自民党総裁選ではコメを中心とした農業政策も大きな焦点だが、長年コメ問題を取材してきた記者から見ると、各候補の打ち出している政策は具体性に乏しく、先が見えない。足元でコメ価格が再上昇しているのに、バラ色の未来を語ろうとする。「令和の米騒動」にみられる農政の混乱はしばらく続くのかもしれない。新米が出ると再びコメの値段が上がり始めた2025年9月24日、東京・内幸町の日本記者クラブ主催の討論会。記者に「総理になった場合、コメの増産という政策は続けるのか」と問われた小泉進次郎農林水産相は「私は石破政権の農林水産大臣で、いまの農政の方向性を引き継いでいく」と意気込み、高止まりする気配の米価について、「国産米が高すぎて、海外産に(スーパーの)棚がとられ、コメ離れが進む」と危機感をあらわにした。ただ、増産と言っても、コメは原則、年に1回しかできず、どのくらい増産するのかが不透明だ。また、小泉氏が取り組んだ備蓄米を大量に放出して米価を下げる方策はすでに限界が見え始めている。今年6月、「じゃぶじゃぶにする」と随意契約によって低価格で流通業者に売った。確かに即効性があり、米価は5月中旬の4285円(店頭で5キロ当たり、農水省調べ)をピークに下がり続けた。だが、例年より高い新米が出回り始めたことで、8月後半から再び米価が値上がりに転じている。最大の問題、生産調整をどうするかを語らない小泉氏は9月26日の農相としての定例会見で、「踊り場で過渡期」との見方を示し、コメの民間在庫が抱負にあることを強調。コメの流通事業者に冷静な対応を求めたが、新米を農家から買う農協で価格を上げる動きが続く。下がったのは一時期で、平均米価が高止まりする可能性が出てきている。他の候補も、問題意識や将来像は語るが、米価高騰対策や、コメ政策における最大の論点の生産調整(事実上の減反政策)を継続するかどうかという問題に対する言及は少ない。茂木敏充氏は9月10日に開いた出馬会見で、「ころころと政策が変わっては安心して営農ができない。10年先20年先を見据えてしっかり、農政の在り方を確立していかないと」と述べ、需供の正確な見通しを示したり、複雑な流通のあり方を検討したりすることを訴えた。また、栃木県の出身であることを強調。「私は田舎で育った。田んぼには保水能力などの多面的な機能がある。中山間地域でも営農できる政策が大切」と語った。農水省は現在も中山間地域での営農に力を入れており、現状の農政を維持するとみられる。AIを活用、食糧安全保障を強化...良いことばかり言っているが高市早苗氏は9月19日の出馬会見で、国際情勢を背景に食料安全保障の確立を強く訴えた。稲作については、田植えではなく種をまく直播という手法が秋田で実践されていることを紹介。人工衛星や国産ドローン、AIなども使って効率的な農業を推し進めるとした。林芳正氏は18日の会見で「需要に応じたコメ生産による安定供給の確立」と訴えながらも、「麦や大豆を含めて、いま、党でいろいろ議論していただいている。これをしっかり確立して、食料安全保障を強化したい」と述べ、大筋を党の方針に任せる考えだ。小林鷹之氏は16日の会見で、小麦や大豆などの穀物類の自給率が低いことを問題視し、コメに対しても国が支援していく姿勢を示した。また、気候変動で農産物の収穫量が変動していることを挙げ、品種改良にも国が後押ししていくという。各候補は、農家の所得向上を口にしたり、生産者、消費者の双方にとっても適正な価格形成を訴えたりと、そつのない演説が目立つ。しかし、令和のコメ騒動は、気候変動やグローバル化もあってこれまでの農政が限界に来ていることを意味している。その意味でも今回の自民党総裁選は、日本のコメを考える絶好の機会になるはずだ。(経済ジャーナリスト 加藤裕則)
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