AIが職場や働く人々に影響をもたらし、業務の再編や新たな意識が求められる時代に入った。しかし、日本では他の国と比べてAI導入や意識の面で遅れをとっているようだ。
このAI時代に、企業ではどのような人財の活用が見込まれるのか。働き手として身につけるべきスキルや能力、意識とはどのようなものなのか。
その答えのヒントが、グローバルで人財サービスを提供するAdecco Groupが、2025年10月に発表したAIに関する意識調査を含むグローバル年次レポートにありそうだ。
このレポートを踏まえつつ、同グループ傘下アデコ社の代表取締役社長・平野健二氏は2025年11月26日に行われた発表会で、2030年を見据えた中期経営計画と人財活躍のための新たな戦略「未来共創人財プロジェクト ~Future Talent Project~」の発足を発表した。
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アデコ社 代表取締役社長・平野健二氏
AI活用で遅れをとる日本 AIへの不信感が要因?
Adeccoの年次レポート、未来のグローバルワークフォース「Global Workforce of the Future」(31か国、21業界の37500人の働き手を対象)によると、世界的な動向として多くの人々が「AIが今の仕事に非常に大きな影響を与える」と考えている。
具体的には「これまではできなかった業務がAIによって可能になった」という回答は77%、「AIによって、自分自身の仕事の内容が変化した」は60%。「AIによって自分の役割に必要なスキルが変化をしている」が62%となった。
しかし、日本は世界と比べて、AIの導入に遅れをとっていることも明らかになった。「1年以内にAIエージェントが業務フローに組み込まれることを予測している」と回答した働き手は、日本はわずか19%にとどまる一方で、世界では55%が「すでに今の業務に組み込まれている」か「組み込まれるであろう」と考えている。
また、働き手が、強い目的意識を感じている割合が日本では17%(世界平均46%)、スキルを主体的に開発したいとする意識も14%(世界平均34%)と世界と比べて後れを取っていることが分かった。
日本でAIの導入や活用が遅れている理由としては「信頼感の欠如が原因になっている可能性がある」(平野氏)という。同調査によると、働き手が「AI対してどの程度信頼を抱いているか」という項目で、10点満点中、世界平均では4.5ポイントだったが、日本はわずか0.9ポイントという結果だった。
「未来対応型の働き手」日本では16%
AI時代に対応できる「未来対応型の働き手」とは
平野氏はこうした調査を踏まえて、AI時代に対応できる人財を『未来対応型の働き手』と呼び、「こうした人財を増やすことが不可欠だ」と話す。
「未来対応型の働き手」の定義として「環境の変化に柔軟に対応できるような適応力をもち」「AIをはじめとしたテクノロジーに精通し」「変化を積極的に受け入れる」人財だという。同調査によると、こうした人財は、現在、世界平均では37%、日本は16%だという。 今後、未来対応型の働き手を輩出していくという目標を踏まえて、アデコは2030年までの成長戦略を策定し、「未来共創人財プロジェクト」を立ち上げる。
今後の日本の雇用・労働環境に目を向けると、生産人口は右肩下がりとなり、2065年には2020年に比べて2900万人が減少するとされている。デジタル領域は成長分野であるものの人財は不足し、地方の人手不足が深刻化することが予想される。アデコはそうした社会課題に対応するために、いくつかの領域での人財の強化を図っていくとしている。
外国、デジタル、地方創生人財との共創へ
アデコ社 代表取締役社長・平野健二氏
代表的な領域として、外国人財向けビジネスの拡大がある。外国人労働者は2040年には688万人、2070年には939万人に増えることが予測され、国内の人手不足を補う労働力となっていく。
平野氏は「外国人財に、就業の機会を提供するだけではなく、スキル開発、キャリア開発、就業前支援、生活環境の支援も含め、働きやすい環境づくりをサポートしていきたい」と話した。
次に、デジタル人財の強化とリスキリングの推進があげられる。今後、事務系人財が過剰となる一方で、IT系人財は170万人不足することが見込まれており、成長産業への労働移動の促進が課題となっている。事務職で働いている人財を、さまざまなリスキリングの機会の提供をしてデジタル人財の育成を強化していくとした。
企業、教育現場、働く側が協働しAIと向き合う
アデコ社 代表取締役社長・平野健二氏
そして、地方創生への貢献の領域では、特に人手不足が深刻化する地方が抱える社会課題の解決、企業活性化起業人の派遣などを進めていく。「地方にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)センターを新設することで、地方での雇用創出に貢献できるような取り組みをしていきたい」(平野氏)という。
平野氏は「今回立ち上げた未来共創人財プロジェクトを通じて、デジタル、外国、地方などの多様な人財が、より未来対応型の働き手となれるように支援し、企業や社会と共に、多様な人財が活躍できる土壌を作っていきたい」と意気込む。
発表会ではその後、「経営と現場、両輪から考えるAI時代に人が活きる未来の組織とは」をテーマに、平野氏と東京工科大学コンピュータサイエンス学部教授・中西崇文氏がトークセッションを行った。
アデコ社・平野健二氏と東京工科大学教授・中西崇文氏のトークセッション
AIとの向き合い方や企業におけるAI活用などをテーマに意見を交わし、「企業内ではトレーニング機会を提供しAIを使える人財を育成する」(平野氏)、「大学などの教育機関では生徒に自由にAIと触れ、使い倒してもらいたい」(中西氏)と語った。
AI時代を生きるには、企業や教育現場などでの人財育成や積極的なサポートとあわせて、働き手側の意識改革や新しいスキル開発への取り組みも求められている。