林弁護士は、学校側の言い分が事実であれば、直接保護者に引き渡したほうが「丁寧だった」としたものの、法的な責任は生じにくいのではないかとした。