東京都台東区・御徒町駅近くで計画されている地上9階建てのモスク(イスラム教の礼拝堂)建設をめぐり、SNS上で賛否の声が広がっている。中には過激な発言も見られる。なぜ、そこまでの議論になっているのだろうか。なぜモスクの建て替えが問題視されるのか「御徒町モスク」(仮称)の建築主は宗教法人アッサラームファンデーションで、既存のモスクを建て替える計画である。2026年の竣工を目指しているという。ところが、この工事について、2025年10月6日に日本保守党の衆議院議員・小坂英二氏が自身のX(旧Twitter)で「信仰の自由を無制限に認めていると、日本は蝕まれます」と投稿。これに呼応するかたちで「恐ろしい」「要らない」といった過激な反応も寄せられた。だが、日本におけるモスクの建設は今回が初めてではない。多民族多世代社会研究所「日本のムスリム人口2024年」によれば、2024年時点で日本には150か所を超えるムスリム礼拝スペースが存在しているのだ。礼拝だけではない...交流施設、精神的なインフラの機能があるたとえば、1935年に設立された神戸ムスリムモスクは、第二次大戦を経ても焼け残った日本最古のモスクである。空襲で神戸の街が焼け野原になった際には、地域住民の避難場所ともなった。1995年の阪神淡路大震災では40人以上のムスリムが身を寄せ合い、近隣の被災者とともに助け合って復興を目指した。また、日本有数の歓楽街・新宿歌舞伎町にある礼拝所「マスジド・アル・イフラース」は、異国で暮らすムスリムたちの精神的な避難場所をつくるために設立されたという。東京都渋谷区にある国内最大級のモスク、東京ジャーミイでは構内の一般公開も行われ、モスクの文化的意義を知ってもらうための交流イベントも定期的に開催されている。このように、モスクは単なる礼拝所にとどまらず、日本社会の中で文化交流の拠点、そしてムスリムにとっての精神的インフラとして機能している。1990年代以降、日本におけるモスクや礼拝施設は増加し、特に首都圏では2000年代以降、既存施設の移転・拡張も相次いでいる。今回SNSで論議を呼んでいる御徒町モスクもその一環だ。日本人だけでは今の社会活動を維持できなくなるモスク建設や拡張が増加している背景には、日本に在留するイスラム教徒(ムスリム)人口の増加がある。1984年に約5000人ほどだった日本のムスリム人口は、2010年に約10万人、そして2023年には約29万4000人に達している(前出・多民族多世代社会研究所「日本のムスリム人口2024年」より)。この背景には、在留外国人数の増加が大きく影響している。出入国在留管理庁によれば、2025年6月末時点の在留外国人数は2024年末から約10%増加し、395万6619人に達しているという。また、厚生労働省によれば、2024年10月時点で日本の外国人労働者数は230万人を超え、前年より12.4%増加して過去最大となっている。特に建設・製造・サービス業、さらには介護や物流など、日本人の担い手が減少する現場で、外国人労働者は欠かせない存在になっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、生産年齢人口は2025年の7310万人から2032年、2043年、2062年にはそれぞれ7000万人、6000万人、5000万人を割り込む見込みで、日本人だけでは今の社会活動を維持できないことが明らかになっている。在留外国人はもはや「一時的な存在」ではなく、隣人であり、同僚であり、社会の一員である。その彼らの信仰や文化を理解することは、対立を避けるだけでなく、共に暮らすための基盤を築く行為でもある。無知や恐れではなく、理解と共生の姿勢こそが、将来の安心と安定を生み出すのではないだろうか。
記事に戻る