サントリーホールディングス(HD)会長を辞任してから約1か月。新浪剛史氏は2025年9月30日、経済同友会の代表幹事も辞任した。この日開かれた同友会の理事会では、代表幹事を継続するべきかどうかをめぐって意見が真っ二つに割れたという。カリスマ的人気の高かった新浪氏に対して、続投に異を唱える声が、予想以上に大きかったことを示している。世間の評判で同友会の発言力が落ちることを危惧この雰囲気を受けて、新浪氏は自ら「分裂を避けたい」と申し出たという。一般的には、サントリーHDを辞めた以上、同友会のトップも辞めるべきだという考えが主流だが、同友会は企業ではなく、個人で加盟するという独特の形態で、この問題を長引かせ、難しくしたとみられる。この日、新浪氏と岩井睦雄・筆頭副代表幹事が、東京都内のホテルで会見した。岩井氏によると、新浪氏は違法性が疑われるサプリをめぐって警察当局の捜査対象となったが、容疑そのものが理事会で大きな議論になることはなかったという。それよりも、この1か月間、別件で新浪氏の個人的な資質を問う報道もあり、レピュテーション(世間の評判)などで同友会の発信力の力が弱まることが懸念されたという。同友会は個人加盟で自由で正論を述べる経済団体経済同友会は社会的に大きな存在だ。経団連と日本商工会議所と合わせて「経済3団体」と呼ばれ、政府の経済政策には大きな影響力を持つ。特に同友会は、企業や業界の都合や思惑に縛られず、自由で正論を述べる経済団体として知られる。それを支えるのが、個人加盟という制度。大企業中心の経団連と、地域の中小企業が主体の商工会議所は、企業が会員となっている。その点、同友会は定款で会員について「進歩的な経済人」「個人としての自由の責任」などと定めており、両団体と一線を画している。実際、新浪氏は日本生産性本部の理事を9月10日に辞任しているが、この日の会見で「サントリーと紐づいた役職のためだ」などと本人が説明した。新浪氏の本音は「代表幹事を続けたかった」 何社かからの経営者オファーを明かす新浪氏は同友会の代表幹事を続けたかったようだ。この日の理事会で新浪氏は「継続させてほしい。十分にできる」「経営者としても何社かからオファーをいただいている」などと、サントリーは辞めても経済人はすぐに復帰できることを訴えた。22人の理事のうち、半数の理事はこの新浪氏の思いを理解したという。ローソン社長からサントリーHDに転身した日本では珍しいプロ経営者としての実力と、また、メディアに向かって自由闊達に意見を述べる能力など、その発信力の強さに期待した。また、逮捕も送検も、起訴もされていない段階で企業と経済団体のトップを辞任しなければいけないという責任の取り方が果たして正しいのか、との思いもあったようだ。理事会で議論が割れたことは理解できるが、経済3団体のトップという地位を考えれば、警察の捜査やサントリーHDの会長を辞めた経緯から、代表幹事も辞することはやむを得ないし、本来ならば同友会としてその結論を出すべきだったと思う。同友会幹部は辞任の申し出に感謝しているのではないか。実際、記者からも「辞任勧告ではなかったのか」との質問も出て、岩井氏が否定する一幕があった。また、難題?「政府の経済財政諮問会議の議員は辞任しない」ただ、会見でまた、大きな問題が浮上した。新浪氏は記者から、政府の経済財政諮問会議の議員について問われ、「辞任するつもりはない」と発言した。「11年間やったが、これはあて職ではなく、それぞれの知見をいかしてほしいということがある。同友会やサントリー(のトップ)ということではない」とあくまで政府が新浪氏個人の経験や能力からメンバーにしているという思いを力説した。10月1日にある諮問会議は「今の状況では迷惑をかける」と欠席する意向を示したが、今度は政府にボールが投げられた形だ。(経済ジャーナリスト 加藤裕則)