運航乗務員(パイロット)による飲酒問題が相次ぐ日本航空(JAL)が2025年9月30日、再発防止策を国交省に提出した。「飲酒傾向管理スキーム及び体制の再構築」など7項目が柱。一連の問題の背景には、経営陣とパイロットの間に「距離」があるとも指摘されており、7項目の中には、経営陣とパイロットとの対話の場を設けることもうたっている。
「飲酒傾向管理スキーム」では、これまでは3段階でリスク評価していたものを、γ(ガンマ)-GTPといった肝機能の数値をはじめとする健康関連のデータを重視して4段階に改めた。乗務前のアルコール検査や血液検査の回数も増やす。再発防止策は外部の専門家の知見も踏まえて見直し、11月に改めて国交省に提出するとしている。
約2200人中6人が「飲酒リスクあり」で乗務外れる
JALでは24年4月に米国、同12月には豪州で、機長が飲酒をめぐるトラブルを起こしている。さらに25年8月に、機長=懲戒解雇=が滞在先のハワイ・ホノルルで飲酒したことが原因で乗務ができなくなり、計3便で最大18時間遅れている。これを受けて国交省は9月10日、JALに対して行政指導にあたる厳重注意を行い、9月30日までに再発防止策の提出を求めていた。
JALは9月30日に記者会見し、主に安全面のトップにあたる「安全統括管理者」を務める中川由起夫常務が、再発防止策の内容を説明した。中川氏によると、これまでの「飲酒傾向管理スキーム」では、「過去の検知事例」「過去の飲酒に関わる不適切事案」「所属部からの情報」「健康管理情報」といった指標に点数を割り当て、その合計から3段階で評価していた。
これに対して10月から暫定運用が始まり、12月の本運用を目指している新基準では、γ(ガンマ)-GTPといった肝機能の数値をはじめとする健康関連のデータも判断材料にして6段階で評価。最もハイリスクな「飲酒リスクあり」と評価された人は、いったん乗務から外すことにしている。その結果、訓練生を除けば約2200人いるパイロットのうち、6人が乗務から外れている。JALは9月10日の会見で、4人を乗務から外したことを明らかにしている。基準を変えたことで対象者が増えたことになる。
乗務再開の判断基準は未定だ。中川氏は次のように説明した。
「弊社だけで決められるような簡単な問題ではないと思っている。ぜひ、外部のアルコールの専門家の知見も得ながら早急に作ってまいりたい。血液検査で(判断基準の)ゾーンが下がったというだけですぐに(復帰)、と言ったような簡単な問題ではないのかもしれない、というのは感じている」
基準値公表すると「もぐる」リスク
報道陣に配られた概念図には、リスクが低い区分の例として「γ-GTP100未満等」という記載はあるものの、具体的な基準値は社内にも公表しない。検査前だけ対策する、といった動きを警戒しているためだ。
「(資料には)『アルコール関連の健康管理指標を総合的に判断』と書いてあるが、もちろん肝機能にかかわるような数値も重要なリファレンス(参照資料)として見ていくので、ここに数値的なことを書いてしまうと、血液検査のときだけ、そこをクリアするというような、言ってみれば『もぐる』ような行為につながりかねず、本来の健康を維持するという目的から逸脱する可能性を懸念している」(中川氏)
中川氏は
「検査だけで決めることの妥当性がないので、基準の持ち方といったところも、社外の外部のアルコールの専門家のご意見も賜りながら改善していきたい」
とも話した。助言を求める専門家としては、アルコール問題への取り組みで知られるASK、リカバリングマインズ、久里浜病院(久里浜医療センター)の名前を挙げた。
「一発アウト」厳罰化にも含み
40歳以上のパイロットは半年に健康診断を受ける必要があるが、さらに2回血液検査を行い、年4回数値が確認できるようにする。さらに、緊急対策として、現時点では搭乗前に3回行っているアルコール検査を、滞在先で1回増やす。「滞在先で飲んでいないことを自ら示す」ことが目的で、出社の18~8時間前に行う。
こういった対策には社内からも不満が出ているといい、中川氏は
「管理強化だけではダメなんじゃないか。といったところの意見はもちろんある」
「運航乗務員だけではなく全社的にも、管理強化が自律性を失わせているのではないかというのは、他の職種からも言われている」
などと説明。ただ、「γ-GTP100未満」という基準を示したことが「自律性につながる」と主張した。
「γだけではないが、この『100未満』というのをひとつ目指して、そこが『健康な状態です』というのを明確に打ち出している。これは自律性につながると考えている」
会社側は厳罰化にも含みを持たせている。野田靖常務は、記者の質問に答える形で、
「(事案を起こしたら即解雇される)『一発アウト』にすべきかどうかというところについては、ここまで社会の皆様にご迷惑をかけする状況においては、厳罰ということは、会社としても正面案に考えていくべき」
などと話した。
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)