石破茂首相の後任を選ぶ自民党総裁選は、2025年9月22日告示、10月4日投票の日程で行われることになった。9人が立候補した1年前の総裁選とは異なり、衆院も参院も少数与党、各候補者にとっては党内情勢だけでなく野党との連立、連携もにらんだ総裁選となりそうだ。自民党が大敗した参院選後も、新興政党の支持率はずっと高止まりしている。こうした政界の環境の中で、総裁選候補者は物価高対策ばかりでなく、財政再建や安全保障政策など実質的な政策論議を深める政治体制をどう構築していくか、多党化で混乱する時代に政策をどう具体化していくか、が問われている。
石破氏は「政界再編解散」より「党の分裂回避」を選んだ
石破首相が、7日の退陣表明の直前まで、「解散・総選挙」を検討していたことが明らかになった。「解散」は、「総裁選前倒し」への賛成に傾く自民党内世論へのけん制でもあったが、一方で、右派勢力との党分裂もいとわず、立憲民主党や維新の会の石破氏と近い勢力との連携をにらんだ上での「政界再編解散」と見る向きもあった。
自民党総裁選で4回の敗北を経て、5回目で総裁の座を射止めながらも、党内での人脈やブレーンなどが少なく、「せっかく総理になりながら石破色がまるで見えない」と言われ続けた。一方で、少数与党としての野党との政策協議は逆に「野党との人脈を生かした石破ならではのはまり役」など、皮肉にも「評価」を受けた。その石破が土俵際で、「ちゃぶ台返しの解散」に打って出れば、「保守中道を軸とした与野党再編」「多党化時代への一石」につながった、との見方もあった。
微妙な小泉進次郎氏、林芳正氏の関係
総裁選本命の一人とされる小泉進次郎・農水相は「一致結束する党の形をつくるために、私自身何ができるかを考えて判断をしたい」などと、「党の結束」を強調する発言を繰り返している。一部には「不出馬もある」として、今回は政府与党の要職で経験を積み、他候補の支援に回るとの説も出ている。その際の対象候補が林芳正官房長官で、外相、防衛相、農水相、文科相などの実務経験あり、9日夜には日本維新の会の馬場伸幸元代表と東京都内で会食した。昨年の総裁選とは異なり、今後は、野党をにらんだ動きも出てきそうだ。
ただ、維新の会には最近も、離党者が3人出るなど一枚岩ではなく、他の野党も含め連立交渉は容易ではない。当面は、石破首相時代にあった個別野党との、地道な政策協議を覚悟しなければならないかもしれない。
立憲民主党の存在感は低下するばかり
政党支持率は、9月初めのNHK調査で、自民党が27.9%、参政党が6.3%、国民民主党が5.7%、立憲民主党が5.0%、日本維新の会が3.6%、公明党が3.1%、共産党が2.9%などで、「特に支持している政党はない」が34.8%だった。「多党化」の情勢は変わらず、野党第一党が参政党、次が国民民主党、立憲民主党が3位の順番は固定化しつつある。議席で言えば野党第一党ながら、野党をまとめる力もない立憲民主党の存在感は低下するばかりで、立憲の幹部も焦りは隠せない。
自民党は、1955年に日本民主党と自由党が合同して以来、衆参両院で過半数割れしたのは、1993年(8党派連立政権)、2009年(民主党政権)に続き3度目だ。ただ、過去2回とも、対抗した政権が瓦解して、自民党が政権復帰したのに対し、今回は複数の新興政党を含めた多党化という新たな事態への対応を迫られている。
32年前に崩壊した「55年体制」以来、自民党は公明党との連立を軸に政権を維持してきたが、公明党も支持勢力の創価学会に高齢化が目立ち、先が見えない。
人間でいえば古希(70歳)を迎えた自民党にも、25年を超えた自公連立にも疲労が目立つ中、多党化時代での新たな態勢づくりが急がれる。
(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)